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花咲く夢

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夢を見た。そういうと、かの有名な文豪を思い出してしまうが、別にその作品に影響を受けて、そんな夢をみたわけじゃない。
 自分が夢の中で目を覚ましたとき、どこかの庭に座り込んでいた。様々な植物があったが、どんなものがあったかは、ぼやけていてよく覚えていない。緑が多かった印象があるから、花をつける植物が少なかったのか、花の咲く季節じゃなかったのか、どちらかだ。
 座り込んだ自分の足の間に、見慣れない種があった。夢の中の自分は、特に何の疑問も抱かず、種をぐいっと地面に押し込んだ。いまにして思うとかなりぞんざいな扱いだが、そのときは何も感じなかった。
 夢で種を押し込んでなぜか満足した自分は、種が埋まった足の間の地面を見つめていた。なぜかわからないが、その種から黄色の花が咲くとわかっていた。何となく黄色の百合の花を思い浮かべていた。実は、文豪の作品に影響を受けていたかもしれない。
 夢の中では、何分かたったかもしれないが、自分には数秒しかたっていないように感じた。芽が出たのだ。黄緑色の鮮やかで若々しい双葉は、まるで挨拶するかのように震えた。そして、黄色の花をつけるはずの植物の快進撃が始まった。
 芽を出して、真ん中から裂くように葉が伸びて、また双葉ができて、葉が伸びる。早送りを見ているかのようにぐんぐんと背を伸ばす植物を、自分はまるで愛おしいものでも見るように見つめていた。命の神秘を目の当たりにしながら、あの小さな種はつぼみをつけるまでになった。いまだ緑の色をしたつぼみは、座っている自分の目線とおなじ高さになった。
 つぼみは徐徐に開いていく。薄い膜の張ったような緑は、黄色に近い黄緑になり、濃さを増していった。どこまでも青い空よりも鮮烈に、庭を包み込む緑よりも強烈に、黄色はくしゃりと丸められた紙を伸ばすように花びらを広げていった。
 文字通り、目の前で花を開いたそれは、想像していたような百合ではなかった。今気づいたが、茎も葉も百合とは似ても似つかなかった。六枚の花びらを広げた黄色は、まるで喜びに身を震わせるように風に揺れた。
 あまりのすばらしさに見ほれていると、なんと、その花はもう一輪花弁をつけた。そして、もう一輪。さらにもう一輪。目を丸くしている間にいくつもの花を咲かせた種は、誇らしげに胸を張っていた。
 この世のすべての笑顔を詰め込んだような黄色の花をみて、無性におかしくなって大笑いし、そしててっぺんの花に口づけた。
作品名:花咲く夢 作家名:こたつ