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WishⅡ  ~ 高校2年生 ~

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「凄っ! ドラムセットやん!」
 小さな軽量の……多分、野外演奏用の……ドラムセット。その横にキーボード。ギターはベースとリード。
「本格的〜っ♪」
 航が嬉しそうに音が出ないように手を叩く。
 流れ始めた音楽はポップロック。聴きやすい声に聴きやすい旋律だ。
「……オリジナル……?」
 リズムを取りながら航が首を傾げ、
「……だな」
 慎太郎が同じく、リズムを取りつつ頷く。
「俺、結構好き」
「嫌いじゃねーな」
 二人が頷く横で、
「私は、どっちかと言うと、ちょっと苦手な類だな」
 若林氏が頭を掻いた。聴けなくはないが、エレキの音が苦手らしい。
「“偏見”と言われると、言い訳は出来ないが……」
 音楽の好みは人それぞれだから、それを責める事は出来ない。
 座っている三人の横を、何人かが奥へと足を進めて行く。人が集まり始めたのだ。
「曲、変わった?」
「うん」
 さっきと違う旋律が流れて、航がそのグループの方を見ながら聴こえてくるその音に集中する。
 そして、三曲目。
「……変わった……?」
「うん」
 リズムを取る手が頬杖に変わり、足だけがドラムに合わせて動く。
「……変わってるのかい?」
 若林氏である。
「私には、同じ曲に聴こえるんだが……」
 年齢的なものなのか、偏見がそうさせるのか……。若林氏が眉をしかめて首を振った。
「……ちょっと曲調が似てるから、ロック苦手な人には分かり辛いんちゃうかな」
 航が氏をフォローするように微笑む。
「……あ……」
 不意の慎太郎の声に航と若林氏が顔を上げる。観客の一人が苦笑いしながら、その輪を抜け出したのだ。
 気が付けば、曲は四曲目。また一人……二人と人が抜けて行く。
「シビアだな……」
「聴きやすい曲を集めたんか、こういう曲しか作ってないんかは分からんけど……。俺等も気ぃ付けな……」
 いくら聴き易くても、同じ様な曲調だと三曲で飽きてしまう。ここで気付いた事は幸運だと言えよう。
「今までやってた曲の感じでいいって事だろ?」
「“今まで”のはオリジナルちゃうやん!」
 既製の曲なら、色々な曲調を選ぶ事が出来る。しかし……。
「自分で作るとなると、どうしても似た曲になってしまうさかい、気ぃ付けんとアカンな……って……」
 そう言いながら、ジッと慎太郎を見る。
「おい!」
 その視線に耐え切れず、
「無理だぞ、俺には!」
 詰寄り、心の限り拒否する慎太郎。
「何が“無理”なんだね?」
 若林氏が二人の間で首を傾げる。
「ちょこっと内緒」
 航が若林氏に向かって人差し指を立てて見せ、すぐに慎太郎に向き直る。
「こないだかて、出来たやん! ……なんとなくやけど……」
「あれが精一杯だよ!」
 春休みの鼻歌の事を言われて、慎太郎が必死に手を振った。
「ええよ。あれを頻繁にしてくれれば」
 笑顔で頷く航の前で慎太郎が頭を抱え込み、首を傾げていた若林氏が、
「お! 終わったようだぞ」
 テーブルをトントンと叩いてそちらに視線を流す。
「全部で六曲?」
「妥当な数じゃん?」
 自分達の初ライブを思い出す。あの時の曲数は七曲。多過ぎず少な過ぎず、聴きに来てくれる人達の反応を見るのに丁度いい曲数。
「また来るかな?」
 去って行くメンバーを拍手で送り、航が自分の荷物を手にしながら呟いた。
「この時間帯より、午後からの方がウケはいいと思うんだけどな」
 慎太郎がチラリと若林氏を見て答える。
「……そやな……」
 航も、若林氏をチラリ。
「わ、私だって、ロックくらい!」
 気付いた若林氏がムキになる。
「ほな、若林さんがロックを分かるようになったら……」
「俺等もロック、演奏してみますよ」
 笑いながら二人がいつもの場所に立ち、若林氏がその前に陣取り、新学期最初の演奏が始まるのだった。
  

