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風鈴に夢を閉じ込めて風車で世界を廻す

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 やっぱり知らない村のお祭りなんて来るんじゃなかった。
 私は引っ越して来たばかりの村の神社の夜市に来たことを後悔していた。恋人は勿論友達もいないから独りで回るしかないし、無駄に張り切った母親に着せられた浴衣が虚しい。この年になって家族と来るのもどうかと思って断ったが独りでは夜店を見ていても面白くないのだ。メインイベントの肝試しにも盆踊りに参加するつもりはなかったし、もう帰ろうと思った。
 チリン、と涼やかな音がする。
 見ればお面を掛ける様な人の背丈よりも高い台いっぱいに風鈴が揺れていた。
「お譲ちゃん、もうお帰りかい?」
 その前で木の椅子に座っていた老人が話しかけて来る。
「祭りのお土産に一つ如何だい。絵付けは全部ワシがしてるんだ」
 老人は椅子から立つと一つとって私に渡す。
「風鈴には夢を閉じ込めてあるんだ」
「……リボン?」
「それは金魚帯さ。子どもの浴衣の帯だ」
 鳴らすと安っぽい響きの悪い音がする。
「可愛い」
「毎度有り」
 浴衣に帯の絵の付いた風鈴を下げて下駄で歩くととても夏らしい気分になった。



 今日は引っ越して来たばかりの村のお祭りに来た。道に迷う心配が無いほど、この村の中の何処にこんなに人が居たのかというほど神社には人が集まっていた。鳥居を潜ると参道になり両側に夜店が出ている。初めに目に飛び込んできたのは両側を埋める色取り取りの風車だった。
「うわぁ……」
「すごいだろう? この祭りに来た証しみたいなもんさ。一つ持っていきなよ」
 店番らしい頭にタオルを巻いたお兄さんが声を掛けて来る。選ぼうと見るのだけれど数がすごくて、それらが一斉に風で回るものだから目が回る。
「これなんか良いんじゃない? 髪飾りにあってる」
 お兄さんは高い所にある風車をひょいと取ると渡して来た。私は新しい髪飾りに気付いてもらえたことが嬉しくて笑顔になった。橙と朱が入り混じった風車が手の中で回っている。
「毎度」



 帰ろうとしたんだ。帰ろうとして石畳を踏んでいたのに鳥居の先にはまだ夜店が続いていた。参道の両側に派手な色の風車が一斉に周り目を引く。
 そうか、このお祭りの名前は……
 道の真ん中に浴衣姿の女の子が居て風車を貰ったところだった。



 後ろで下駄で砂利を踏む足音がした。振り返るとそこに居たのは

 私、だった。

 おかっぱで綺麗な色の髪飾りを付けて浴衣を着こんで風鈴を下げた私が私を見ていた。
「え……?」
 向こうも驚いたように目を見張って私を見ている。
「風車が世界を廻すんだ。そら」
 そっくりな二人が見つめ合っているのにお兄さんは気にしないように私に話し掛け風車を廻した。
「やってごらん」
 私の手頸を優しく持って吹き易いようにお兄さんは風車を私の前に出してくる。
 くるくるくるくるくるくるくるくるくる
 なんだか夢のような心地になって私は風車を吹いた。




 橙と朱が零れる。夢が廻る。
 金魚が帯が夏の日々。
 風鈴の音がする。夜風がお囃子を運んでいく。
 鐘が鳴る。盆踊り。神社とお寺と村の人。

 ふうりんにゆめをとじこめてかざぐるまでせかいをまわす