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仕事伝説 ―いざ、伝説へ!―

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 ある下町の一角。古ぼけた家のドアに掛かっているその看板に、『仕事屋』、と書かれてある。
「ふ~、今日もたくさん働いたな。イリス、今日の件、全部片付けてきたぞぅ~」
「呑気ねあんたは・・・焦りもしないで」
 満足げに帰ってきた男、ディーク・ロー。自称、『伝説の仕事屋』である。
「こんな書状が着たっていうのに。国に喧嘩を売ったのよ?全く目先の事しか考えないんだから」
「それはこっちのセリフだ。お前の国の書状じゃねーか。なのに、動揺すらしない」
 女性の名は、イリス・バルトという。ディーク宅に住む同居人兼計理士といったところだ。
 しかし、彼女はある国のスパイであった。任務を放棄したところをディークが匿い、今に至っている。といっても、それまでの事の次第は、詳しく訊いてはいない。この付き合いは、彼が彼女の依頼を受けた事からにも関わらず。
 『仕事屋』、というのは殺し以外の依頼なら引き受けるという、『何でも屋』の事である。
 但しディークは自ら伝説と名乗るものだから、一体何回厄介事に巻き込まれたか数知れず。しかし、これほどの厄介事は経験した事が無い。イリスの生国からの書状。それが彼に届いたのだ。
 先日イリスを抹消する為に送られた刺客、ヴァイン・レイフを、二人が警察に引き渡してしまったからだった。
「しばらく、何も無いと思ったんだけどな~・・・」
「一旦は私も、貴方は凄い人だと思ったけど・・・、陛下にとっては貴方なんて、どうとでも料理出来るみたいね」
 あれから数ヶ月経ち、イリスの所属していた機関は、彼女の抹消を諦めていた。しかし、武力一ぶぁん!がモットーらしい国王はたった一人の戦力の欠乏を許さないらしい。

『自称、伝説男に告ぐ。
 リュカス・ウェッジをブライツ王国に引き渡せ。さもなければ貴公の国を問答無用で攻め、貴公とリュカスを斬首とする。期限は七日なり                      
               ――――ブライツ王国国王 ラフスト四世』

「凄いよな。貴公の国、だってよ。まるで俺がこの国の王みたいだ」
「・・・・・・またそうやって遊ぶ。分かってる?これは宣戦布告状、最後通牒なのよ!?」
 彼の一存で、ベルク共和国の民は戦に晒される危険性がある。それは避けねばならないのだ。
 しかし彼は、相変わらずの態度。
「冗談だ、分かってるよ。・・・で、どうする?イリス。リュカスってのは、前の名前だろ?」
「・・・国に、戻るわ。やっぱり、貴方に迷惑はかけられない」
「ばっかやろ。お前、死ぬ気か?帰ったって、殺されるに決まってるだろーが!」
 今まで、イリスは生国について、国名さえ明かさなかった。この証書が来なかった、数日前までは。
 ディークはラフスト四世がどんな顔か、仕事先で肖像画を一度、見た事がある。
 シャッ・キーンッ!と、擬音語が付きそうな固められたひげを蓄え、戦好きに見えた。
「そうとは限らないわ。陛下は私の戦歴に惚れてたから、ひょっとすると『メイス』に戻したいのかも」
「・・・あほかその王は」
 呆れた様子で言うディークに、イリスはぽつんと呟いた。
「覚えてる?私が貴方と、初めて会った時の事」
「何だよ、珍しーな。そんな話をするなんて。そりゃ覚えてるぜ」
 イリスは小さく言った。これが、自分がディークと会う、きっかけになったのだと。