「驚いたなぁ……。いやいや、全く、驚いた!」
 演奏後、若林氏ときたらずっとこの調子である。
 ――― いつものように“秋桜の丘”で始まったストリートライブ。既製の曲を数曲歌い、次でラストという所で、慎太郎が深呼吸を何度か繰り返す。
「次で最後になるんですけど……」
 落ち着かない様子で観客と航を何度も見る。
「兎に角、初めての事なので……」
 首を傾げる観衆。それを見た航が、慎太郎の一歩後ろから声を掛けた。
「シンタロ、それやと、何の事か分からへん!」
 その言葉に“あ!”と慎太郎が頭を掻き、クスクスと観衆から笑いが漏れる。
「え、とですね。……その……僕ら、初めて曲を作りました。初めてな上に、ワンコーラス分しかないんですけど……」
 しどろもどろな慎太郎に対して、
「……言い訳にしか聞こえへん……」
 航が囁くように呟く。
「航っ!!」
 観衆のクスクス笑う声の中、航がペロリと舌を出しギターを持ち直した。
「まだ、完成していないので、タイトルはないんですけど。聴いて下さい」
 そして、アイコンタクトで始まる“新しい歌”。
  
  ♪ 顔をあげて
  
 いつもより、少し緊張気味の慎太郎の声が優しく語り掛けるように響く。
  
  ♪ 僕らの声が聴こえますか?
  
 Bメロから重なる航の高音。いつもの二人の声なのに妙に心地良いのは、きっと、自分達の声に合った旋律だから。
  
  ♪ 見上げた空はどこまでも……
  
 木々の隙間からさす陽射しが、スポットライトのように二人の姿を照らし出す。
  
  ♪ 僕らの想いが 君に届きますように……
  
 歌い終えて、一瞬、間が空く。その一瞬の静けさに二人の顔が引きつるが、目の前の笑顔と共に湧き出した拍手に顔を見合わせ、二人が笑顔になった。
「ありがとうございました!!」
 慎太郎が半歩後ろに航が半歩前に出て二人揃ってお辞儀をし、朝のライブが無事終了した。
 ――― 「みんな、ビックリしとったよ」
 ライブ終了後、緊張から開放されてベンチに座り込んでいた二人に若林氏が缶ジュースを運んできたのは、少し時間が経ってからだった。
「自分達で作ったのにも驚いたが、いやいや……」
 首を振りつつ、二人にジュースを手渡す。
「今まで聴いたどの曲より、君達に合ってた」
「……ホンマですか?」
 少し嬉しそうに笑いながら、航が若林氏を見詰める。
「嘘なんか言うものかね。みんな、“フルコーラスが出来るのが楽しみだ”と言ってたよ」
 笑顔で語られるその言葉を聞いた慎太郎が、
「あ゛〜〜〜……」
 一気に飲み干したコーヒーの缶を置いて、奇声を上げる。
「何!?」
「どうしたんだね?」
 驚いて自分を見る航と若林氏に、慎太郎がライブ終了後、やっと笑った。
「超緊張して、歌えたかどうかが記憶になくて、どうしようと思っててさぁ……」
「何やねん、それ!」
 笑い続けている慎太郎の隣で航も笑う。
「良かったぁ。ちゃんと歌えてて……」
 安心した所為だろうか、慎太郎は笑いが止まらない。
「初めてライブやった時くらい、緊張してた」
 吹っ切れたように笑う慎太郎を見ながら、
「そんなんで午後、大丈夫か?」
 航が丸い目を細めてニンマリ笑う。
「二曲やでぇ」
「一回吹っ切っちゃえば平気だよ」
 “お前こそ、大丈夫か?”と慎太郎が航の額を小突いた。