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みっふー♪
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novelistID. 21864
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ヅラ子とベス子のSM(すこし・ミステリー)劇場

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+++3



「……んっ?」
アルマイトやかんと湯呑みとを手に、少年はそこではたと首を傾げた。――ボクの思い過ごしかもしれませんけど、と前置きした上で言葉を続ける、
「姉上、さっき一瞬ボクに罪被せよーとしてませんでした? あんないかにもな立ち眩みのエンギまでしてっ」
眼鏡を光らせて詰め寄る少年に、
「……やっ、や〜ねぇぇ、」
姉はホホホと笑ってシナを作った、
「あんなのちょっとしたやるせない嫉妬に駆られた乙女の可愛い悪戯じゃなァーいっ、……いっ、イイでしょ別にシンちゃんだって今までさんざん私の前でラヴラヴいちゃいちゃ見せつけてくれたんだからッ」
口にしているうちに怒りがぶり返したのか、姉はポニテを揺らしてふいとそっぽを向いた。
「そっ、それにしたってやっていいことと悪いことがあるでしょぉっ!」
拳を握って弟はふるふるした。手元の意識がお留守になったので、やかんのお湯が零れてびしゃあとおじさんの顔にかかった。
「!」
――ぅぉあちっ! 幻聴についでに幻覚かもしれないが、おじさんの身体がピクッと反応したように思われた。
「そうだ、」
手元のグラサンに見入って考え込んでいた先生が顔を上げて言った、
「この際手っ取り早くもっとお湯をかけてみましょう!」
「えっ、ええ〜?」
――顔はソフトフォーカスなのにイガイにごーいんだなーこの人、眼鏡の横に汗をかいて少年は思ったが、仮にも“先生”と呼ばれている人間の言うことなので取り敢えず言われた通りにした。
「……。」
――だばだばだば……、やかんの中身を全部使いきってしまったが、おじさんは目を覚まさない。
「わふっ!」
――ボクはもう毛が濡れちゃうからやだよーーーん、一時緊急避難していたワン公は、立ち上がっておじさんの傍を離れた。ついでにぴゃいっと片足上げてそのへんの庭木にマーキングしていった。
「……仕方ないですね」
きゅっと唇を結んで先生が言った。
「代わりに私が添い……」
「俺がやりますっ!」
ぼへーっと突っ立ってるだけに見えた天パが、植え込みを掻き分けてそっこー飛んできた。
「……えっ」
――別にいーのに、腕まくりしかけた手を止めて先生はちょっと(?)残念そうだった。
(……。)
ホント何なんだろうこの人たちは、口の端に浮かべた引き攣り笑いに少年は思った。
「先生っ」
半分濡れてぐでっとしてるおじさんの隣にくっつきながら天パが言った。
「あっ、朝メシは和食と洋食どっちがイイですかっ」
「えっ?」
意図を掴めずに先生が瞬きした。
「いっ、いまは毎朝かわりばんこで用意してますけどっ、ホントはどっち派なんですかっ」
お湯で半生に温かいおじさんの感触を打ち消すように天パが叫んだ。
「……どっちでもイイですよ、君の好きな方で」
――ふぅ、ため息を漏らして先生が言った。
「いいいいやっ、俺がどーとかじゃなくて俺は先生が好きなほーに合わせたいんですっ」
必死に耐えてはいるようだが、天パの声は悲鳴に近い。
「……そーですねぇ、」
少し考え込んで先生が言った。
「じゃあ、その日の気分のビュッフェ方式で」
「わっかりましたっ!」
おじさんに抱き着いた天パはぎゅっと目をつぶった。そうやって朝飯の献立だけにひたすら意識を集中しているらしかった。
