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とびらごし(2)

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俺を好いているやつが、俺を介して告白された。
 何故俺を介したかといえば、告白された側と俺は親友で、告白した側と俺は同じ委員会だから。俺と一緒にいるそいつに惹かれていると相談を受けたから、話してみようと俺が自ら仲介役を買って出たから。
 というわけで、下校途中にぽんと言ってみた。俺を介して告白を受けた親友は最高に渋い顔をしている。不機嫌とも言えるかもしれない。
「無理」
「どうして? 神無はいい子だよ。おとなしいし口数も少ないけど、真面目で、動物の世話も一生懸命やってくれている。他のならともかく、神無はいいと思うんだけど?」
「でも、無理」
「俺のお勧めでも?」
「ああ」
「じゃあ俺が取っちゃおうかな」
「おい」
「冗談だって。真に受けないでよ、誠らしくない」
 誠。まこと。そいつの名前。俺の親友。
 2年前に麗奈――好きな子を亡くした俺を、ずっと励まし続けてくれた最高の親友。
 俺を恋愛対象として見ている悪趣味の親友。
 好きだ、なんて聞いたことないけど。雰囲気で分かる。誠が俺を見る目は、麗奈が俺を見る目に似ているから。
 気付いたのは最近だけど。でも正直、迷惑だった。
 俺には麗奈がいるから。死んじゃって会えないけど、麗奈以上がいるはずないから。
 神無は実際いい子だし、彼女としてはアリだと思う。でも麗奈には遠く及ばない。
 当然だけど、誠はその神無にすら遠く及ばない。恋愛対象としては、だけど。
「でもさ、誠。そろそろお前も彼女作らないと」
「お前はどうなんだよ、正」
「俺には麗奈がいるから」
「でも、麗奈は……」
「死んだけど、それが? 今も昔もこれからも、俺の彼女は麗奈しかいないよ」
「…………」
 あーあ、複雑そうな顔をして。
 複雑だろうな、そうだろうな。俺だって、麗奈に同じこと言われたら傷付くどころじゃない。死にたくなる。
 それでも俺は言う。相手は誠だから。誠の好意は、俺には迷惑でしかないから。
「実際に会ってみたら? 神無。印象変わるかもよ?」
「いいよ」
「照れ臭いなら、俺も一緒にいてあげるよ」
「いいって」
「いいってじゃないって。いくら誠がモテるからって、女を選りすぐりしていたらずっと独りのままだよ?」
「だから……っ!」
 不意に。手首を掴まれて、引き寄せられた。
 目の前には、誠の顔。麗奈が俺を見る時に似た、あの眼差し。
「俺には、他に、好きな奴が――」
「へえ。誰? 麗奈?」
「……っ」
「誠ってば、たまに俺と麗奈のことを睨んでたからさ。なんとなく、そんな気はしてたんだ」
 なんて、誠を苦しめる嘘を吐く。
 誠には俺を好きでいてほしくない。俺はその好意には答えられないし。正直うざいし。
 だから、俺は苦しめる。俺を嫌いになるように。
「……違う」
「え、違うの?」
「だって、俺は、お前が」
「俺にしておきなよ」
「…………!」
「……なーんて、言うと思った?」
 ここで、浮かべてやるんだ。最上級の笑顔を。あいつが大好きな俺の笑顔を。苦しめるために、全力で。
「俺とお前は親友だからね。間違っても、そんな関係にはならないから。てか、なったらきもいだけじゃない? 安心してよ、俺にそんな気はないから」
「……正」
「これからもずっと、俺達は親友のまま。な?」
 さあどうする? 人気のないトイレの個室でひとりめそめそ泣いているか? その時は個室に寄りかかって泣き止むのを待ってあげるよ。
 誠は頷いた。何度も、こくこくと頷いた。辛い顔をして、泣き出しそうな顔をして、それでいて笑顔を含ませて。
 これからもずっと交わらない、平行線の未来を想像したのか、そいつは本当に、複雑そうな様子だった。
 安心しろよ、誠。俺だって複雑なんだ。
 平行線が交わったら、俺はお前を嫌いになる。お前がいくら交わることを望んでも、それは絶対なんだ。
 俺は、お前を嫌いたくない。ずっと好きでい続けたい。だから、この言葉を送るよ。麗奈にしか言えない特別な言葉。
「大好きだよ、誠」
 ――親友として、だけどね。
作品名:とびらごし(2) 作家名:森丸彼方