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てっしゅう
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「愛されたい」 第三章 家出と再会

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「可愛い!お母さん、素敵よ。ねえ着て見せてよ」
「今?」
「私以外にいないから平気よ」
「そう・・・」恥ずかしく感じたが、着替えて娘の前に来た。

「へえ~ミニなのね・・・お母さん、少し痩せたね。とっても似合うよ」
「あなたにそういわれると恥ずかしいわ。こんな歳で思い切って買ったから」
「ううん、いいよとっても。若く見せるって大切な事よ。それに、お母さんは綺麗だしお父さんには勿体無いよ」
「そんな事言わないで、娘でしょ・・・」
「だって、お父さんみたいな人には女性が近寄らないよ。お母さんだから暮らせているのに、解ってない」
「お父さんのことはいいから、あなたはどうなの?潤一さんとうまく行ってるの?」
「うん、お母さんと同じになったよ」
「ええ?どういうこと」
「私に言ったじゃない。同じ年のときに結ばれたって・・・」
「そうなの・・・有里が大人になったって言う事ね。お父さんには絶対に秘密ね」
「もちろんよ。私、お母さんの淋しい気持ちが解るようになった。好きな人と仲良くする事って大切なんだって思えるの」
「有里・・・あなたには自分の思うように生きて欲しいの。お母さんは間違った選択をしたから」
「間違った選択?なにそれ」

智子は結婚前に仲の良かった敏子との話を思い出していた。

「お母さんね、結婚前に友達の敏子さんって言う人とよく話をしてたのよ。今彼女は結婚して社長婦人で悠々自適。その人がね、結婚は生活だから、愛だの恋だの言って決めちゃダメ、って言ったのよ。もちろんそれだけではいけないと考えてはいたけど両親の薦めもあってお父さんを選んで結婚したの」
「じゃあ、お母さんは他に好きな人がいたけど、その人と別れてお父さんと結婚したの?」
「正確には、別れてからお父さんと知り合ったんだけどね」
「ふ~ん、お母さんは結婚がしたかったんだ」
「そうね、それは言えてるかも知れない」
「お父さんを選んだのも、結婚が前提だったからね?」
「そうね、生活するには公務員だったから安定しているって思ったわ。母も父もお父さんのこと気に入ってくれていたから、決めちゃったけど、本当にそれでよかったのかって思うの」
「私は、自分が幸せに感じているから、今のお母さんとお父さんで良かったって思えるけど、二人にはそうじゃ無かったっていうことなのね」
「お父さんは、気にならないのかも知れないけど、お母さんは愛されていないって解ったら、一緒に暮らせない。わがままかも知れないけどお父さんの気持ちが変わらないのなら家を出て行こうと思うの。まだ内緒だけど」
「有里と高志を置いて出てゆくの?」
「そんなことはしないよ。お母さんの子だから離れたりはしない。でも、有里にも高志にも選ぶ権利があるから残ってお父さんと暮らしたいならそれでも構わないのよ。寂しいけど、お母さんよりお父さんのほうが経済的には恵まれているから幸せかも知れないし」
「お母さん、経済的なことで結婚して今後悔しているんでしょ?私と高志にそれを選ばせるの?おかしくない?」
「押し付けてなんかいないよ。離れたくも無い。でももう大人になっている有里と高志には選ぶ権利があるって言ってるのよ」
「選ばせないで、着いて来て!って何故言えないの!そんなんだから、今後悔するような結婚になったんじゃないの!」

「有里の言う通りね。お母さんは自分で決めて行動しなかったことを他人のせいにしている。悪いのは両親やお父さんじゃなく、私自身なのにね・・・ゴメンなさい、有里」

娘にそういわれて、自分の浅はかさに気付かされた。

結婚した当初は夫も言葉数は少なかったけど話をしていたような気がする。子供が生まれて、学校のことや将来のことなど話し合ってもいた。少ないとはいえ夜の生活もあった。自分は何を夫に求めていたのだろう。自分の両親には優しく接してくれていたし、子供たちとも遊んでくれていた。有里も小さい頃はずっと、「お父さんと結婚する!」そう言っていた。

「愛している」とか「好き」と言う言葉を期待していたのだろうか。恋愛ドラマのように燃える恋を経験したかったのか。穏やかで経済的に不自由なく過ごしてきた20年間にどうして終止符を打つ必要があるのだろう。確かに夫も47歳になって見てくれだけではなく本当に身体も衰えだしているのだろう、時折疲れているような表情が伺える。

自分や子供達を支えてきてくれた夫に何の不満を感じてしまったのであろうか、巡り巡るいろんな思いに智子は悩まされた。

女でいたい、愛されたい、そう強く願う事はもう許されないことなのだろうか。子供が大きくなった45歳の主婦には求めてはいけないことなのだろうか。たとえ世間がそんなふうに見ていても、自分は嫌だと考えている。子供はかけがえのない大切なものだ。そしてやがて独立して家庭を築く。決して親の私物ではない。その思いが子供からの束縛を拒否していた。「あなたたちはもう大人でしょ。自分で考えて歩きなさい」智子の本心はそうであった。

有里に言われて直ぐに家を出て行く事は止めようと思ったが、このまま夫と暮らすことはもう出来ないと智子は決めていた。

12月の最後の日曜日に文子たちの発表会は行われた。買ってきたワンピースにコートを羽織ってヒールのあるミュールを穿いて智子は会場に地下鉄とタクシーで向かった。着いた会場は文子たちと同年齢の女性が多かった。受付でパンフレットをもらい、開演するまでロビーで待っていた。「着きました」メールを見て文子はロビーに顔を出してくれた。

「ありがとう!来てくれて。まあ、可愛いお洋服ね・・・とっても素敵。独身のお嬢さんに見えるわよ」
「本当ですか!思い切って短いスカートに挑戦しましたの。恥ずかしくて落ち着かない気分なんです。今日は文子さんのお歌、楽しみに聞かせて頂きます」
「嬉しいわ。最後までいてくれるの?」
「はい、その積もりで来ました」

話している間に開演5分前を知らせるブザーが鳴った。

文子のグループは先生と言われる女性を中心に20人ぐらいのメンバーがいた。発表会には先生の友人、会員の友人などを誘い合わせて40人ぐらいで2部に分けて行われた。一部の最後に文子は歌った。先程とは違う衣装に着替えてステージに立っていた。「若い!」ドレスで歌う姿を見て智子はそう感じた。

60には見えない。そう言えば話してくれた彼はどの人なんだろう。パンフレットの紹介欄を見ながら想像した。プログラムのすべてを見たが該当するような男性は居ないように感じた。ロビーに出て、椅子に座って文子を待っていた。何人かの男性がじっと見て行くのを感じた。文子は一人の男性と一緒にやってきた。

「智子さん、お待たせしました。こちらは高山さんって言うの。同じ会のメンバーさん」
「楠本智子と言います。初めまして」
「こちらこそ、初めまして。よろしくお願いします。文子さんが言っていたとおりの若くて綺麗なお嬢さんですね。娘でも通りますよ」
「お恥ずかしいこと仰らないで下さい・・・45歳なんですから」
「本当ですか?・・・そうなの、文子さん」
「本当よ。まさか娘の友達とかって思っていたの?」
「そういう訳じゃないけど。ちょっとビックリしたから」