小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

雨女に関する考察

INDEX|1ページ/3ページ|

次のページ
 
こつんこつんと窓を叩く雨と、びうびうと吹き抜ける隙間風が、このボロアパートの中をぬるく湿らせてゆく。
 今日は雲の層も厚く、真昼だというのに真夜中のようだ。電気を消すと足元すら不確かだ。乾き物は連日の雨で湿気てしまっており、お茶請けに買っておいたせんべいは食べられたものではなかった。このまま捨てるのも勿体無いので、グリルで焼いてみるが、思うように焼けなかった。それが一昨日の話だ。
 両隣からはテレビの音が聞こえてくる。どうやらお隣さんも雨の為に暇を持て余しているようだ。
 このボロアパート、戸は傷んでチェーンロックなんて付いてないも同然だ。チェーンロックよりも、この薄い壁の方が信用できる。大声を上げれば隣の人が気付いてくれるということと、あとは壁に思いっきり体当たりすれば隣に繋がる、という意味で。
 しかもこのアパートにはエアコンなんて上等なもの、はじめから付いてはいない。おかげでこの蒸し暑さに加え、雨が降り込むせいでマトモに窓も開けられないという始末。雨漏りしないだけマシであるが、流石にこの暑さには参ってしまう。
「暇だ」
 遊びに来ていた友人は、その雑多な静寂を叩き壊す。彼は大学に入ってからの友人で、名前を仮にMとしよう。由来は、ドMのMである。
「……そもそも、ここには、暇を潰せるようなものはないよ」
 私はそのMをそうやってあしらう。Mが絡んできて、私がテキトーにあしらう。いつもの流れである。
「ふむ。ならば、雨にまつわる話、なんてどうだ?」
「暑いから怪談のつもり?」
 調子悪いのにここで怪談されるのはちょっと……。
「丁度いいネタを仕入れたんだ」
 Mはオカルトマニアだ。都市伝説から昔話まで、様々な国・時代のオカルト話を収集してはばら撒くというシュミの悪い趣味を持っている。
 そのくせ、当人は科学信奉者だというからおかしな話である。何でも、「見聞きしたものしか信じないが、それイコールオカルトを信じない、という理由にはならない」だそうだ。そういうくせに、「現状ではそれらオカルトを信じられる根拠はない」とまで言うのだから、わけが分からない。発言がまるで矛盾しているように感じられる。
「雨女って、知ってる?」
「うん。確か、雨に好かれている奴の、ことだよね」
「そうそう。彼女らが何をするにしてもそこには雨が付きまとう。そんな因果を持つ奴らのことを、巷では雨男・雨女と言うね」
 因みに、この気取った口調はこいつのクセだ。その手の専門家でもないのに、普段の会話で『因果』とか真面目な顔で言う奴は相当イタいと思うのだが、どうだろうか。
「こいつら、何で雨を呼び寄せるのか、ちょっと考えたことはない?」
「運が悪いんでしょ、純粋に」
 また面倒な話題を振ってくるな、こいつ。こっちは頭が痛くて、あんまり頭もしっかり回らないというのに。
「天候を変えるほどの悪運、か。こうやって字に表すと妙にかっこよくない? 雨女にルビでウェザールーラーなんて付けちゃいたくなるな」
「そんなの付けちゃ、イタくなるね」
 微妙に黒焦げしそうな会話だ。
「ところでこの雨女、そんな名前の妖怪がいるんだ。多分、雨男・雨女の由来はここから来ていると思うんだ」
「へぇ」
 とりあえず、相槌を打っておく。その『とりあえず』っぷりにMは気付くことなく、話を続ける。
「――ある雨の日、生まれたばかりの子供が神隠しに遭う。その母親は、悲しみにくれやがて妖怪になった。以来、子供が泣いていると雨と共に大きな袋を持った女が現れるという。
 ――泣く子も黙る妖怪話、雨女の出来上がりさ」
「まあ怖い。何が怖いって趣味だけでそんな細かい所まで調べている君が怖いよ」
「お褒めに預かり光栄だよ」
 けなしているんだよ、この暇人が。
「雨女、ねぇ……」
 しかしまあ、雨女が気の毒になる話だ。子供を失くした上に、自分は妖怪になっている。そして延々と悲しみ、涙を流し続ける。これもまた、後味の悪い話だ。
 畳に直置きしている1.5リットルのペットボトルを手に取る。中は水で、この湿気と暑さでペットボトルの周りには水滴が付いている。口の中が乾いてきたので、ペットボトルの中の水で口を潤す。
 窓の外も雨で水まみれ、中は中で湿気と飲み水で水だらけ。私の体の中だってそうだ。人体の七十パーセント近くが水だとか、そんなフレーズの飲料水のCMもあったっけ。
 ちゃぽんと音を立てる水。ぽとぽととペットボトルにくっついた水滴が畳を濡らす。
作品名:雨女に関する考察 作家名:最中の中