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WishⅡ  ~ 高校2年生 ~

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「僕も知らされてなくて……。パパとしては、こっそり作って僕らへのクリスマスプレゼントにするつもりだったんだって」
 プロの手で雑音が省かれ、音が整理された……初めて聴く、自分達の音。
「“銀杏並木”の前に“秋桜の丘”も入ってる」
「最初に、“秋桜の丘”。次に“銀杏並木”。最後に、奏のピアノで“秋桜の丘”」
 “気に入ってもらえたかな?”とミラー越しに笑顔で訊いてくる藤森父に、二人が言葉も無く大きく頷いた。
「でも……、なんで、姉ちゃん?」
「随分とお世話になったからね。お姉さんへと言うより、ご実家の皆さんへの感謝の気持ちだよ」
「……お姉さん、“秋桜の丘”を弾いた時、凄く喜んでくれたし……」
 父の言葉に隠れるように小声で言う奏に、
「ふーん……」
 航がワザとらしく頷く。
「何、その“ふーん”は!?」
「ふ・―・ん」
 一音毎に頷きながら航が笑っている。
「航くんにはあげない!」
 拗ねた奏が航の手からCDをサッと取り上げた。
「なんで!?」
「イジワルだから!」
「ほな、姉ちゃんには渡さへん!」
「なんで!?」
「イジワルやから!」
 狭い後部座席で睨み合う二人。そこへ、慎太郎の長い手が伸びてきて、二人の頭をコツンと合わせた。
「痛っ!」「あだっ!」
 奏が頭の左側、航が右側を押さえて慎太郎を睨みつける。
「お前ら、うるさい!」
 運転席で藤森父が笑っている。
 順調に走り続ける車の列の向こうに、空港が見えていた。

  
 搭乗手続きが終わり、ギリギリの時間までロビーで話し込む奏と航。その横で大人達に混じって慎太郎も雑談中だ。
「……早ければ半年、遅くても、あと一年。それ以上は待てませんし……」
 心配そうな若林氏の質問に藤森父が答えている。医師からは高校卒業までは持たないと言われているのだ。ドナーを待っていられるのは、せいぜい一年。
「大丈夫ですよ」
「きっとすぐに見付かりますよ」
 小田嶋・高橋両氏が励ますように藤森父に笑いかける。
「奏くんは強い子です。手術が終われば、すぐに回復しますよ」
 拒否症状を心配する藤森父を気遣って、若林氏も微笑む。
「いえ。あの子を強くしてくれたのは、慎太郎くんや皆さんです」
 かけがえの無い友を見付け、未来を託す音楽を見付ける事が出来た公園でのライブ。そこには必ず彼らがいた。
「なんとお礼を言っていいやら……」
 頭を下げる藤森父に、
「お礼だなんて」
 とんでもない! と顔を見合わせる慎太郎と小田嶋・高橋氏。
「奏くんが元気になって帰ってきたら、私達は私達で、飲みに行きましょう!」
「若林さんのおごりで?」
 おどける高橋氏の頭を
「バカ!」
 と小田嶋氏が小突く。
「いやいや、勿論、おごるさ。お祝いなんだから!」
 盛り上がる大人達。
 そこへ、
「あなた! 奏!」
 諸々の手続きを終えた藤森母が姿を現した。丁度、搭乗時間だ。
「間に合わないかと思ったわ」
 胸を撫で下ろしながら夫と息子に微笑む。冬休み中は一緒に渡米して、新学期に戻って来るのだと言う。
「お世話になりました」
 頭を下げ合う大人達の横で、
「帰って来いよ」
「約束やで」
「うん!」
 三人が手を重ね合う。
 ドナーが見付かって、手術が行なわれて、経過入院が過ぎて……。もしかしたら、卒業には間に合わないかもしれない。でも、帰って来たその時には、真っ先にあの公園で……。
「曲、送るから!」
 ゲートの向こうから奏が叫ぶ。
「うん! 待ってる!!」
 歌うのは二人になっても、三人の曲。その音は、三人の時のまま。
  

 高二のクリスマス。
 奏は、アメリカへと旅立った。