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刹那は永遠には勝らない

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「眉間」

指摘すると、ますます彼の眉間に皺が寄った。
口元は笑んでいるため、彼がただ困っているだけだということは見て取れる。
しかし困らせたいわけでもなかったので、イーグルは半ば途方に暮れそうになった。

「分かんねぇ野郎だな、テメェは」
「そうかな」
「好きなようにやったらいいじゃねぇか。何ならオレと、傭兵でもやるか?」
「・・・・・・・・」

言葉を発してしまったあとに、頭を掻き毟りたい衝動に駆られた。
どうしようもなく持て余す。
目の前のこの男を。
彼に対する、己の感情を。
俯く可愛げなどはない彼は、それでも節目がちに言葉を選んでいるように見える。
口内は乾く一方。
らしくない、こんなのは自分らしくない、そう思えば思うほど、焦りは募る。
発した言葉に嘘は無い、とイーグルは己に向けて断言する。
しかしその一方で、問いかける。
嘘が無いのに、何故もっと強い言葉で伝えなかったのだろう。
誤魔化したかったのだろうか。
あるいは、恐れていた?

「イーグル」

何かを伝えるように名前を呼んでおきながら、彼はそれきり黙りこむ。
しかし目は時に口よりも雄弁だ。
彼のその目を見て噴出した、興奮からは程遠い、しかしこの身を切り裂くほど鋭く痛めつけるその激情を何と呼んで良いのか、イーグルは分からなかった。
胸の辺りに感じる熱く膨大な質量に苛まれながらも、平静の在り処を必死に確認する。
そして、目を閉じる。
眉間を揉み、重い血だまりのような感覚を逃がすと、一つ大きく息を吐いた。

「・・・・分かっちゃいる」
「・・・・・・」
「だから、そんな顔してんじゃねぇよ」

力任せに攫って逃げてやろうかと、そんな考えが過ぎったことを、伝えようかと思ったが止めた。
そんな事を言えば、彼はまたその目の陰りを深くするだろうから。
彼の目にあったのは迷いでも困惑でも何でもない。
ただの、罪悪感だ。
その目を見たら、分かってしまった。
あれ以上食い下がっていれば、彼は今後一切共に歩むことを許さなかっただろう。
彼は何よりも計画を重視する。その為に、唯一の望み以外の全てを捨て去った。
国も、家族も、情も、誇りさえも、全ては礎と成り果て、深い地の底へ丁重に葬られている。
善悪はさておき、稀有な生き方だと思う。
面白いとも思う。
だからこそ自分はこの男と共にいるし、今後も共にいて、その生き方を見ていたいと思える。
自分の判断は恐らく正しかった。
彼の計画を妨げるような事はしてはならない。
そうでなければ共にいることを許されないから。
そう考えるイーグルは、正しいことが常に最善であるとは限らない事に思い至らない。

「すまないな」
「謝るくらいなら、礼を言いやがれ」
「ああ・・・・ありがとう、イーグル」

彼は笑う。
(オレの望みは、ここにあって、叶わない)
暖かな絶望の中でイーグルは喘ぐように息をした。



作品名:刹那は永遠には勝らない 作家名:mo-so