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名探偵カラス Ⅲ

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 この所、ホワイティにずっと会ってなかったポーは、とても寂しそうな顔をした。
 俺って、心が狭いカラスだろうか……? アンフェアな気がして、ちょっとだけ心が咎めた。
 
 しかし俺たちは、大急ぎで山寺のポーのネグラへ戻ると、今後の対策について二人であれこれと話し合った。
「なぁ、どうしたらいいと思う? 何とかアイツを懲らしめてやりたいんだ!  アイツだけは絶対に許せない。ポーもそう思うだろ?」
「うーん。確かにカァーくんの言う通りだと思うよ。だけど……」
「ん? だけどって何だよ。だけどって!」

 どんなに話してもポーの返事がはっきりしないので、俺は次第に苛立ってきた。
「カァーくん落ち着いてよ。確かにそいつは酷い奴だとはボクも思うよ。だけど、ボクたちに一体どんなことができるんだよ? ボクたちは人間じゃあないんだよ!」
「うーん。そりゃあそうだけど……」
 ポーは俺を諫めようとして、そう言ってくれているのは分かっている。
 しかし、考えれば考えるほど奴を許せないと思えてくる。
 何かいい方法はないだろうか? あんな奴、この世からいなくなったって良いくらいなんだ!
「そうだ!」
 突然アイデアが閃いた。
 それをポーに話すと、ポーは必死に止めた。
「ダメだよ! カァーくん。それだけはやっちゃダメだ! 絶対に神様が許しちゃ下さらないよ。そんなことをしたら、一体どんな罰を受けることになるか……。あぁ、考えただけでも恐ろしいよ」
 そう言ってポーは身体をぶるぶると震わせた。
 ポーには止められたが、俺のアイデアは頭の中で少しずつ、現実味を帯びた計画へと形を成していくのだった。
 夕方近くまでポーの所にいて、さあ、帰るか……と思っていたら、慌てふためいた様子でホワイティがやってきた。
 もう鳩が外をうろつくような時間じゃあないんだ。ポーだって、もうそろそろ寝ようとしてたんだから。
「どうしたんだよ? ホワイティ。こんな時間に……。危ないじゃないか」
 俺が驚いてそう言うと、ポーも同調して言った。
「そうだよ! こんな時間に……。何かあったのかい?」
 ホワイティはよっぽど急いで飛んで来たのか、呼吸を整えるためしばし時間を要した。そしてようやく落ち着くと、ホッとしたように言った。
「あぁ、良かったー! カァーくんがいてくれて。いなかったらどうしようかと思ったの。真由美さんが大変なの!」
「えっ! 真由美さんが?」
 俺とポーが同時に言った。
 俺たちは顔を見合せ、互いの意思を目と目で確認すると、代表して俺が質問を口にした。
「ホワイティ、真由美さんに何があったんだい?」
「それが……。夕方いつものように帰って来た真由美さんは、玄関を入って来た時から顔色が良くないように見えたの。それでもベランダにいた私に『ただいまぁ』と言いながら、私を中へ入れてくれて、台所のテーブルに一通の手紙を広げて読み始めたのよ。たぶん帰って来た時にポストから出してきたんだと思うんだけど……。それを読む真由美さんの顔がどんどん青ざめていって、私はその手紙に何が書いてあるんだろうと、テーブルに上がって覗き込んでみたの。でも私は人間の字は読めないから、何て書いてあるのかは分からない。でもね、あの字は、間違いなくアイツの字よ! アイツが何か言ってきたのよ。だから真由美さんは……」
 最初の内こそ落ち着いて話していたのに、次第に興奮してきたホワイティは、そこまで言うと急に声を詰まらせ泣き出してしまった。その時の真由美さんの様子を思い出したのかも知れない。
「ホワイティ、泣いてる場合じゃないだろ! それで真由美さんはどうしたんだ?」
「うっ、ごめんなさい。真由美さんは、それを読み終える頃にはガタガタと震え出して、危うく気を失いそうだった。でも何とか椅子に手を掛けて踏み留まったの。だけど、見ていられないほど恐怖と不安に満ちた顔で、ついにはシクシク泣き出してしまったの。彼女の気持ちを思うと辛くって……。これから何が起ころうとしているのかが私には分からないから、とにかくカァーくんに報せようと思って、急いで真由美さんに外に出してもらってここまで来たの」
「――そうか、アイツがまた手紙をよこしたのか。じゃあそれに何が書いてあるかだな……」
「お願い、カァーくん! 真由美さんを助けてあげて!」
 俺は少し考えると、ホワイティを伴って真由美さんの所に行くことにした。
「――分かった! 俺に任せてくれ。じゃあすぐに真由美さんの所へ行こう。ホワイティだって一人で帰るのは危ないし、ついでに送って行くから」
「ありがとう。カァーくん」
「カァーくん、ホワイティと真由美さんを頼むよ。ボクにできることがあったらその時は言ってね。気を付けて!」
 ポーが、そう言って俺たちを送り出してくれた。

 俺はホワイティが遅れないように気遣いながら飛んで、真由美さんのマンションまでやってきた。
 ホワイティがドアのガラスを「コツコツ」と突付くと、真由美さんがすぐに気付いて戸を開け、俺たちを中へ入れてくれた。
「あら、カラスくんいらっしゃい。こんな時間にホワイティが外に出たがるから、一体どうしたのかと思ったら、カラスくんを呼びに行ってたのね」
 そう言った真由美さんはもう泣いてはいなかったが、その瞳は赤く充血していて、ついさっきまで泣いていたことを示していた。
 俺は一声「カァー」と鳴いて挨拶をすると、早速台所のテーブルに向かった。
 そこには、まだ手紙が広げたままで置いてあった。
 俺がそれを読んでいると、そばに来た真由美さんが言った。
「カラスくんは、字が読めるのかな? まさかね」
「カァーーァ〔読めるんだよ〕」
「――アイツが、また手紙をよこしたのよ。それもこんな酷いことを書いて……。カラスくんのことも恨んでるみたいだから、気を付けてね。私はこれを持って警察に行くわ。もうこれ以上我慢なんてできない! これ以上アイツの思い通りにされるのも、泣き寝入りするのもイヤよ。あんな男、絶対に許せない!」
 真由美さんは、俺に語りかけるように強い口調でそう言いながらも、その瞳にはまた涙が溢れている。
「――例え今回のことが世間に知れることになっても……。もう、私も覚悟を決めたから……」
 そう言うと真由美さんは、ホワイティを抱き、ベッドの端に腰掛けて深い悲しみに沈んだ。
 俺はもう一度その手紙に、じっくりと目を通した。
作品名:名探偵カラス Ⅲ 作家名:ゆうか♪