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表と裏の狭間には 六話―海辺の合宿―

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星砂輝。オタクだがどういう服で来るかと思ったのだが、意外と普通だった。緑のパーカーにジーパン。特に問題点は見当たらない。
星砂耀。小柄な美少女だが、Tシャツにハーフパンツという健康的な格好だ。快活な表情と相まって、健康的な印象を受ける。
打って変わって蘭崎礼慈。なんか異様に黒い。今まで触れなかったけど、まず髪が不自然に黒い。そして、黒い長ズボンに黒いシャツ。極めつけは黒い白衣のようなコートだ。
最後は宵宮理子。鴉の濡れ羽のように艶のある黒髪ロングに、体の要所要所が強調された服が相まってオトナっぽく見える。ただしあどけなさの残る表情のせいで台無しだが。
まあつまり。
滅茶苦茶目立っていた。
えーなにこの、めっちゃ入っていきづらい空気。
目立ちすぎて皆遠巻きに見てるし。
一人ひとりでも目立つのに、いろんな目立ち方をする連中が一同に会してるから倍目立つんだよなー………。
まあ、行かないことには話が進まないか。
「なんだ、もう全員集まってたのか。」
と、俺はそいつらの環の中に踏み込む。
まだ待ち合わせの10分前だぞ。
「あ、やっと来たわね。おはよう。」
「ああ。おはよう。」
「あれ?その子は?」
と、目ざとく発見したようで。
いつの間にか俺の後ろに隠れていた雫を指差している。
「そうだな。本格的な挨拶は新幹線の中でするとして、紹介だけはしとかないとな。おい、雫、挨拶しろ。」
俺はそう言って、雫を強引に前に出す。
「ひ、ふぇえ…………えっ、えっと、ひ、柊、し、雫、です。よ、よろしくお願いしましゅっ!」
つっかえつっかえ言った挙句、最後噛んだな。
と、耀が、雫を食い入るように見つめている。
「………なんだかとっても萌えるの。」
よし。今の発言は聞かなかったことにしよう。
「まあ、これが妹の雫だ。旅行の間と言わず、よろしくしてやってくれ。」
「勿論よ。あたしたちは仲間を歓迎するわ。って、時間ね。行きましょう。新幹線に遅れると面倒だから。」
ゆりの声に従い、それぞれが旅行鞄やトランクを持って移動を開始した。

