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天使と悪魔の修行 前編

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 その日、¥ジェルちゃんは虹を滑って地球に到着しました。
 長ーい虹の橋は、神の国から地球という星まで伸びていて、¥ジェルちゃんが滑り降りた所は日本という国の中の小さな町でした。

「ああーお尻が痛かったぁ」
 そう言いながら¥ジェルちゃんは自分のお尻を擦りました。
「あらら……」

 驚いたことに、¥ジェルちゃんの可愛いピンクのドレスの下の真っ白なブルマパンツが、幾分擦り切れて薄くなっているみたいなんです。

「もう! 虹の掃除人のレインボーおじいさん、きっとワックスがけをさぼったんだわ。神の国に帰ったら、ちゃーんと神様に報告しとかなくっちゃ!」

 ほっぺをぷうっと膨らませながら独り言を言うと、¥ジェルちゃんは周囲に視線を巡らせました。

「――うーんと、ここは……?」
 目前の大きな道路の向こうには、花丸駅と看板が出ています。
「そうか……駅のそばなんだ」ぼそりと呟きました。

 これから誰かを幸せにしてあげなくてはなりません。それが今回の宿題だから――とは言っても、そうそう都合良く幸せを欲している人はいないから、どこを探そうかしらと考えました。するとどこからか、小さな子供の泣き声が聞こえてきました。
 キョロキョロと声のする方を探すと、大勢の人混みにまぎれて、改札のそばで一人の男の子が泣いています。

「ママー、ママー」
 どうやらはぐれたお母さんを探しているようです。

「ラッキー! この子に決ーめたっ」
 泣いてる子をお母さんに会わせてあげたら、きっとその時幸せだなぁって思うに違いない。そう思ったのです。
「簡単でいいわ!」
 ニコニコしながら¥ジェルちゃんはその子のそばへ行きました。

「ボク、どうしたの?」
 優しい声で尋ねました。だけどその子はチラッとだけ¥ジェルちゃんを認めたものの、返事などせずに相変わらず泣きじゃくっています。

「ぅえーーん。ママぁーー!!」

「困ったわねぇ」
 ¥ジェルちゃんはすっと肩をすくめ、ちょっぴり考えます。
「あっ、そうだ!」
 そう言うと、☆が付いた杖をその子の目の前にかざし、
「見てて!」と言うと、その杖をくるくるっと回したのです。

 すると、あ~ら不思議、目の前にくるくるキャンディが現れました。
 その子はキョトンとして不思議そうにキャンディを見つめています。

「さあ、どうぞ~」
 ¥ジェルちゃんがキャンディを持ってその子に差し出すと、その子はおずおずとキャンディを受け取り、ちっちゃな声で言いました。
「ありがとう」
 そして、どうしようか……と言う目で¥ジェルちゃんの瞳を覗き込みます。
「いいのよ、食べて」
 ¥ジェルちゃんのその言葉を聞くと、遠慮がちに一舐めペロリンと可愛い舌を出して舐めました。
「可愛いなあ……」
 見つめる¥ジェルちゃんの顔にも笑みがこぼれます。

 その顔を見てようやく安心したのか、その子はキャンディをペロペロと舐め始めました。

「美味しい?」
「うん」
 良かったあ! と¥ジェルちゃんは嬉しくなりました。

 少しして¥ジェルちゃんが言いました。
「ボクお名前は?」
「ユウキ」
「そうか、ユウキ君かぁ、可愛い名前だね」

 ¥ジェルちゃんに褒められたのがよっぽど嬉しかったのか、さっきまで泣いていたのが嘘みたいに、その子は満面の笑みで元気良く「うん!」と答えました。
 ところが、その可愛い顔がすぐに悲しそうな顔に変わりました。

「うん? どうしたの?」
 ¥ジェルちゃんが心配して尋ねます。
「……ママが……」
「ん?」
「ママが……ボク、可愛くないって……」
「えっ?」
 ¥ジェルちゃんが不思議に思って、
「何を言ってるの?」
 と言いかけた時、いきなりユウキ君が鋭い声を上げました。
「ママーっ!」

 ¥ジェルちゃんはびっくりして、ユウキ君の視線の先へ目をやりました。
 人の流れに逆らうようにこちらへ向かって、三十歳前後の女性がヒールの音をカッツカッツ響かせながら歩いて来ます。

「ふぅーん、あの人がユウキ君のママなのかぁ……」
 
 その女性は、今の流行りなのか頭を異様にモリモリに盛って、睫毛は目を隠すほど長く黒々と、さらにぽってりとした唇はうるうるとしたピンク色です。
 派手なショッキングピンクのミニワンピーの下には、網目模様のレギンスを履いていて、ヒール高が10センチ以上はあろうかという黒のパンプススタイル。
 そして歩くたびに、ウエストにゆるく巻いたベルトから下がった、動物の尻尾のようなものがゆらゆらと揺れています。

 ¥ジェルちゃんがふと気が付くと、すでにその人は目の前に立っていました。

「一体どうしたのよ、そのキャンディーは!?」
 いきなりユウキ君のママがきつい調子で言いました。

「えっ?」
 ¥ジェルちゃんはびっくりです。だって、迷子になってた子供を見つけた親がいきなりそんなこと言うなんて……。てっきり、いきなり抱きしめて「あぁー良かった! ここにいたのね」とか何とか……、そう言うとばっかり思っていたんです。
「あれっ? どうして?」
 ¥ジェルちゃんは首を捻りました。

「ほらっ、どうしたのって聞いてるでしょ!?」
 狐のようにとがった目で、ママはユウキ君に再度尋ねました。

「こ、このおねえちゃんにもらったの」
 ユウキ君は、¥ジェルちゃんを指差して震えながらそう言ったのですが、ママには¥ジェルちゃんの姿は見えません。だってエンゼルの姿は小さな子供にしか見えないのです。残念ながら欲に駆られた大人の目には見えない存在なんです。
 ママは一旦はユウキ君の指差す方に目をやりましたが、何も見えないので怒りだしました。
「もう! 何を言ってるの? またママに嘘ついてるんでしょ? 本当に可愛くないんだから……」
 そう言うと、いきなりバシッとユウキ君の手をはたいたのです。
「あっ!……」
 ユウキ君の手からキャンデーがポロッと落ちてしまいました。
 落ちたキャデーを、ユウキ君が惜しそうに見つめています。
 その瞳に涙がキラリンと光っていました。それでも何とか泣き出すのを堪えているように見えます。
 するとママは、今度はいきなりユウキ君の手を引っ張って、
「さあー、行くわよ。さっさとしなさい!」と言いました。

 ユウキ君はママに手を引っ張られながらも首を回して、¥ジェルちゃんの方に助けを求めるような視線を投げてきます。いいえ、それはもしかしたら「ごめんなさい」と、訴えていたのかもしれません。せっかくもらったキャンデーを落としてしまったから……。
 呆然とその様子を見ていた¥ジェルちゃんは、二人の姿が見えなくなる寸前にハッと気が付いて、慌てて二人の後を追いました。
 だって今のママの態度を見ていたら、急にユウキ君のことが心配になってしまったのです。


 さて、ここで時を溯ること約一日。その前日の午後、悪魔のあっく魔くんは、あるホテルの前に立っていました。