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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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紡がれる因縁 第5章《ゼメキス伯爵》


偶然にも程があるだろう?
まだ運命の糸が残っていたなんて
個体は全体であり
全体は個体である
世の中はそうやって成り立っているのさ

 第5章 ゼメキス伯爵

 紅い服の男を目にしてしまったジェイクは大きく目を見開かされた。
「あっ……ゼ…ゼロ!!」
「えぇっ!!」
クィンの顔はそう言ったままで凍り付いてしまい、ただ一心に紅い服の男に目を奪われ放すことができなくなっていた。
 ゼロはマントの裾をきびし二人に歩み寄りジェイクの顔をわが子を見る父親のような眼差しで見た。
「ひさしぶりだな、ジェイク」
「なんで、ここにゼロがいるんだよ」
「ゼメキスに用がある、ただそれだけだ」
完結に述べるゼロに少しムッとしてしまったジェイクはそれ以降口を出そうとはしなかった。
 そんな不機嫌そうなジェイクの顔を見てすぐさまクィンはスマイルを炸裂させる。
「はじめましてゼロさん。クィンと申します。ゼロさんもこの霧の事でここにいらしゃったんですか?」
「それとは別件なのだが」
言葉の途中でゼロの表情は険しいものに変わった。
「……フッ、この霧をどうにかしない事には俺も外に出れん」
「じゃあ、ゼロさんも一緒に戦ってくれるんですね」
「向かってくる敵は倒す。だが、自分の身は自分で守れ」
冷たく言い放ったゼロに対して、ジェイクは喰って掛かる。
「そんな事言われなくったってわかってるよ!」
「口は達者になったようだが、戦闘の技量は上がってないな」
「なんだよ、見てもないくせに!」
今にも飛び掛りそうなジェイクの身体をクィンは後ろから押せえなだめた。
「ジェイク、落ち着いてください」
押さえつけられているジェイクは餓える獣のようであったが、そんな彼を冷たい眼差しで見るゼロは猛獣より勝る恐ろしさを内に秘めていた。
「こんな薔薇に苦戦を強いられているようでは、技量はたかが知れている」
 長剣を鞘から抜き出しながら、
「……フッ、まあ見ていろ」
そう言うと剣を抜き目にも留まらぬ速さで、あっという間に薔薇を切り裂いてしまった。薔薇の花びらが宙を舞い、そして紅いじゅうたんを作り上げた。
 薔薇のじゅうたんはゼロのためにあるかのように優美な足取りで踏みしめられる。
「行くぞ」
 あまりの出来事に言葉を失っていた時間はゼロが剣を鞘に戻す音で再び時間[トキ]を刻み始めた。
「すごい! すご過ぎます!!」
クィンの腕から放されたジェイクはうつむき呟いた。
「わかってる、そんな事……」
「どうしたんですか?」
「ゼロは俺の知ってる中で1番のハンターだ。ゼロの壁すら、俺には見えない……」
ジェイクにとってゼロとは憧れであり、目標である。しかし、彼にはゼロという壁すら見ることができない。そんな自分が情けなくて、どうしようもなくて、だからゼロに反発を抱き、対抗心を燃やし、何かと突っかかることが多くなってしまうのだ。
 三人は屋敷の中に入ろうと門の前まで来た。
 そのときだった、門が内側から開けられ中から何者かが三人の目の前に姿を現した。
 白い甲冑に身を包んだ女性。この女性こそゼメキス伯爵に仕える四騎士のひとり美氷の白騎士ルシアンであった。
「おひさしぶりです、ゼロさん」
白騎士の神々しいまでのアルカイックスマイルがゼロに向けられるが、彼無言で白騎士を見つめすぐに視線を外した。
 ゼロは目の前に現われた白騎士に関心を持っていないようだが、ジェイクは違った。
