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THE SPEAK OF MY HEARTS!

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1.



「おはよう、バニーちゃん」
晴天の青空。ゴールドステージのバーナビーの住むマンションを見上げつつ、虎徹はバーナビーの電話にコールして通話が繋がるとそんな声を上げた。虎徹は言いつつ車から降りて、開いただけの扉に腕と顔を預けて電話を耳に押しつけたままマンションを見つめる。
『朝から元気ですね』
電話のその声にバーナビーが苦笑をするような声を上げれば虎徹は笑い声を上げると、朝から元気じゃなかったらいつ元気だすんだよ、とそう声を上げた。
「新しい朝で、有給の貴重な休みなんだからなー」
笑い声でそう虎徹がそう言っていると、目の前のマンションの入り口にある自動ドアが音を立てて開くのだから、思わずその音にそちらを見れば、いつものバーナビーが携帯電話を耳に当てたままで笑ってから片手を上げて、おはようございます、と声を上げた。
目の前のバーナビーと耳の携帯電話とで、虎徹の耳には二重に声が聞こえる。
「早いじゃん」
だけれど、思わずポツリとそう虎徹は呟くと、バーナビーを見つめて笑う。そしてバーナビーもまた笑みを浮かべた。
「時間は守るのが当たり前でしょ?」
そんな声を上げながら携帯電話を耳から外し、パタンと折りたたむと虎徹の耳にはツーツーツーと通話終了の音が届くと、バーナビーは恥ずかしげもなく笑う顔のままで、空を指差した。
「見えてましたし」
「え?」
言われた言葉に間抜けな声を上げた虎徹はバーナビーが指差した先を見ると、そこは先ほどまで虎徹が見上げていたバーナビーの住むマンションの一室だ。
言われた言葉の意味にハッとなりながら、なんだよお前と思わず息を吐き出しながら、車の扉に凭れ掛かるとバーナビーはなにやってるんですか、とそんな声を上げた。当たり前の様に恥ずかしげもなく、そう言うバーナビーに対して少しだけ顔を赤くするのは虎徹だけだ。
だけれど、だ。
(見てたって、要するに割と楽しみにしてたって事だろ!)
ポーカーフェースというか、なんというか。当たり前みたいな顔のバーナビーがここにいるというのに、バーナビー当人は無意識にそう言うのならば、半ば強引に二人で合わせた休みでよかったんじゃねーか、と思わず虎徹はハンチング帽のツバで、目の先を隠す様にして唇だけを堪えきれないままに笑みの形にすれば、バーナビーは肩を竦める。
「何、ニヤついてるんですか、気持ち悪い」
そんな声を発するバーナビーに虎徹はえっ!?と声を上げた。
「気持ち悪いなんて酷くね?オジサン泣いちゃう!」
なんて何処か拗ねた様な声をあげれば、その声にバーナビーは笑うと、助手席の扉を開けてそこに乗り込む。乗り込んで、シートベルトをしっかり嵌めたバーナビーは、相変わらず運転席側の扉に突っ伏した虎徹に声を掛けた。
「で、いつまでそうしてるんですか」
苦笑を浮かべてそう言えば、いつの間に!と虎徹は思わず声を上げながら、いそいそと運転席に収まるとシートベルトを嵌めてハンドルを握る。
「アナタがその扉と仲良くやってる間ですよ」
「何それ。この扉が俺の恋人みたいな?」
「なにいってるんですか?」
はぁ、と大きく息を吐き出して肩を竦めるバーナビーに、虎徹は誤魔化す様に笑い声を上げて、バーナビーの方に顔を向けて指を指す。
「じゃあ、恋人はバニーちゃんってことで!」
ノリと勢いでそんな声を上げれば、はぁ、と沈黙した車内でカチャリと小さな音がする。
「すみません、今日の有給は一人で過ごします。」
「あああ!うそ!うそです!バニーちゃんはあくまでも俺の相棒様々です!」
シートベルトを外して車内からそう声を上げて降りようとしたバーナビーに冗談だってば!そう声を上げ、運転席のシートベルトを一杯に伸ばしながら、虎徹はバーナビーに手を伸ばす。
そんな虎徹に本日何度目になるか分からないため息を上げながら、バーナビーは虎徹を呆れた顔で見ると、もう一度きちんとシートに腰を落ち着けさせてから、シートベルトをすると、全く……と声を上げた。
「冗談は顔だけにしてくださいよ」
「ええっ?なにその言い草!そりゃーイケメンのバニーちゃんから比べたらオジサンなんてアレだろうけど、こう見えても…」
「時間が勿体無いですよ、で、結局今日の予定全然聞いてませんし、それに有給って言っても何時、コールが掛かるか分からないんですから、家の前でダラダラするの止めません?」
涼しい顔で一息にそう言うバーナビーを虎徹は薄目で見ると、そうね、と小さく声を上げた。
差し込んだままの車の鍵を回して虎徹は愛車のエンジンを掛ける。
「まぁ、いい気分転換にはなると思うぜ、バニーちゃん。」
そう言いながらウインクを一つバーナビーに投げつけると、バーナビーははぁ、とまたため息を吐きだして、良いトシしたオジサンのウインクなんて…と呟くと、虎徹は内心で、いや、遠足楽しみにな子どもみたいな発言最初にしたのはお前だろとおもいながら、ははは、と笑い声を上げつつ、車を発進させたのだった
   *
広場のベンチに腰を下ろしたバーナビーはぼんやりと空を見上げていた。
虎徹がバーナビーを連れてきた先は、シュテルンビルトからブロックスブリッジを越えた先のシュテルンビルトを一望できる橋を渡った先の広場だ。
ゴールドステージにも勿論公園は存在するが、こんな場所がこんな所にあるなんて知らなかった、と周りを見渡して思えば、当たり前だと、バーナビーは自嘲する。
周囲の景色なんか見ることも無く、自分は今まで只管に両親の殺害犯人だけを追い求めてきていて、こんな風に誰かと一緒に何も考えずに休日を過ごす日が来るなんて事考えたことなかったのだ。思いつつ、だけどこんな風に最初に過ごす人があの人なんてね、と思いながら大きく空を見上げながら思えば、雲ひとつ無いその空の青がとても高くて、妙に笑いがこみ上げてきた。
「なんであんな人と一緒にすごしてるんだか」
 何度か断ろうと思っても、結局のところ流されるままに承諾して断ることなんて出来なかった同時休暇。しかもなんだろう、いつもよりも少し早めに目覚めて、自室の窓から外を眺めてはあの人を待っていただなんて酷く自分の心が滑稽に思えて、朝の事を思い出しては少しだけ恥ずかしくもなってみる。いや、思ったところで今朝の事実は消えないのだけれど、と直ぐに思い直せば、唇から漏れるのはため息だ。
(本当に、強引というか、なんというか……だけれど)
「まぁ。悪くないというか」
 そんな言葉を小さく口から吐き出して、ぼんやりと目の前の巨大な橋を見上げた。
     *
ぴた、と頬に何か宛てられる感触と共に声が掛かった。
「ほら、バニーちゃん、昼飯」
いきなり頬に当てられた感触にびくりとバーナビーは体を振るわせると、けらけらと袋をバーナビーの頬に当てた張本人は笑いながら、なに驚いてるんだよ、と声をあげる。
「バーナビーです」
同様を隠すように、そう言いつつ、バーナビーは自分を驚かせたその茶色の紙袋を受け取ると、差し出した張本人である虎徹を睨みつけた。
「なんだよー怖い顔すんなよー怖い顔してもイケメンなんてずるいぞー!」
作品名:THE SPEAK OF MY HEARTS! 作家名:いちき