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棄てられた男

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棄てられた男




新しい恋人ができたために、君原修一は先月から長沼結衣と会っていない。コンビニで働く彼女と会わないために、君原はその店舗へ行くことは避けていた。
 結衣と別れても、そこへはもう行けないだろう。
 彼女の働くところは、君原の家から最も近いコンビニである。その店舗で従業員を募集していることは、君原が彼女に教えたのだが、そうしたことを彼は、今になって後悔していた。そのために遠いコンビニへ行かざるを得ないので、不便この上なかった。
 彼女と久しぶりに待ち合わせた場所は、駅の近くの居酒屋である。
 午後九時調度に君原がそこに行くと、結衣は既に待っていた。君原の顔を見ると、彼女は哀しそうな表情を見せた。君原も笑わなかった。結衣がジャージー姿だったこともあるが、憂鬱な気分のせいで、笑えなかった。
「何時に来たの?」
 椅子に座りながら彼は訊いた。
「着いたばかりよ。修ちゃんは相変わらず時間を守るひとね」
「そうかな?遅れたこともあるんじゃないかな」
「ないよ。一度も」
「そうかなぁ」
 店員が来たので君原は結衣の意向を確かめてから、生ビールとフライドポテトを注文した。
「何か話したいことがあるって、云ったよね。何?」
「新しい恋人について……」
「彼のこと、わたし云ったかなぁ。何か、におわせた?」
 と、いうことは、フラレ役は君原が演じることになったというわけだ。
「ほんとうは、ビールなんて飲んでる場合じゃないね」
「せっかく注文したんだから、飲んで行きましょう」
「相手の……新しいカレシは……」
「訊かないで。出会いがあるから別れがあるの。早く立ち直ってね」
「ありがとう」
「でも、拍子抜け。もっとゴネられるかと思ってた」
「何で、最後の晩にジャージー?」
「しかもすっぴんだしね」
「未練を残さないように、との思いやりかな……でも、良かったな」
 ビールのジョッキとフライドポテトが来た。
「何が?どう、良かったの?」
「実はね、おれがふった相手は……」
「修ちゃんがふった相手?」
「ごめん。何でもない。気にしないで」
「気になるわ。ふった相手が、その相手がどうしたの?」
「まあ、とりあえず乾杯。冷えてるうちに」
「釈然としないなぁ」
「とにかく、終わった恋に乾杯」
 君原がジョッキを傾けた。半分飲んでから云った。
「結衣ちゃん。健康維持をよろしく。事故にも気をつけてね」
「はい。ありがとう」
「飲んでよ。少しでも飲んでよ」
「ええ、じゃあ」
 ふたりでビールを飲んだ。
「一年ちょっと、だったね。愉しかった。ありがとう。ずっと、忘れないよ」
「ありがとうございました。わたしも、忘れないわ」
 支払いは結衣がした。ふったほうが払うという、決まりがあるようなニュアンスだった。
 君原は居酒屋の前で別れたあと、心の中で笑った。ふられた、と思うと、嬉しくはなかったが、肩の荷がおりたような気分だった。
 君原は過去の二度の恋愛に於いて、別れたあとで二度とも、相手だった女性は早世していた。ひとりは病死、もうひとりは事故死だった。共に君原がふった。だから、二度とふってはいけないと、ずっと以前に、心に決めていたのだった。
 今度の新しい恋人とは、だから、今度こそ、できるだけ早く結婚したいと、思っていた。その次の新しい恋人と出会わないために。
作品名:棄てられた男 作家名:マナーモード