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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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傀儡師紫苑アナザー

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CASE 06‐渦潮の唄‐



-1-

 ――助けて……で頼れ……あなた……だけ……。

 不思議な声を聞いたような気がして、愁斗は深夜に目を覚ました。
 母を思い出す優しそうな女性の声だった。
 しかし、あの声には緊迫した雰囲気も言葉からにじみ出ていた。
 あの声の主はいったい?
 ベッドから降りた愁斗はカーテンを開けて窓の外を見た。
 町は暗闇に覆われ、空からは小さな雪が舞っている。
 季節は12月の冬。
 先日、終業式を終えて、中学は冬季休校に入った。
 クリスマスは過ぎ、町は師走の慌しさに溢れている。
 それでも夜は静かなものだ――魔性以外は。
 なにか胸騒ぎを感じて、愁斗はすぐにテレビの電源を入れた。
 生放送の映像が飛び込んできた。
 チャンネルを回しても、回しても、その映像が映し出された。
 深夜だというのに、どこの局も同じ映像を流していた。
 ――大津波による被害。
 地震大国日本はそれに伴い、津波の被害も多い。だからこそ津波には慣れているはずだった。にもかかわらず、今回の大災害は起きてしまった。
 理由は地震など起こらなかったからだ。
 自然災害でもなかった。
 ニュースのライブ映像は暗黒の中で、包囲ライトに照らされた怪物を捕らえていた。
 大航海時代であればこう例えられた――シーサーペント。
 それは海に棲む大海蛇、またはドラゴンと称されるものだ。
 世界には未確認生物の情報も多く、日本にも水に棲むものといえば池田湖のイッシーなどがあげられる。けれど、あれは未確認であり、その正体を捉えた証拠映像はない。
 怪物などという存在は人々の幻想であり、本当に現れるなど想定していない。やはり怪物はどこかゲームや夢物語の住人でしかない。
 それが全国に生中継されてしまったのだ。
 時計の針は深夜二時を回っているが、この時間ならばテレビを見ている視聴者も多いだろう。ネットの住人ならばなおさらだ。
 ただし、愁斗に動揺はない。
 そのような存在がいることは知っている。現にそれらを使役し、近い場所で触れ合うこともある。
 いや、しかし、多くの人々の目に晒される日が来ることは想定外だったかもしれない。
 それも現代日本。
 突如、テレビから巨大な咆哮が聴こえた。人々が知る得る生物を遥かに凌駕した咆哮。画面の前でどれだけの人が身を凍りつかせたことか。
 そして、謎の生物は荒波を立てながら海に帰っていったのだった。

 翌日の新聞やニュースはこぞってその話題を取り上げた。
 世界にも今回の騒動は飛び火することとなった。
 当然の如く、特集番組が組まれ、肯定派と共に多くの否定派を出した。
 例え全国で放送されようと、国営放送で生中継されても、やはりそれはにわかに信じがたいことだった。否定派が現れるのは当然である。
 宗教団体は世界の終わりを訴え、カルト団体は我らの神が顕現したと叫ぶ。
 国会では過去に宇宙人に対する防衛作が答弁されたことがあるが、そのときの中継に国民は猛烈な批判をした。今回の場合はまだなにかわからないが、人智を超えた存在であることは確かで、国も本腰を入れて問題に取り組みしかなかった。しかし、誰もが手をこまねいているというのが現状だった。
 深夜の大津波以降、謎の怪物はその姿を消してしまった。
 まるで悪い夢だったかのように、海は静かだった。
 愁斗はあれから一睡もしていない。次のアクションがないか、それを待ち構えていたが、結局なにも起こらなかった。
 細かく起きたことをクローズアップするなら、翔子からのメールが届いたくらいものだ。
 内容は謎の生物についての驚きについて。そして、不安。
 彼女は愁斗と関わることによって、多くの超自然現象に立ち会うことになった。
 傀儡師の戦い、召喚される〈向こう側〉の存在、現実ではありえないと思っていたことの数々。それを体感していても、今回の騒動は衝撃的だったらしい。
 愁斗は翔子へのメール返信に『わからない』とだけ返した。
 まだ愁斗にもなにもわからなかった。
 ダイニングキッチンで遅い朝食の用意をしていると、愁斗のケータイに通話の着信があった。
 すぐに愁斗は通話に出る。
「もしもし?」
《愁斗クン、ニュース見た?》
 通話の相手は姫野亜季菜だった。
「海から現れた怪物に関してですか?」
《そうよあれ、スゴクない?》
「僕には関係ないことですから」
 気になる事件であるが、首を突っ込む理由はない。
《えーだって、愁斗クン専門家でしょう?》
「違いますから。あのような存在ついて、僕は人よりも知識があるかもしれません。しかし、それが事件に関わる理由にはなりませんから」
 ケンカが強いからと言って、ケンカの強い奴を見ると誰構わずケンカをするわけではない。モンスターハンターというわけでもなく、正義感で事件究明をしたいわけでもなく、愁斗には事件と関わる理由がやはりない。
 それでも亜季菜は食い下がった。
《アタシはあんな怪物がいることをずっと前から知っていて、それを周りに口外できずにウズウズしてたのよ。それが怪物というものが公の場で認知された今、大きなビジネス市場が開けたわけよ、わかる愁斗クン?》
「なにを企んでるんですか?」
《生け捕りにしましょう!》
「…………」
 少し無言になった愁斗は、なにも告げずに通話を切った。
 深いため息と同時に、再び亜季菜から着信があったが、愁斗は構わずケータイの電源を落とした。
 テーブルについて朝食を食べようとすると、玄関のチャイムが執拗に鳴らされた。最初は無視をしようと、黙々と朝食を進めていたが、チャイムは鳴り止まずに押すペースが速くなっていた。
 ついには玄関を叩く音が聴こえ、近所迷惑を考え愁斗は仕方なく玄関のドアを開けた。
 愁斗は無表情で客を出迎えた。
 相手は玄関の前にミニスカから覗く長い脚を仁王立ちにして、顔が少し怒ったように眉が吊り上がっている。
「愁斗クン、なんでもっと早く出ないわけ?」
 亜季菜だった。
「少し忙しくて手が離せませんでした」
「ケータイの電源も落としたでしょ?」
「電波状況が悪くなっただけですよ。僕の部屋ではよくあること亜季菜さんも知ってますよね?」
「……まあいいわ。お邪魔するわよ」
 ハイヒールを脱ぎ捨て亜季菜はドガドガと部屋に上がり込んだ。
 勝手に人の部屋にと怒りたいところだが、愁斗の資金源はすべて亜季菜から出ている。この部屋の借主は架空の人物だが、元を辿ればいつかは亜季菜にたどり着く。
 リビングで亜季菜はテレビをつけた。
 テレビはどこも同じニュースをやっていた。
 あの事件が世紀の大ニュースになることは間違いないだろう。
 テレビ画面には自衛隊が出動している様子が映し出されていた。
「ついに自衛隊が出動ですって。小耳に挟んだんだけど、アメリカが自分たちも調査したいって日本政府に圧力かけてるらしいわよ」
「当然でしょうね。あのような存在が存在しているとわかれば、どこの国も注目します。実用性の低かった生物兵器も研究が盛んになるかもしれません」
「そうよね、そうなったらなんとしてもウチの会社が市場を独占したいわよね」
 亜季菜には実業家の一面があり、職種は主に?貿易関係?である。