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「それでは、次のニュースです」

 抑揚の無い、ニュースキャスターの声が響く。日本と言う国は平和な方だ。ニュースを見ていても、そう大きな事件は起こらない。
「昨夜未明、東京某所で少年A(16)が意味不明な言葉を叫びながら交際していた少女をナイフで刺殺すると言う事件がありました」
 物騒な事もある物だ。同い年の少年が人を殺したと言うニュースを聞いて、思わず僕はそう思った。しかし、それは僕にとってもあまり関係の無いことだったし、それ故に気にもとめなかった。
 実際、最近の十代はキレやすいと言われるが、僕はそれ程でもなかった。どちらかと言えば、怒らないタイプだったし、目立たないタイプだった。だから、人によっては無関心と言われるかもしれないが、それが僕の世渡りの仕方だった。
「八時になりました。続いて――」
 しまった。ついつい、ゆっくりしすぎた。自宅から、高校までは比較的遠い。自転車で無理をすれば、間に合うかもしれないと言ったところだった。
 急ぐしかない。僕はテレビの電源を切って、外へと飛び出した。
 
 自転車のペダルを必死に踏み、学校を目指す。
 一応、ホームルームが終わった頃には学校に到着し、慌てて教室へと入ると、どうやら自習だったらしく、教師の姿は無かった。
 珍しく慌てていたもので、勢いよく扉を開けすぎたことを、落ち着いてから気がつき、クラスの空気を見る。
 視線が集まる、視線が僕を見ている。そういえば珍しく、教室が静かだ。いつもは不良の稲葉や綾瀬さんが、なにかと私語をしているのに、じっとこちらを見ている。
 気まずさを覚え、そそくさと自分の席に座る。
「おはよう」
 隣の上杉に一応、挨拶をする。そんなに仲はよくないが、挨拶ぐらいはする。
「――」
 上杉が何かを言った。うまく聞き取れず、もう一度聞く。
「ごめん、上杉君。もう一度言ってくれるかな」
「――」
 やはり、何かを言っているのは確かだが、意味がわからない。僕は少し驚きながら、前の藤堂さんに声をかける。
「藤堂さん、上杉君なんて言ってるか解る?」
「――――――」
 藤堂さんも、以前解らないことを言う。
「――!」
 怒鳴るような、稲葉の声が教室に響く。しかし、やはり解らない。困惑していると、稲葉は僕の服を掴んで引き寄せた。
「――!」
「ま、まって。稲葉君、落ち着いて!」
 乾いた音がする――。
 ――痛い。稲葉が、僕の腹を殴ったからだ。
「―!――」
 そう言い終わると、捕まれていた服を離され、バランスを崩し、僕は床に座る形になった。
 クラスメイト全員が僕を見て笑って居る。
 解らない言葉で、日本語をしゃべっている僕が可笑しいと言わんばかりに、僕を嘲笑っている。
 僕は、おもわず教室から飛び出した。
 ――よくわからない。解りたくない。可笑しいのはあいつらだ。僕は普通なんだ。そうやって自分に言い聞かせる。しかし、本当に僕が普通なんだろうか? 自信があるわけでは無い。
 誰かが追いかけてくる。――綾瀬さんだ。僕は必死に走る、追いつかれたら、また殴られるかもしれなかったからだ。綾瀬さんは、すごい勢いで追いかけてくる。それに何か訳の解らない言葉を叫びながら、鬼のように追いかけてくるのだ。
「――煩い!」
 僕は綾瀬さんを振り切り、声を荒げて自転車置き場まで走った。綾瀬さんは驚いた顔で僕を見る。それ以外は誰も居ないし、僕の声は誰にも届きそうには無かった。
 校門を抜けて、少し行ったあたりで綾瀬さんが追いかけてきた。僕は振り向き、怒号のように煩いと叫んだ。
「――!」
 危ない。そう、綾瀬さんが言ったように聞こえた。
 しかし、そう理解するより早く。僕の体は中に浮いた。

 サイレンの音がする。けどそれすらもノイズ混じりに聞こえ、僕は白いベットに寝転がっていた。
 ベットの横には医者が立っていた。少し哀れそうな目を向けてくる。
「目は――た――」
 悪い夢でも見ている感覚に陥った。僕はなぜこんな場所に居るんだろう。――こんな場所からは早く逃げたい。だけど、今は眠い…
…。まるで、夢の中でさらに寝るような感覚だったが、僕は目を瞑ると、壊れたラジオのような医者の言葉がやがて聞こえなくなっていった。

 不意に目を覚ますと、消灯時間が少し過ぎていたらしい。僕はここから逃げ出すためにベットにしっかりとシーツを結んだ。何回も強度を確かめる。扉の外では懐中電灯を持った看護師が外を歩いている。やはり、逃げるなら窓を伝うしか僕には考えられなかったからだ。
 ゆっくりと下へと降りる。途中でさっきの医者がまたノイズ音の様なものを喚く。
「――」
 ――いったい、僕の身には何が起こっているのだろう。慌てて、その場から走り出し、帰路を辿る。
 家の明かりはついて居ない、親は早くにしんだから、僕は一人で住んでいる。近所付き合いなんて煩わしいからしていなかったし、事故に遭ったと言っても誰も僕を心配はしてくれなかった。
 とりあえずテレビを付けてしまう。そんなつもりは無かったが、日々の習慣とは恐ろしい。どうやらニュースをやっているようだ。
「――――――」
 しかし、ニュースも何を言って居るのか解らなかった。ノイズがかったような……頭が割れそうになる。なぜ、言葉が通じないんだ。僕は自分だけが得体の知れない異世界へ飛ばされたような感覚に陥る。
 珍しく日記を書く。――今日は疲れた。僕はベットに潜り込み――夢なら醒めてくれ。そう、小さく祈り目を瞑った。
 次の日は、珍しく学校を休んだ。とてもじゃないが、そんな気分にはならなかったからだ。
 携帯電話に綾瀬さんからの留守電が入っていたが、やっぱりノイズが掛かったように、耳障りな音が僕を包む。
 ――僕は変になりそうだった。
 やることも無い僕は、毎日の事を日記に書きとめ、部屋から一歩も出ない生活を始めた。
 テレビもノイズが掛かったように、僕を襲う。煩い。僕は、死ぬまでこの音に悩まされるのであろうか?僕はちょっとした事でも起こるようになっていった。
 そして、一ヶ月以上たったある日、僕は部屋から出る決意をした。
 もう一ヶ月以上、人と話して居ない。綾瀬さんの電話も出なくなって随分たつ。
 鞄に必要な物を積め、部屋から出る。
 学校までたどり着くと、僕は教室へ急いだ。
 早くあいつらを、この音から助けてやりたかったからだ。鞄をドアの前で開く、鈍く光るナイフと、父さんのコレクションだった改造拳銃をベルトに差した。玉はベアリングだが、たんまりと有った。外からはノイズ音しか聞こえない。
「しかし――やり過ぎたな。」
「えーっと秋原の事か?」
「おま――ゃん、秋原をからかおうって言い出――の」
「もう、こ――なって一ヶ月じゃん。謝った方が――んじゃね?」
「まあ、ギャグ――、謝る必要無くない? うちのクラスだけ、言葉が通じないってすぐ気――」
 ばれないよう、一本のナイフを袖に隠す。深呼吸をし、扉を開く!
「――!」
 僕は叫びながらクラスに入った。みんなが驚いてこっちを見る。言葉がうまく声に出来ない。だが、落ち着いて僕は扉の鍵を閉めた。
「――!」
作品名: 作家名:ドナ