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落書福太郎
落書福太郎
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大江戸評判娘

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一の巻 湊屋 おろく


(一)

 九代将軍、家重執政の宝暦二(一七五一)年 桜の咲く頃。
その時代に、浅草寺地内に湊屋という『ごふく茶屋』を称した水茶屋があった。
これからここでは湊屋をごふく茶屋と呼ぶことにする。
 ごふくとは、御仏供からきたもので、‘仏前に献茶して仏果を得る’という意味のようである。
ごふく茶屋には奥座敷が設けられてはいるが、私娼窟ではない。
お茶を飲ませるのを目的としていた。
この店では、熱い湯でまず桜湯、麦茶を出した。
この店におろくという年若い娘が、いつものように客にお茶を運んでいた。
「ありがとう。おろくちゃんの入れてくれるお茶は天下一品だ。」と、薬問屋の若旦那の田助が言った。
「また、若旦那、冗談がお上手ですね。」と、おろくは言いながら他の客にお茶を運んで行った。
「おろくちゃん、相変わらずきれいだね。」と、大工の留吉は言った。
そして、おろくは客にお茶を配り終えると外に出て、
「ごふくの茶、参れ、参れ。」と、浅草寺参りの人々に声をかけた。
また、おろくは一人の客を店の中に案内した。
棒振りの松太郎であった。
そして、勝手場に戻り、おとっつあんが入れた宇治の茶を客たちに運んだ。
一時が過ぎ、客たちも帰り店を閉める時間になった。
「おろく、片づけはおとっつあんとおっかさんがやるから湯屋に行っておいで。」と、母親のフミが言った。
「そうよ、早く行ってきな。」と、父親の太郎が言った。
「おとっつあん、おっかさん、お疲れ。じゃ、湯屋に行ってくるよ。」と、湯の道具を持って、弁慶縞の小袖を着流し、出て行った。



 しばらく歩いていると、後ろから、「おろくさん、湯屋へ行くのかね。」と、棒振りの松太郎。
「あら、松太郎さん。こんばんわ。」
「おらあも、湯屋へ行くんで、一緒に行こう。」
そして、二人は湯屋に入って行った。
松太郎は、烏の行水ですぐに出てきて、二階に駆け上がり、
「こんばんは。」と、挨拶をした。
隅のほうでは、薬問屋の若旦那の田助が、金物屋の平吉と酒を酌み交わしていた。
「おお、松さんこっちにきて、一局やらないか。」と、太助が手招きをした。
「はいよ、若旦那たち、今日は早いですね。」
「いや、ちょっと前に来たばかりですよ、ねえ平吉さん。」
「そうですよ、ちょっと前に来たばかり。」
「松さん、何か嬉しそうじゃないか。」と、田助。
「さっき、湯屋へ来る途中、おろくちゃんに会って、一緒にきたもんで。」と、松太郎は嬉しそうに二人に言った。
「それはうらやましい。」と、田助は松太郎を嫉妬しているように、言った。
 この田助も松太郎もおろくに一目ぼれしてしまい、毎日のようにごふく茶屋に通っていた。
そして、田助と松太郎は、酒を飲みながら将棋を指し始めた。
半時ほど経った頃、おろくは上がり場で鏡を見ながら髪を結っていた。
今日は、櫛まきに仕上げて小袖を着た。
櫛まき髪とは、櫛を逆さまにまき込んだ髪型で粋な髪型であった。
そして、出口に向かう時、そばにいた男たちだけでなく女もおろくに振り向いた。



作品名:大江戸評判娘 作家名:落書福太郎