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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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傀儡師紫苑アナザー

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 壊れたフェンスの下を覗こうとしたが、足が竦み叶わなかった。もし、本当に死んでいたら――香穂が死んだことを認めるのが怖かった。
 結局、奈那子は香穂がどうなったのか自らの目で確認できないまま、逃げ出すことしかできなかった。
 校内に入り、廊下を全速力で走った。
 誰にも見られてはいけない、こんなところを見られてはいけない。そう思いながら奈那子は下駄箱に急いだ。
「中嶋、まだ残っていたのか?」
 後ろから声をかけられた。国語科の教師の声だ。だが、振り向けなかった。
 奈那子は声を無視して逃げた。
 下駄箱に着いてから、奈那子は声をかけられたのになぜ逃げてしまったのだろうと、酷く後悔をした。あんな不自然な行動をしたら疑われるではないか。言い訳か何かしておくべきだったのではないか。
 靴を履き替えた奈那子は再び走った。今は一刻も早く学校から離れたかった。
 香穂が落ちた場所は学校の裏庭だ。あまり人の行く場所ではないが、明日には絶対発見されるに違いない。
 無我夢中で正門を飛び出した奈那子は誰かとぶつかってしまった。
「きゃっ、ご、ごめんなさい」
 相手のことを少しだけ見て奈那子は逃げた。
 動揺して奈那子は無我夢中で走って逃げたが、ぶつかった人物があまりにも特殊な格好をしていたので強く印象に残ってしまった。
 大きな鍔のある黒い帽子から白銀の髪が胸元まで流れていて、身に纏っているものは黒いインバネスと呼ばれるコートだった。あの人物の全身は全て闇色に包まれていた。
 女性のようだった気がしたが、もしかしたら男性だったかもしれない。服装が強く印象に焼け付きそこまではわからなかった。
 ぶつかってしまった人物のことを考えている間は香穂のことを忘れられた。だが、すぐに再び香穂のことを思い出してしまう。
 学校からだいぶ離れたところで、奈那子は走るのを止めてゆっくりと歩いて自宅に帰ることにした。
 走ったせいで余計に心臓が激しい鼓動を打っている。苦しくてどうしようもない。
 息を整えながら奈那子は今後のことについて考えた。だが、冷静になれない。感情的になって頭が混乱している。
 気がつくと奈那子は自宅の前に立っていた。
 玄関に立った奈那子は大きく深呼吸をしてからドアノブに手をかけた。
 いつもどおりにしようとしたができず、奈那子は階段を駆け上がり自分の部屋に飛び込んだ
 部屋に入った奈那子は電気もつけずに、カーテンも全て閉め切って、ベッドに飛び込んだ。
 暗い部屋の中で奈那子はベッドの上で膝を抱えてうずくまって考えを巡らせた。
 震えが急に身体を襲った。
 自分の部屋に塞ぎ込んだ奈那子は、夕食も取らず、お風呂も入らず、母が心配して部屋に尋ねて来ても気のない返事を返すだけで、部屋から決して出なかった。
 ベッドの中に潜り、奈那子は何かから隠れるように怯え震えていた。
 自分は友人を殺した。人を殺したほど憎んだことはこれまでもあったが、それは言葉の綾だ。奈那子は殺したという真実に胸を潰されそうになった。
 明日から自分の生活は? 警察に捕まったらどうしよう? 自分はこれからどうなるのだろうか?
 いろいろなことが奈那子の脳裏を駆け廻り解決されることがない。問題が浮かんでは頭の中に蓄積されていく。
 まるで、世界の終わりが来てしまったようだ。
 夜の闇が深さを増していく――。

 よく眠れないまま夜が明けてしまった。
 奈那子は目覚まし時計を見た。七時半を少し過ぎたくらいだ。
 学校に行くべきかどうか奈那子迷った。できれば休みたい。しかし、昨日の今日で学校を休んでは自分が疑われるかもしれないし、香穂がどうなったのかも気になるし、周りの人々の反応も気になった。
 気になることが多過ぎていても立ってもいられなくなった奈那子は、意を決してベッドから飛び起きた。
 食卓についた奈那子は箸を持ったまま手を止めてしまった。いつもはちゃんと食べている朝食だが、今日ばかりは喉を通らない。
「やっぱり、いらない」
 箸を置いて立ち上がった奈那子は自分の部屋に戻ってしまった。そんな奈那子を心配そうな顔をしている母親が止めようとしたが、母の声は奈那子には届かなかった。
 自分の部屋に戻った奈那子は制服に着替えようとしたが、身体が妙に重くて着替えが億劫に思えた。
 香穂はもう発見されたのだろうかと奈那子は考える。もし、発見されているのならば、学校は臨時休校になって自宅に緊急連絡網が回って来るに違いない。ということは、まだ香穂は発見されていないのかもしれない。
 学校に行けば全てわかるだろう。そう思いながら奈那子通学用のバッグを探した。
「……あっ」
 奈那子の顔が蒼ざめていく。バッグを屋上に置いて来てしまったのだ。
 致命的としか言いようがない。壊された屋上のフェンス、その現場に残されていたバッグ、国語科教員の目撃証言。有りとあらゆるものが犯人は奈那子だと言っているようなものだ。
 学校に行くべきか再び迷う奈那子。このままどこか遠くへ逃げてしまうのがいいのではないかと考えるが、未成年の自分が警察から逃げ回るなど無理な話だと思い首を横に振った。
 奈那子はあることを思い出そうとした。犯罪を犯しても罪に問われない年齢があったような気がする。自分はどうなのだろうか?
 時計は八時を少し過ぎている。もう学校に行かなくては遅刻してしまう。
 吹っ切れた感じで奈那子は家を飛び出した。全てがどうでもよくなってしまい、自分自身の判断では何もわからなくなってしまった。
 学校に向かう途中、横道に入ろうと何度も考えたが、それが何の意味になるのかがわからず、流されるままに歩いてしまった。
 誰かが奈那子声をかけた。しかし、奈那子は気づかずに歩き続ける。
「中嶋さん、おはよう」
 やはり奈那子は気づかずに歩いている。
 前方に信号を見えて来た。
 ぐぐっと奈那子は後ろに引っ張られ、その前を車が通り過ぎて行った。
「信号赤だよ、大丈夫? 今日の中嶋さん少し変だよ」
 ここでやっとはっとした奈那子は自分の腕を掴んでいる人物を見た。
 同じクラスの秋葉愁斗。奈那子の腕を掴んでいたのは彼だった。
「僕があいさつしてたの気づいてた?」
「あ、ごめん……ぜんぜん気づかなかった」
 家からここまでの記憶が奈那子には曖昧で、気がついた時には学校近くの信号にいた始末だ。
「何かあったの?」
「ううん、別に何も……」
 何もないわけがない。奈那子の脳裏に焼きついた香穂が恐怖に顔を歪ませた時のあの表情。
 好きな人に偶然出逢えたというのに、奈那子はちっとも嬉しくなかった。むしろ、会いたくなかった。
 奈那子は秋葉と話すのが怖かった。自分が香穂を殺したのには彼も絡んでいる。彼のせいで香穂を殺してしまったと言っても過言ではない。
 目の前で自分のことを心配するひとにだけには、何があろうと奈那子は自分が香穂を殺したことを知られたくなかった。
「中嶋さん、本当に大丈夫?」
「うん、平気だよ、そんな顔しないでよ」
 無理やり奈那子は笑顔を作ったが、その顔を見る秋葉の表情は曇っている。