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紫陽花の花

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「美樹を迎えに行ってくれる?」
「あぁ、いいよ」
 休暇中で家にいた水曜日。
 幼稚園に娘の美樹を迎えに行くことになった。
 会社ばかりではなく、家庭にも奉仕せねば。
「・・・・・・で、帰りに何を買ってくればいいんだ?」
「わかる?」
 弱い雨が降っていた。
「お? 美樹ちゃん、傘を持っていかなかったのか」
 傘立てには娘の傘が立ててある。
「今朝は晴れてたのよ」
 奥から妻の声が聞こえてきた。
 妻は今朝から、(といっても私が目覚めたのは十時過ぎだが)上機嫌でなにやら作っていた。香りから察するに、クッキーかパンケーキでも焼くのだろう。
 持たされた買い物メモはそれには関係ないようだ。

 娘の傘を手に持って外に出た。
 幼稚園までは歩いてそう時間はかからない距離で、園児の足でも苦にはならない。
 娘の傘は“いかにも”といった感じの黄色で無地の傘。
 もっとかわいい傘にしようと言ったのだが、送り迎えするのは私なのよ、と力説されてしまい引き下がった。
 どうやら『黄色一色の娘と手を繋いで歩く』のが妻の夢だったらしい。
 たしかに娘がこの傘を持っている姿を想像すると、思わずニヤついてしまう。
 夫婦揃って親莫迦だな、と会社の同僚が言っていたが、子を持つ身になればわかることだ。
 雨はさっきよりもさらに弱くなって、もうじき止む気配を見せていた。

 公園の脇の歩道を通ったとき、紫陽花の花が咲いているのが目に付いた。
 紫陽花を見るとついついカタツムリを探してしまうのは、子供の頃に染みついてしまった習性なのだろうか。
 小さなカタツムリを数匹発見した。マジマジと観察するとやはり気持ち悪い。これを最初に「食べよう」と思った人間の感覚を疑う。もし、万が一、娘が食べたいと言ったら、妻は娘の為に料理をするのだろうか?

 家族の事で頭が一杯になるのは幸せな事らしい。あっという間に幼稚園に着いた。
「美樹ちゃ〜〜ん! 迎えに来たよ〜ん!」
「あら、美樹ちゃんのお父さんじゃないですか」
「新井先生。いつも娘がお世話になってます」
「今日はお仕事お休みなんですか?」
「えぇ。休暇を頂きました」
 新井先生は幼稚園の保母さんで、若くて綺麗な女性だ。
 そのせいか、園児の父親との不倫の噂が絶えないと妻が言っていた。
作品名:紫陽花の花 作家名:村崎右近