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表と裏の狭間には 七話―想い―

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「………あたしの意見としては、彼に一度、話を聞いたほうがいいと思うのよ。」
「それはまたどうしたんすか?」
「あいつに話って、そもそも何の話を聞くつもりなんだよ?」
「アンタたち男子はあの子の話を聞いてないから知らないだろうけど、下手を打てばかなりまずい事態になりかねないわよ、あの兄妹。」
「……あなたたち一体何を話してたんですか。」
「それも後で話すわよ。」
「でも、わっちにはそんなとり急いでかかるような問題には思えないんだけど?」
「そうなの。それにこれは彼らの問題であって、迂闊に口を挟むべきとは思えないの。」
「それは分かってるんだけどね。話すか話さないかは彼に任せるわ。でも、きっかけだけは与えておくべきだと思うのよ。」
「……きっかけ、とは?」
「最低でもあたしたちが彼らの相談相手になる、ということだけは伝えなきゃならないわ。」
「それだけでいいならただそう言うだけでいいんじゃねぇのか?」
「それじゃ駄目よ。彼は本気にしてくれないわ。だから、あたしはさっきからずっとこう言ってるのよ。」
「まあ………お前が言わんとしていることも分からんじゃないが。」
「あんたたちの言いたいこともよく分かるわよ。何も問題が起きてない以上、これはあたしのお節介。それもかなり余計で迷惑な、ね。」
「それが分かってるなら――」
「でも、あたしには無視できないのよ。本人が拒絶するなら退くわ。でも、彼の反応を見ないと、気が済まないのよ。」
「はぁ………まあ、その辺の節度はしっかりしてくれよ。」
「勿論よ。さて、いつ決行しましょうか?」
「それなら、この時がいいんじゃないか?」
指し示された日は、確かに、都合が良かった。
これでもかというくらいに。

「えー、夏休みも明け、もうすぐ修学旅行がある。しおりを配っておくから、各自、よく読んでおくように。」
九月のある日。
帰りのHRで、担任はそう言って、冊子を配った。
これで今日は解散のようだ。
俺は席を立ち、ゆりたちがいつも陣取っている談話室に向かう。
夏休み明け直後、ゆりを部長とし、適当な先生を顧問に据え、部活を結成した。
部の名前は、『有閑倶楽部』だ。
趣味が悪い………。
まあ、俺たちを表す単語としては、適格かも知れないが。
その談話室に向かっている。
普段は放課後連中に会おうと思ったら、アークの拠点に向かうしかないのだが。
今日は何故か、そっちに呼ばれていたのだ。
部屋の前に着いた。
一応ノックをしてから、扉を開く。
「入るぞー。」
「待ってたわ。」
待たれていた。
「座って。耀、適当に出して。」
「出すって何を。」
「お茶とお菓子なの。」
「…………本当にやるとは思わなかったよ。」
有閑倶楽部という名前にちなんで、この部屋を私物化しようとしているのは知っていたが。
本気で実行するとはね。
まあ、それはいいさ。
全く良くないが、いいさ。
俺は言われるがままに席に着く。
すると耀が、紅茶とクッキーを持ってきた。
「まさかとは思うが、酒や煙草その他未成年所持禁止の諸々を持ち込んでたりはしないだろうな?」
「必要じゃないから無いわよそんなもん。」
必要だったら持ち込むのか。
「で?今日わざわざ呼んだのはどういうことなんだ?」
部活に関する口裏あわせはとうに済んでいる。
わざわざ呼びつけるような話って、何だ?
「それ、貰ったのね。」
ゆりは俺が手に持っている冊子に目をつけたようだ。
「ああ。修学旅行のしおり、とかなんとか。」
「今日呼んだのは他でもないわ。修学旅行の打ち合わせをするわよ。」
は?
「打ち合わせも何も、俺たちは学年もクラスも違うだろうが。」
同じ班なら分からなくもないが、クラスどころか学年まで違って打ち合わせも何もないだろう。
「アンタそのしおりちゃんと読んだ?」
「いや、まだだが。」
「まあ待てゆり。紫苑だけじゃなく、輝や耀、礼慈と理子も初めてなんだ。システムの説明くらいしてやれ。」
ゆりは煌の言葉に少し考えるような動作をしてから、こちらに向き直る。
「じゃああたしが説明してあげるわ。全員座りなさい。」
ゆりはホワイトボードを机を挟んだ俺の反対側に設置すると、戸棚をいじっていた耀と扉脇に控えていた礼慈を座らせた。
「この学校の修学旅行は特殊なのよ。イメージとしては、武偵高の修学旅行を大規模化したものだと思えばいいわ。」
全く分からん。
「もっと本を読みなさいよ。貸してあげようか?」
それを読むよりも説明を聞いたほうが早いと思うんだが?
「今から説明するわよ。うちの修学旅行は全学年一斉に行われるわ。」
「全学年一斉だと?」
「そうよ。そして、学年やクラス、学科の壁を越えて自由に班を組むことが出来るわけ。」
何だその画期的なシステムは。
「行き先も完全に自由よ。適当に好き勝手な場所で好き勝手遊んでいいわ。」
画期的というか、先生、やる気あるのか?
体育祭もそうだったが、この学校色々と大丈夫か?
生徒は武装集団に間接的に制圧され、行事の類も今のところぶっ飛んでいる。
この分だと文化祭がどうなるか分かったものじゃないぞ。
「で、俺たちで班を組んでいかないか、という話なわけだ。場所や費用その他の見積もりはゆりが適当に済ますだろうし。」
俺に拒否権などあるはずもなく。

で、何だかんだで修学旅行当日。
何だかんだありすぎである。
朝早くに駅に集合した俺たちは。
「で?結局どこへ行くんだ?」
今日は雫の姿は無い。
当たり前だ。あってたまるか。
「東北の方よ。」
「東北?」
「東北の山間に、いい宿があるのよ。温泉宿でね、これからの五日間をゆっくり過ごすのに相応しいわ。今の時期なら紅葉も綺麗だろうしね。」
まだ九月だろう?
「今年はもう始まってるみたいね。温暖化の影響かしら。とにかく詳細は移動しながら話しましょう。」
と、言うわけで。
俺は、この意味不明なメンバーと一緒に東北地方の山奥に拉致されることになった。

東北新幹線に乗り込んだ俺たちは、そのまま山形まで。
合宿のときみたいにこいつらの与太話につき合わされながら『修学旅行ってのも定番のイベントっすね。この中で関係が進展するカップルはいるんすか?』『はいはいはい!私とお姉様なの!』『ふざけんじゃないわよ!?あたしにその気はない!』『じゃあ健全に煌と?』『それもないわよ!』『紫苑、今夜わっちとどう?』『俺に振るな。』『……煌、無言ですね。』『まあな……。こいつらの妄想の餌食にされるのは耐えられん。』、新幹線に揺られて数時間。
とある駅で降りた俺たちはそのまま地方路線に乗り換える。
電車に揺られてガタゴトと、田舎ならではの景色を楽しむ。
ゆりの言った通り、山々は既に色づいていた。
みるみる山が近くなってきたら、バスに乗り換える。
ゆりが言っていた旅館に行く客は他にもいたのか、バスには俺たち以外の客も乗っていた。
そのバスは山の麓と旅館を繋ぐ私有バスのようで、真っ直ぐ山を登っていく。
上のほうにつくと、急に視界が開けた。
広い一本道で、もみじの並木が道を彩っている。
その正面に、大きな旅館が見える。
立派な旅館で、両脇の並木と風に舞う紅葉も相まって、雅な風景を描いている。
玄関には、旅館のスタッフが並んで立っている。