「……。」
最初のうちこそ呆れ気味だったが、少年は、見ていてだんだん天パの人が気の毒に思えてきた。本当なら自分がマ夕゛オさんを温めてあげたいところだが、姉上の気持ちを知った現状そうもいくまい。――だからって僕と姉上とでマ夕゛オさんをサンドイッチに両側から温めるってのも……、ウン、なんかダメだなその絵面は、完全な家族愛に昇華できないうちは止しといた方が無難だ。
「……ボク、新しいお湯用意してきますねっ」
少年はやかんを持って駆け出して行った。
「――さて、」
先生が姉の方に向き直って言った。
「グラサンに薬を仕込んだ覚えはない、と、ではそもそもこのグラサンは……」
「――あら?」
先生の手元に目を向けて姉が言った。
「おかしいわ、このグラサン、マ夕゛オさんがいつも掛けていたのと違うみたい」
「えっ?」
確かですか、先生が訊ねた。
「いーモン見っけましたよーっ!!」
お湯を沸かしに行っていたはずの少年が、延長コードをズルズル引っ張り、湯沸しポットごと抱えて戻ってきた。
「これでずっと現場にいられますねっ」
――キャラがちょいちょい出たり入ったりするの煩わしいでしょう、眼鏡を輝かせて少年は笑った。
(……。)
ポジション割り込みするなら今かな、今かな、半紙のめもを片手にスタンバっていた女装子探偵は、完全にタイミングを逸した形になった。ストレッチですっかりリラックスした着ぐるみは木陰でうつらうつらし始めた。
「シンちゃん、これねマ夕゛オさんのグラサンだけどどうしたの?」
先生の手にあるそれを差して姉が言った。
「えっ?」
覗き込んで少年もあっと言う顔をした。
「このグラサン、今まで見たことないやつです、マ夕゛オさんがいつも掛けてたのは蔓が折れててビニテでぐるぐる巻きにしてあったんです、」
だけどこれはまだ新しいみたいだ、少年が言った。
「新品のグラサンに仕込まれた薬物……」
先生が髪を垂らして俯いた。
「……やれやれ、アタシたちいつまでここで見てりゃいーのかね、」
だいぶお疲れ気味に、煙管をふかしてまだむが言った。
「いずれにしても、グラサンの方が姉弟そろってああもモテていらっしゃったとは、完全に私のデータ収集不足でした」
口ぶりほどは大して感情の波を感じられない声にCGメイドが言った。
「そりゃ、人が持ってる宝石はどんな駄石でも輝いて見えんダロ、」
キャットねーちゃんが、憂いたっぷりに遠い目をした。まだむとCGが振り向いた。ふっと息を吐いて猫は続けた。
「……私にも覚えアルヨ、茶髪のケバいパースケがルーズソックスで机に足組んで、“これカレシにもらったんだァ〜”、ちゃらちゃらネックレス見せビラかしてやがってよ、体育の授業中にパクって母の形見です、質屋に持ってったら、イミテーションじゃ値は付けらんないって突っ返されてさ、あんときゃまじフザケンナってオモタね、」
「……アンタ、そのブツちゃんと返しといたんだろうね」
煙を吐いてまだむが言った。猫ねーちゃんはハッと肩を竦めた。
「知らネーナ、ガッコの焼却ボックスには突っ込んどいたケドヨ、」
「いけません、それはれっきとしたせっとうざ……」
「時効だよ時効、」
警戒音鳴らして事務口調に語り出したCGを遮ってまだむが眉間を押さえた。
その頃見物のすこんぶ少女は、屋根の上ですこんぶはむはむ、軒先に垂らした足をふらふらさせていた。
「……ねーねー、そんで犯人ダレあるおもう?」
――あっコレよかったらドーゾッ、傷だらけになって屋根にゼェゼェ這い戻って来たゴリラ局長と眼帯ボクっ娘に、少女は順にすこんぶ茶をすすめた。
やっこりゃどうもと受け取った二人は、ひと口含んだとたん噴き出して、またも仲良くまっさかさまに屋根を転落していった。
「……。」
――実はあのふたりものっそ気ィ合うんじゃね? ずずっとお茶を啜ってのんきに少女はおもった。