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番犬男と黒人形

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 テーブルの下から中々抜け出せないまま、ラッツェルはそのまま会話を続けた。
「何?じゃあお前が盗んだんだな、返してくれ、それは父の・・・」
「何言ってるのです?あれは元々私のもの。返してほしいのはこちらのほうです」
 ようやく抜け出したラッツェルが目にした物は、確かに人だった。
「君は・・・誰?」
 ラッツェルは眉間にしわを寄せて問いかける。
 目の前には、左目を漆黒の眼帯で隠し、深いネイビーブルー色の礼装を身にまとった
 15歳くらいの少女が人形を抱いていた。
「人に聞く前に、まず自分の身分を説明したらどうですか?」
 見た目に反した落ち着いた声で問題返しをおみまいした彼女に呆然としながらも、ラッツェルは気を取り直し、咳払いをして自己紹介を始めた。
「すまなかったね、僕はラッツェル=ベンワーク。その人形を僕に送ってきた主である、
 ヒュム=ベンワークの息子だ」
 ぴくりと耳を機用に動かして、少女は興味を持ったようにラッツェルに近づき、匂いを嗅ぎ
 だした。
「なっ・・・何だい?」
 あたふたするラッツェルは、彼女の行動に驚いた様子だった。
「あなたからヒュムと同じ匂いがします」
「さて、教えてもらうよ、君は誰だい?」
「私に名前なんてありません」
 あまりにも淡々とした返事に拍子抜けしたラッツェルは、隣にあったイスにもたれかかる。
「名前が無い?一体どういうことだい」
 吸い込まれそうになる彼女の青い瞳が窓から差す光で淡い空色に輝いている。
 ラッツが思わず見とれてしまうほどだった。
「しいて言うならあります」
「どっちなんだい・・・」
 思わずがくりと首をおろす。
「もらった名前なんていちいち覚えていないですから」
「覚えてないって、自分の親がつけたんだろう?忘れるはず無いじゃないか」
「親はいません」
 その一言に疑いの目を光らせるラッツ。
 その時、玄関のベルが鳴った。
 ラッツが扉を開くと、そこにいたのは見覚えの無い紳士が背筋を真っ直ぐ伸ばして待っていた。
「失礼ですがどちら様ですか?」
「突然の訃報、失礼いたします。先ほど、バトン様がお亡くなりになられたので、親戚である
 ベンワーク様にお伝えしようと」
「そんな・・・バトンさんは、さっきまで僕と一緒に普通に話してたはずです!」
「申し訳ありません」
 黒服の紳士は、お辞儀をして玄関に停めていた馬車に乗り込み屋敷の敷地内からゆっくりと
 出て行った。
 ラッツはいきなりの出来事で思考が追いつかないようだった。
 膝から崩れ落ちると、呆然とする彼の目から生暖かい涙が頬をつたった。
「ラッツ、あなたの知り合いですか?」
「ああ、親戚のおじさんでね、昔から僕の面倒見てくれていた人なんだ。そんな人が何で」
 泣き崩れるラッツを、彼女は冷酷な目つきで見下ろしながらぼそりと言葉を漏らした。
「人にはいずれ死というものが必ず訪れるもの。仕方の無いことです」
「まるで君が人間じゃないような言い方だね」
 ぐすりと鼻を赤くしたラッツは、皮肉っぽく言い放った。



            Ⅱ



 街中を爆音と共に車に乗った男女2人の光景を、街人たちは兄妹か何かと間違えるだろう。
 やたらととばす車が向ったのは、バトンというご老人の住む屋敷。
 しかし2人がバトンの死を知ったのは、つい20分ほど前のことだった。
「ラッツ、あなたまさかバトンの屋敷に向っているのですか?」
 助手席で人形を握り締めている眼帯をつけた15歳ほどの少女がラッツという青年に、動揺しているかのように唇を震わせて問う。
「ああそうだよ、じいさんの死因も気になるしね」
 そういうと、聞こえてくるのは再び車のエンジンの音だけになり、バトンの屋敷に着くまで
 しばらくの間沈黙が続いた。
「さあ着いたよキア、降りるんだ」
 キアと呼ばれた眼帯少女は渋々ながらも車から降りると、目を鋭く研ぎ澄ませ何かを感じ
 とったのか、そのまま無言で屋敷に入り込んだ。屋敷の中はほんの30分前とはかなり雰囲気
 が変わっていた。何やら妙な空気が漂っているようだった。
 室内は昼間なのにも関わらず真っ暗で、左ポケットに入れていたカルティエのガスライターを
 手にし、ほのかな明かりを照らし出す。
「キア、あまり室内を荒らさないほうが・・・」
「ラッツ、この屋敷、死霊の匂いがします」
「死霊って?」
 溜息をついてキアはジト目でラッツを哀れむような口調で答えた。
「死んだ霊、言葉通りです。解りやすくいえば悪霊みたいなものですよ」
「悪霊?そんなものがこの世にあるのかい?」
 呆れた表情でキアは返事もせずにどんどん奥へと進んで行く。
 死霊とは、死んだ人間がある人物によって再び生み出される霊のことだった。
「まってくれ、まだ僕は何も知らないのに、どうしてそんなに急ぐんだ?さっき聞いたけど、
バトンさんは事故死だって・・・」
「そう、じゃあ表に出ていてください。そんなあなたじゃここは危険すぎます」
 冷たく言葉を放つキアにムッとしたラッツは、意地でもキアについて行くことにしたのだった。
「ジェームズ=バトン彼は大きな財を成したそうですね、そのために削った命はいくつでしょう、
 十・・・それとも二十・・・・・。多いですね」
「バトンさんは人を殺すような真似は絶対にしない、キア、君は何か間違えてないか?」
「何をです?間違えてるのはあなたのほうじゃないですか?何も解っていない。自分の目指す
 幸せな未来のために、何人もの犠牲を払っても構わない人間もいるのです。切り捨てられてき
た人間は、死霊となって大元を殺しに来る。バトン本人は知らないだろうけど、彼の軽はずみな判断で職にあぶれた人たちが、生きる術を無くして、大方自殺でもしたのでしょう」
 淡々とカルトチックな話しをキアは続けた。ラッツは裏切られた気持ちになりつつあった。
 今まで優しくしてくれたおじさんが、そんな過去を持っていたことにショックを隠せないでいたのだ。キアがリビングの端の角に差し掛かったときだった。
「その死霊に、バトンさんは殺されたわけか、でもちょっと待ってくれ、重大な事をまだ僕は
聞いていない、君は一体何者なんだ、人形だの死霊だの・・・」
「今のあなたに教えるほど、私はあなたを信用していません。あなたが契約者なら話は別ですが」
「契約・・・・・?」
 その時だった、廊下の奥からバトンと思しき老人の姿がこちらへとゆっくりと歩いてきている
 のに気がついたのだ。しかしラッツは不用意にその男に近づいたせいか、キアに大声で呼び
 戻された。
「何だキア、この人がバトンさんだ、良かった生きてたんですね」
「バカラッツ!早くそいつから離なれてください!」
 今まで冷静沈着だったキアが初めてラッツに罵声を浴びせた。
 ラッツが振り向くと、バトンの大きく開いた口が目の前まで迫っていた。
「うわああ!」
 とっさに身をかがめてかわしたが、恐るべきはバトンのそのスピードだった。
 ふと目を逸らせば、バトンの姿はもうそこにはなかった。
「言ったでしょう、あなたは不用意過ぎます。死にたいのですか?」
作品名:番犬男と黒人形 作家名:みらい.N