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郷田三郎(G3)
郷田三郎(G3)
novelistID. 29622
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こんばんは ③<太田くんの密かな愉しみ>

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こんばんは ③

<太田くんの密かな愉しみ>


 コンバンハ、リョーコデス。
 来た!
 リョーコさんはいつもこの“片仮名”の“今晩は”でチャットに入ってくる。
 ボクは最初に挨拶を返すために、用意しておいたメッセージを貼り付けて送信した。
『ヨ~シ!初レスゲットだ! ……』ボクの後に八人分のレスがズラズラと続いた。

 ここは同時に十人まで参加できるチャットルームだ。
 ボク達常連はいつも九人まで先に入っていてリョーコさんの登場を待っている。
 常連は三十人位いるけど、みんな自分が十人目だと判ると「ゴメン」とか「ザンネン」とか言って自ら落ちてくれたりして和気あいあいとやっているんだ。
 でも新人クンが十人目に入ってきて何やらクダらない事を言い始めるとボク等は一斉に罵詈雑言を浴びせかけて追い出してしまうし、事情を知らない女の子が来た場合でも退室する様にヤンワリと誘導してゆくのが暗黙の了解になっていたりもする。
 それくらいリョーコさんは魅力的な時間をボク達に提供してくれるという訳なんだ。

 どれくらい魅力的かと言うと、ごく普通の女の子に天使が二人くらい降りて来ていて、ほんのチョットだけ子悪魔も棲んでいる、と言えばウルサイ常連達も文句は言わないだろう。
 でもここは有料サイトで料金も平均より高めなので一日中ここに入っている訳には行かない。
 待ちきれずに落ちてゆく奴も結構いてボク達常連は割りと上手くここのシステムと付き合っている。

 翌日、ボクは不覚にも仕事中に大欠伸をしてしまった。
「よう太田久男くん!又、一晩中チャットにはまってたのかね?全く名前どおりのオタク男だな?!」
 ボクがちょっと欠伸をしただけで同僚のAはすぐに突っ込みを入れて来る……。
「やだぁ、太田さんてまだそんな事してるの?」
 向かいの席のB子までクビを突っ込んできた。誰も知らないが、B子は以前ボクがフラレた事のあるOLだ……。
「おいおい自分だって目の下にクマが出来てるゾ?」ボクだって負けてない。(名前を馬鹿にされるとかなり頭に来るノダ!)
「バ~カ、俺は“アイちゃん”と人類の憂慮すべき未来について熱く語ったんでヒドく疲れてるってワケ。お前みたいに実りの無いナンパ目的でチャットしまくってるヤツと一緒にすんな!」
 同僚のAは弁解したが、彼が言う人類ってのは男を除いた半分だって事はたいがいのヤツが知っている。

 ボクも昔はチャットで呼び出した女の子にムリヤリせまったりした事が有るけど、今ではホントに反省している。
 そしてこれもリョーコさんと出会ったおかげだと感謝しているんだ。
 例のチャットの常連達にもかなり悪い事をしていそうな奴がいる。
 でも、そいつ等は口々に「このチャットで心が洗われた。」とか「生きる勇気が沸いてきた」などとリョーコさんにお礼の言葉を述べていて、それらが嘘でない事はボクが一番よく知っているんだ……。


 ――某国首相官邸――

 「○○君、例の報告書は出来たかね?」
 首相が補佐官と何やら秘密の話しをしているようだ……。
 「ハイ、ここに。統計では例の最新式の"量子コンピュータ"の"AI"による人心操作システムは、予想以上の効果を発揮していると云う結果が得られました」
 「当初は一人だった人格も現在は五百人以上が確立されて、世界中のネット上で同時展開しております」
 補佐官は誇らしげに応えた。
 「うむ、あのシステムは我が政府、いや我が国家としても非常に期待をしておる。凶悪なネット犯罪の撲滅だけでなく、世論の操作、人々に希望とヤル気を持たせる事による生産性の向上や軍隊の増強等も期待したい分野だ」
 「ただしキミ、あの“リョーコちゃん”とかいうシステム名は何とかならんのかね?」
 システム命名者の顔を見てみたいモノだ……。
 しばらくニヤけながら報告書を見ていた首相の顔があるページを見て曇った。
 「○○君、女性が被害者の凶悪なネット犯罪は確かに減少したが、逆に軽微なネット詐欺が増えているのではないかね?男性が被害者の……」
 首相が鋭い質問をぶつけると、補佐官は自信有りげに答えた。
 「はい首相、“リョーコちゃん”によってネット上の女性に対して警戒心を失った男が被害を受けている様ですので、次の手を準備中であります」
 「ほうどんなだね?」首相が身を乗り出した。
 「はい、対女性用人心操作AI="リョージくん"が来月初旬に立ちあがる予定であります」


 おわり

      02.11.08

№008