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天李ゆっきー
天李ゆっきー
novelistID. 24839
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おじさんと、僕(仮)

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おじさんは、僕の保護者だ。
仕事は、なにをしてるかよくわからない。聞いたことがない。けど、毎朝堅苦しくない感じのスーツで出ていって、夕方か夜に帰ってくる。たまに、夜中になる。
おじさんは、僕を引き取るまで、一人暮らしだったそうだ。休みの日は自炊して、料理は結構うまい。前の家でたまに母さんを手伝ってたくらいの僕よりも、ずっとずっとうまい。
僕は、高校生。春にこの町に引っ越して、転校してきた。僕は、孤児だ。
父さんと母さんは去年の冬に、一度にいなくなってしまった。じーちゃんたちもいなかった。親戚連中は集まって話し合って、僕の処遇を考えあぐねて。
そこで、おじさんが手をあげたらしい。僕はてっきり体よく押しつけられたんじゃないかって思ってたけど、おじさんがはっきり言った。
「俺が、望んで君を連れてくんだ」と。
葬式の場で、おじさんと会ったのは、もう何年ぶりか思い出せなかった。小さい頃はおじさんとよく遊んでたのに、ふっつりと途切れて疎遠になって、それ以来だった。

そうして、僕とおじさんは、カゾクになった。




平日の夕飯は、僕が作ることになってる。おじさんが早く帰れば手伝ってくれるし、そうじゃない時は一人で飯食って風呂も洗って入って、寝る。一人の食卓も、すこしずつ日常に溶け込んできている。
今日はおじさんは早く帰ってきて、洗濯の片付けも終わったって言うからエンドウ豆を押し付けた。炒めて塩コショウ振って食べようと思ったけど、すじとり、好きじゃない。
それ以外の飯の支度をしながら、僕はふっとおじさんに声を掛けた。
「おじさん、結婚しないの」
すごく、不躾な質問。けどおじさんはエンドウ豆のすじをとりながら、いつもと同じ口調で答える。
「できねえの」
「なんで」
こう言っちゃ何だけど、おじさんは外見に問題があるわけでも酒乱のDV男でもない。それなりに、僕を平気で養えるくらいの金も仕事も持ってるし、性格も悪くない。
けど、こう、浮ついた話を聞かない。女の影さえ見えない。逆になんか疑っちゃいそうだけど、勿論そういうわけでもなく。
ぷちぷちと、エンドウ豆の端をちぎってすじをとって、おじさんはふっと答える。
「振られたから」
見た目に寄らず、一途なことだ。笑って、少し、引っかかった。
おじさんの声は、とても。とても――。
とても、さびしそうだった。

本当は、知ってる。おじさんの定期には古いボロい写真が、入ってる。女の人とまだ若い頃の――幼い頃、まだ僕の家に遊びに来てた頃のおじさんの写真。おじさんは、右手の薬指に指輪をして、決して外そうとしない。同じデザインのもっと華奢な指輪がおじさんの部屋に大事に飾られてるのも、知ってる。
おじさんが持ってる、漂わせている空白は、今僕を苛む虚無感に、よく似ている。
けれど、それは僕の寂しさとはどこか違っていた。まるで、割れたガラスが波で洗われて、ずっと時間が経って角を丸くしたように。
それでも、その表面は冷たいままで。
「かなしくなんねえ?」
「もう、慣れた」
答えと同時に突き出されたボウルに、すじが取れたエンドウ豆。すじの入った紙箱を潰しながら、おじさんは言う。
「俺みたいになるんじゃねえぞ」
つん、と額を弾かれて。僕は頷くことしかできなかった。