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仕事熱心

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メンテナンス中を狙われた頭部への銃撃で、カダハ=Lは主要センサーの7割とアクセスが取れなくなった。
光学センサと半径8メートルの指向性マイクロフォンは下腹部奥に収納されていたために無事だったらしく、システムがメインインプットを自動でそちらに切り替えた。

 カメラは正面にひとりの男を映していた。両手には不装填式パルスライフルを抱えている。カダハ=Lは船と有線していた後頭部のケーブルを両腕で引きちぎると転がり込むようにして作業用の磁気エレベーターの後ろに身を隠した。パルスライフルは連射が可能だが遮蔽貫通しない。古典的だが相手の視界から身を隠すのが最善策だった。
 カダハ=Lはカメラで取り込んだ男の画像を解析にかけようとしたが、いくら再接続を試みてもネットにアクセスできなかった。ジャミングは反射電波を飛ばしていたため恐らくは船外を取り巻くようにしてスプレーチャフを撒かれたのだろうとカダハ=Lは推察する。

「おーい」と、男が乾いた声で壁の向こうから呼びかける。
「ロボットは人間の言うことに従うもんだろう、立ち上がってこっちへ出て来いよ」
 しかし、カダハ=Lは何も応えない。というよりも、標準の会話システムでさえ作業に必要ないためカダハ=Lにはインストールされておらず応えようがなかった。
「おーい」と男はもういちど無機質な感情を欠いた声で呼びかける。
「いいさ、なら人間様から出向いてやるよ」

 男は近くにあった棺桶形の高速培養機を踏み台にしてエレベーターの後ろ側へ向かって飢えた豹のような体勢で突っ込んで来る。おそらくは軍事用の人口筋肉でドーピングされた脚力なのだろう、魚雷のような速度だった。カダハ=Lは即座に両膝へ充填されていた船外作業用の推進剤を全開放出させて真上に飛び上がった。相手との距離をとるためだけの行動だったため穴の開いた風船の様に天井へ頭ごと衝突して地面に叩きつけられたが、それでも放出を止めないで地面を滑り這うようにして一気にゲートを飛び出して通路に逃げ込んだ。

「クソがっ」と男は着地してパルスライフルを構えたが、ためらって引き金を引くことができない。部屋中には大量の培養機が設備されている。流れ弾を当てるわけにはいかなかった。男はすぐにゲートへ駆け寄るが、通路には銃撃を受け焼け焦げた頭部が転がっているだけで、身体は忽然とそこから姿を消していた。
「羽の曲がったゴキブリみてえに逃げやがって」と、男は銃を下ろし呟く。
「待ってろよ。すぐに踏み殺してやるからな」

 カダハ=Lは通路の壁に面していた廃棄ダクトから船外へ退避していた。宇宙船の周期が太陽に近かったために荷電粒子の影響でセンサーが完全に使用できない状態だったが、船の詳細な設計図がデータ内にあったためそれを地図代わりに使った。カダハ=Lは船の表面をへばりつく様にして少しずつ移動しながら、船内に戻る方法を検索していた。任務遂行のためには何とかして侵入者を排除しなくてはならない。だが船内浸入者との応戦になるとは想定外だった。戦闘機による遠距離からの爆撃への対策はあったが、レーダーを逃れるために宇宙服を着た人間が単独で乗り込んでくるとは。おそらくこちらの宇宙船の周回軌道を読んでカタパルトで人間を射出して船にぶつけてきたのだ。成功する確率は0.1パーセントもなかっただろう、一体何人がそのまま宇宙の塵になったのだろうか。侵入者は特殊に訓練されていて、任務のためなら命を惜しがらない兵士に間違いなかった。正攻法で制圧できる確率は殆どゼロだ。

 カダハ=Lは少しだけ思考してから、決定した作戦に移行する。太陽と宇宙船を結ぶ延長線上には太陽光を照り返す地球が浮かんでいて、ちょうど船の真下あたりにユーラシア大陸が綺麗に晴れて見えていた。

 侵入者は宇宙船の床に耳を当て、じっと息を殺していた。サラウンド・インジゲータが鼓膜のすぐ近くに増設してあり、どんなに微細な音でも起これば場所を即座に特定できた。ロボットは通路から船外を通って船外の中心辺りに位置している。事前に手に入れていた情報では宇宙空間に出入りできる場所は三箇所。三角フラスコのような形をした船の、先端と底に当たる部分に一箇所ずつ。そしてさっきロボットが逃げた中央にある廃棄物用ダクトだけ。ダクトからは内部に入ることができないので、入ってくるとすれば上か下のどちらかだった。

 侵入者はとめどなく流れる汗にまみれて、自らの鼓動の音がだんだん早くなってきていることに気づく。任務に就く前に飲んだ薬が切れてきて恐怖感が戻ってくる時間だった。男はもう生きて帰る事はできなかった。ロボットを停止させてこの船を地球の周回軌道から大きく逸らすためには自分が犠牲にならなくてはならない。それが男に与えられた任務だった。

(自分が死ぬことは怖くない。ただ、)と、男は考える。徹底的な訓練によって、死への恐怖は薬を使わなくても感じなかった。だが男は残してきた家族について考えていた。

(大切なものを失う辛さには耐えられない)

 男は思い切って音響ソナーを切ると銃を握っていないほうの手で注射器を取り出し素早く首の静脈に薬を打ち込んだ。一秒もかからずに全身の毛穴が締まって汗が止まり、心拍数が平常になる。
 男は深呼吸してもう一度ソナーをオンにする。その間は4秒も無かっただろう。だがロボットは偶然にもそのタイミングで移動を始めていた。ソナーは振動を二箇所から感知していた。上下の出入り口へ中間の位置から同時に二手に移動している。
 男は集中してその音を聞き分ける。おそらくロボットはこちらを撹乱させるために上半身と下半身に分離して移動しているのだろう。どちらかにメインメモリを譲っているはずだから一方は囮。ソナーは下方へ移動している音の方からより重い振動音を検出していた。
 (こっちがメインだ)男は瞬時に起き上がると船の底へ移動する。外部と連結するゲートに着くと匍匐射撃の姿勢でゲートに照準を合わせる。移動音はもうソナーを使わなくても聞こえていた。ロボットは船の外部に腕を差し込みながらこちらへ向かっている。
 しかし、ロボットはゲートを素通りしてそのまま船尾へ向かっていた。おかしい、と男は思う。船尾には何があった?と男は考え、瞬間、思い出す。
 対戦闘機用のミサイル格納セルが船尾に搭載されているのだ。男は即座に立ち上がると全力で船の上方へポジションを移動させ最初のメンテナンスルームへ逃げ込む。男が気づいてから数秒後、船全体がジュースミキサーのように振動する。船内の気圧が変わって男の鼻と耳から鮮血が噴き出す。

(クソが、自爆しやがった)男は倒れこみ必死に床にしがみつく。爆発の影響で宇宙船の軌道が変わってしまう。下手をすればこのまま船が地球に落下してしまうかもしれない。それだけは絶対に避けなくてはいけなかった。

(それよりもなぜ、)と男は振動と混乱の中で考える。
作品名:仕事熱心 作家名:追試