そのまま電車(結構混んでた)で東京駅まで向かい、新幹線に乗り込む。
…………何故かグリーンの、しかも個室だった。
「手配は任せろって言ってたけど………、高かったんじゃないのか?これ」
グリーン車の個室というのは、最近新幹線に投入された設備で、要するにグリーン車の設備を使った個室だ。
今俺たちがいるのは8人用の個室。
広々としていて、どう考えても安いものじゃないだろう。
「気にしないでいいわよ。それより、自己紹介の続きしましょう。」
荷物を邪魔にならないように置き、ゆりはそう言った。
「それもそうだな。じゃ、順番にどうぞ。」
「あたしは楓ゆり。えっと……部長よ。」
そういうことになってたな。
「面倒だから一気に紹介しちゃいましょう。こっちの不良っぽいのが星砂煌。そっちの小さい男女が煌の弟妹で双子の輝と耀。その黒服が蘭崎礼慈で、ちょっとオトナっぽいのが宵宮理子。全員うちの仲間よ。よろしくね。」
「はっ、はいっ、よろしくお願いします。」
と、そこまで進んだあたりで列車が動き始めた。
「さて、二泊三日、楽しんで行くわよ!」
さて。
「確か、海だったか?」
「そうよ。海辺の別荘。」
「ふーん。」
「海辺の別荘で泊り込みってのも、結構定評のあるイベントっすね。」
「なあ、それは何の定評なんだ?」
「えーだって、スクリーンショットでも水着の絵は外せないっすよ。水着のシーンがないゲームなんて外道っすよ外道。まあよっぽどストーリーが良かったらそれもアリっすけどね。」
「それはギャルゲーだよな?エロゲーじゃないよな?」
ギャルゲー=15禁。
エロゲー=18禁。
「え、勿論エ………ギャルゲーっすよ。」
「今何て言おうとした!?『エ』って言ったよな今!?」
「気のせいっしょ。それより、『友人の妹』っつーのも、これまた定評のある攻略対象なんすよねー。」
「そういう目で生身の人間を見るな。何より俺の妹をそういう目で見るなこの廃人。怯えてるじゃねぇか。」
雫がまた俺の影に隠れてぶるぶる震えている。
「冗談っすよ冗談。僕はリアルに人を取って喰ったりはしないっすから安心してください。それよりも、現実的には耀の方を心配したほうがいいんじゃないっすかね?」
ああ、それは俺も思ったよ。
「え?何で私なの?」
「………さっき雫を怪しい目で見つめてたろうが。」
「そんなわけないの。別に、『可愛い』とか『喰べたい』とかなんて思ってないの。」
「お兄ちゃん!この人たち大丈夫なんだよね?普通のお友達なんだよね?」
雫がますます怯えていた。
「旅行、か。お泊りなんだよねぇ。紫苑、後でわっちの部屋に招待してあ・げ・る☆」
「お断りだ。」
毎度毎度こいつは………!
「来ないと妹さん、わっちが喰っちまうかもよ?」
「テメェというやつぁ…………………っ!」
「あなたたちからかうのもいい加減にしなさい。」
と、ゆりが場を収めようと手を叩く。
「雫ちゃん、すっかり怯えちゃってるじゃない。これでこの後会話なくなったらどうすんのよ。」
「冗談なの。私が狙っているのは、お姉様だけなの。」
ゆりの頬が引き攣ったが、気にしない方向で。
「どうするんすかゆり。貞操の危機っすよ?煌にでも守ってもらうっすか?」
「ばっ、馬鹿!そんなことするわけないじゃない!しっ、しかも、何で煌なのよ!有り得ないわよ!絶対の絶対に有り得ない!!」
そこまで熱心に否定する必要があるだろうか。
煌のほうは『いつものことだ』と平然としているけど。
「まあ、ちょっと頭イッちゃってる奴もいるけど、これが俺の仲間だ。まあ、よろしくしてやれ。」
「う、うん。あ、そうだ。」
と、雫は何が思い出したように立ち上がり、
「こ、この度は、私を誘ってくださり、ありがとうございました。」
と、礼儀正しく頭を下げた。
「いいのよ別に。どうせ暇だったし、人数的にも丁度良かったしね。」
「そうっすよ。それに、人数は少しでも多いほうが盛り上がるっす。」
「だな。紫苑から話は聞いてたし、いつでも大歓迎だ。」
「そうなの。これからもちょくちょく誘うから、よろしくなの。」
「だよねー。今日に限った話じゃなく、これからもよろしくしてちょーだい。」
と、大歓迎だった。
「だってさ。お前、どうせうちの高校来るんだろ?仲良くしようぜ。」
「う、うん!よろしくお願いしまひゅっ!」
最後また噛んだな。

さて。
そのまま新幹線に乗って。
途中で乗り換えて、電車を乗り継いで。
地方のどっかの駅で降りる。
そのままテクテク歩いて30分。
……………。
文章ではサラッと書いてあるが、実際の工程は地獄だった。
真夏の炎天下である。
まあ、海が近いから、風は涼しかったが。
そうしてしばらく歩くと、見えてきた。
別荘と。
そして何より、青い、蒼い海と、白い砂浜だ。
これだけでもテンションが上がるわけだが。
振り切れた奴が約二名いた。
「海だぁあああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
「ヒャッハー!泳ぐっすよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
荷物を投げ出し、一気に駆け出すバカ二人。
ゆりと輝だ。