「あんた誰だよ」
「これは失礼、私[ワタクシ]は白騎士と申します者で、この敷の主、ゼメキス様に仕える騎士でございます」
クィンは白騎士の言葉を聞いてすぐにジェイクへと視線を移動させた。
「この人が村長さんが言っていた四騎士でしょうか?」
クィンの言葉を聞いた白騎士は苦笑を浮かべた。
「四騎士ですか……今はもう二人になってしまいました」
「どーゆー事だよ」
「そこにいるゼロさんとハーディックさんに殺され、天に召されてしまいました。そういえば、今日はハーディックさんはご一緒ではないのですか?」
「親父は、今日はいねーよ」
「親父……?」
白騎士は首を傾げジェイクを見つめる。
「ハーディックさんのご子息の方ですか?」
「黒騎士はどうした?」
ゼロが突然口をはさんできた。彼は周りの会話などお構いなしといった感じだ。
「黒騎士はある所で敵と交戦しております」
そして、白騎士も戦いを始めるべく剣を抜いた。
「ゼロさん、あなた方を屋敷の中へと入れる訳にはいきません。ここはひとつ、お引取り願えませんか?」
「断る」
「いやに決まってんだろ」
「ここまで来たら、前に進むまでです」
自信に満ちたクィンの一言を聞いてジェイクは細い目をしてクィンを見た。
「って、お前魔法使えないんだろ」
「う゛っ……」
痛いところを突かれたクィンは痛恨の一撃を受けた!
 白騎士は蜃気楼のように揺らめき動き、剣を構え目の前の敵たちを青眼の目つきで見て口の端を少し上げた。
「仕方ありません……不本意ですが実力行使をさせていただきます」
ゼロが剣を抜き前に出た。
「ジェイク、クィンさがっていろ」
「俺だって戦える!」
「さがっていろ!」
ゼロの言葉は低く、冷たく、刃のように胸を貫いた。まるで時が止まったかのように辺りは静まり返った。
 紅い瞳で見つめられたジェイクは何も言わず目を伏せ下を向いた。そして小さく呟いた。
「……わかった」
ゼロの持つ剣の切っ先が日の光を浴び煌いた。
「一対一で戦うのは相手への敬意だ」
「ありがとうございます」
二人は地面を蹴り風を切った。剣の交わる音が辺りに響いたかと思うと互いに飛び退き再び剣を振るう。
 しかし、ゼロが突然切っ先を地面に下ろした。そして、白騎士の振るう剣の刃先がゼロの顔ギリギリ、3cmほどのところで止められた。なぜゼロは剣を下ろしたのか? そして、白騎士はゼロを仕留めることができたのにもかかわらずなぜ剣を止めたのか?
「どうしたのですかゼロさん、戦いの最中ですよ?」
「それはこっちのセリフだ」
二人は互いに剣を鞘に戻した。戦いは思わぬ形で終わってしまった。
「殺気も何も感じられなかった」
「貴方のその目は何もかも見通してしまうのですね。ゼメキス様がお待ちです、お急ぎください」
二人の会話に首を傾げるクィン。
「どういう事ですか?」
「行けば解ります」
白騎士はそれ以上何も言おうとしなかった。
 無言のままゼロは屋敷の中へと入って行ってしまった。
 ジェイクとクィンはゼロの後を追ったが、何かふに落ちない気持ちだった。状況がさっぱり飲み込めない。
 クィンが屋敷に入る前にふと後ろを振り向くと、白騎士がにこやな顔をしてこちらに向かって手を振っていた。この白騎士の行為がクィンの頭を疑問と不安でいっぱいにした。
 ジェイクとクィンが屋敷の中に入ると、ゼロは遥か遠くを前を歩いていた。2人はゼロの後を急いで追った。
 ゼロは一度も足を止めることなく屋敷の中をある場所に向かって歩いている。彼はこの屋敷の内部を熟知しているのだ。
 そんなゼロを二人の若者はただ付いて行くだけだった。
 屋敷の内部は絢爛豪華である華やかな中世ヨーロッパ様式になっている。妖魔の世界ではごく一般的な趣味と言える。
作品名:リブレ 作家名:秋月あきら(秋月瑛)