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Like a dog 2

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4.ハッピーバースデー



誕生日の消灯後、遠慮がちに戸口のドアがノックされた。
ベッドサイドのランプの明かりで本を読んでいたドラコは、ふぅと少しため息をついてパタンとページを閉じると、素足にルームシューズを履いてドアへと向う。

ノックした相手を確かめることすらせずに、躊躇なく扉を開けた。
「ポッター、言っただろ。この部屋に入るときはノックは無用だって。どうしたんだ、忘れ……た、の……か?」
ドラコの声が急にしどろもどろになる。

「お前、それはどうした……?その姿は……」
慌てて相手を中へと招き入れる、ひざを折り腰を落として、相手と同じ目線に合わせる。
じっくりと視線を相手の頭の先から足の先まで、何度も往復してゴクリと唾を飲み込んだ。
「なっ……、なんてかわいいんだ!今日は特別だ!ものすごくラブリーでスイートだ。まるで薄茶色の綿菓子みたいだ」
目を潤ませその犬を抱き上げ、「かわいい」という褒め言葉をいつものように連発して、そのほほに頬ずりをする。

犬は巻きが強い尾をパタパタと横に振る。
全身を長い毛で覆われ、それがふんわりと美しく開立して、黒々とした目はまん丸で、キュンと伸びた小さな鼻は黒く濡れて湿っていた。
そのフワフワとした抱き心地に自然とドラコの顔は緩みっぱなしになる。

彼は大型犬が大好きだった。
実家の館で自分と同じほど大きな犬を飼っていて、物心ついたときからいっしょに過ごし、どこへ行くにも行動を共にするほど、まるで兄弟のようにその犬を大切にしていた。
しかし犬のペットの持ち込みを禁止しているホグワーツの寮生活では、大好きな犬とはどうしても別れなくてはならない。
先日までいっしょにいたペットがいないことに肩を落としていたけれど、その穴を埋めたのはこの犬だと言えた。

ハリーが変身していようが、犬好きのドラコには関係がないことだ。
―――いや、最初は気にしていたけれど、一度その姿を見たら理性や戸惑いなどすぐに吹っ飛んでしまう。
それほどこのアニメーガスで変身した姿は、どうしようもない程かわいかった。

ハリーはどちらかというと、小型犬のほうが得意なようだ。
小柄な体型にかわいいぶった仕草で、小さな舌を見せて小首を傾げて見上げると、もう相手はイチコロだった。

何しろドラコは小型犬にあまり馴染みがなかったし、あまり触ったこともない。
それが目の前で盛大に尻尾を振っているのだ。
メロメロにならない訳がない。

しかもとても仕草がかわいいし、無駄吠えはする訳でもないし、ドラコに抱かれればいつまでも大人しくその腕の中で尻尾を振り続けた。
飽きて手から逃れようとかは一切しない。
本当にドラコの成すがままだ。
「こんなかわいいものはいない」というのがドラコの口癖だった。

早速いつものようにそのふわふわの手触りを楽しもうと指をその中にもぐりこませる。
頭をなでて、鼻先にキスして、喉の下を揉むように愛撫した。犬はいつものように気持ちよさ気に、ブルブルとその体を小さく震わせる。
指をブラシのように曲げて毛先を軽くブラッシングするように梳いていくと、背中に引っかかりを覚えた。
ムクムクの毛の中に何かがある。

「―――何だ?いったい何があるんだ?」
ドラコは小首を傾げつつ、深い毛の中に指先を突っ込むと、背中に背負うような格好で小さな何かが布に包まれ、背中に括り付けられていた。
その荷物を背負った姿でさえいじらしくて、ものすごくいい。
「ほんと、可愛すぎだ!!!」
ドラコは力いっぱい抱きしめた。

犬は嬉しそうに尻尾を振ってばかりいたけれど、やがて相手のほほをペロペロと舐め始めた。
クーン、クーンと小さな鳴き声まで漏らし始める。
ほとんど鳴かない子犬だったので、驚いたように顔を上げると、犬はブルリと背中を揺すった。

「……ああ、そうか。重たいんだな、その荷物が。下ろして欲しいのか?」
ワン!と小さく吠える。
ドラコは頷き、抱き上げていたからだを床に下ろすと、そのバンダナのようなもので括られた荷物をほどいた。
布を開くと大ぶりのガラス瓶にメッセージカードが添えられている。


『お誕生日おめでとう、ドラコ。このプレゼントを君に。
ハリー・ポッター』


簡潔なお祝いの言葉が気に入った。
今日は誕生日ということもあって、朝から結構な数のバースデープレゼントやカードが、ドラコの元へと届いていた。
気難しくて気位が高い噂を信じて、精一杯センスがいいものや、美辞麗句で飾り立てた手紙ばかりで、いささかうんざりしていたのだ。
あまり高価すぎる贈り物だと、いくらなんでも無視することは出来なくて、一応礼状を書かなくてはならない。
華美すぎる手紙は理想ばかりを追っているようで、現実のドラコにではなく自分自身に向かって語りかけているような感じで、あまりその手の手紙は好きではなかった。

だからこの簡潔で飾り気がない真っ直ぐなメッセージが気に入ったのかもしれない。
それにこの目の前にいるかわいい子犬が運んできたのだし―――。

軽く笑って瓶を手に取る。金色の光を集めたような透明で少しねっとりと粘着質のものが入っていた。
「ゼリーかなぁ?何かのシロップかな?」
つぶやきつつ、そのふたを開くと、指を躊躇せずに中へと差し込む。
水よりはずっと粘度が高いそれを掬い取ると、爪先から滴をポタポタと垂れた。
クンとそれの匂いを嗅いでみる。
薄っすら甘い匂いは嗅いだことがあるけれど、よく分からない。

濡れた指先を口に含むと、両目を驚いたように少し見開いた。
「蜂蜜?―――何か香りがするよな……。花の香りだ。何だろう、思い出せないけど」
首を傾げていると、下から見上げているクリクリとした黒い瞳とぶつかる。
何も言わずじっとそんなドラコの一連の仕草を見続けていた。
自分が差し出したプレゼントが気に入ってくれたのかどうなのか、とても不安そうな顔付きだ。

ドラコは身を屈めると、ニッコリと笑った。
「おいしいよ。とっても気に入ったよ。ありがとう」
そう言うと相手の頭を何度も撫でると、犬も尻尾を派手に振って嬉しそうに小さなジャンプまで繰り返して喜びを相手に伝える。

ドラコはそんなかわいい姿に見惚れたまま、再びその蜂蜜に指先を突っ込む。
そしてそのまま相手に蜂蜜がたっぷりと付いた指先を差し出した。
「君も舐めてみるかい?とてもおいしいから」
差し出したそれを舌先で少し舐めてその味を確かめると頷き、ペロペロと小さな舌で舐めていく。
爪先を舐め、指の腹を舐め、その裏側も舐めて、その柔らかな舌は何度も何度もドラコの指を舐めていく。

「クッ!くすぐったいよ」
クスクスと笑い声を上げて身をよじると、余計にじゃれるように舌でドラコの手の全体を舐めていく。
手のひらも手の甲も、手首も、もっと上のほうまで舌で舐められる。
ひじの内側まで舐められると、くすぐったさの中に気持ちよさが混じってきていることに、ドラコは目を見開いた。

(――――ええっ、待てよ!)

一瞬にして顔が引きつる。
(いったい何でこれで気持ちよくなるんだ?!)
変な疑問に顔が強張った。
別に自分はそういう趣味はないはずだ。
犬は好きだけど、そういう意味で好きなわけじゃない。
作品名:Like a dog 2 作家名:sabure