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WishⅡ  ~ 高校2年生 ~

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 感心する高校生三人の隣で、
「忙しいからこそ、だよ」
 若林氏が微笑む。
 忙しいからこそ、仕事だけを見ていたのでは息が詰まってしまう。どんな時も、どんな人も、息抜きは必要なのだ。
「いつも肩肘張っていては、自分が壊れてしまうからね」
 年長者の有難いお言葉である。
「俺等も息抜き?」
「だったら、抜きっ放しじゃん……」
 慎太郎の一言に、若林氏が笑った。
  

 久し振りの小田嶋・高橋デュオの演奏を満喫した後、六人で公園を出たところのファストフード店で小一時間談笑し、メンバーは別れた。
「二人とも、今日、何かある?」
 若林氏を見送り、小田嶋氏達に手を振った直後、奏が慎太郎と航の顔を覗き込んだ。
「俺、暇!」
 航が手を上げ、
「帰るだけだけど……?」
 慎太郎が首を傾げる。
「ウチ、来ない?」
 慎太郎と航が顔を見合わせる。
「両親が、“しばらく会ってないから……”って」
「行く行く!」
 快く返答する二人に、奏が言葉を足す。
「なんだか、話があるみたいなんだ」
「何、話って……」
「変な話じゃないと思うんだけど……。なんか、企んでるみたいな空気を感じたんだよね……」
 だから、ちょっと覚悟しておいてね、と奏。
「帰ろかな、俺……」
 逃げ腰になる航のギターケースを奏が掴む。
「キャンセルは受け付けません。……ていうか、僕を一人にしないでよ!」
 奏の隣で慎太郎が頷いた。どうやら、慎太郎は覚悟を決めたらしい。
「シンタロ、居てるやん!」
 航はまだ抵抗する。が、今度は慎太郎が航の腕を掴んだ。
「“一蓮托生”って知ってるか?」
「……あんまし、好きやない……」
「ごめんね」
 航の左腕を慎太郎、右腕を奏が抱え込んで歩き出す。
「“ごめんね”って……顔が笑(わろ)てる!」
「人生“諦め”も大事だぞ」
「それも、好きやない!」
「はいはい……」
「そーだね……」
 抵抗虚しく、航は藤森宅へと連行されるのだった。

  
「いらっしゃい!」
 にこやかに迎えられた藤森宅。挨拶は交わしたものの、半歩引いている航と慎太郎が勧められるままにリビングの椅子に着席する。並べられた菓子類に手を出す事すらせずに、
「……何やろ……?」
「さぁ……」
「僕も聞いてないから……」
 ヒソヒソと話している所へ、
「今月の最終土曜は、ライブに行かないでね」
 藤森母が、テーブルの上にパサッとA4用紙の束を置いた。
「なんで!?」「どうして!?」
 航と奏が身を乗り出して抵抗する。そんな二人を前にして微笑む藤森母を見て、慎太郎は何か勘付いたようだ。
「ひょっとして、『桜林祭』、ですか?」
 慎太郎の言葉に、航と奏が“え!?”と振り返る。
「今月の最終金・土は桜林祭。木綿花が言ってた」
 毎年、九月の最終金・土は木綿花の高校の文化祭なのだ。男子禁制の由緒正しき女子校だが、この時だけは条件付きで男子が入れる。
「去年、“来年も、飛び入り参加……”って言ったの、覚えてる?」
 去年の秋、演奏したのはたった三曲だったけど、半年振りのライブがとてつもなく楽しかった。
「言うた! シンタロ、確かに言うた!」
「それ、なんだか分かる?」
 藤森母が、さっきのA4用紙の束を指差した。
 見ると、『学年・クラス・氏名』がズラリと名簿のように書かれている。どれも筆跡が違うから、きっと当人の自筆なのだろう。
「なんですか?」
 ペラペラとめくる事、十数枚。三人が首を傾げた。
「“嘆願書”って言うのかしらね……」
 その言葉を聞いて、三人が更に首を傾げる。
「創立始まって以来らしいわよ。男子オンリーのグループに参加依頼の嘆願書が出たのって」
「……参加……依頼……?」
 奏が航と慎太郎を見る。そして、慎太郎と顔を見合わせた航がパンッ! と手を叩いた。
「桜林祭ライブ!?」
 笑顔で頷きながら、藤森母が続ける。
「伊倉さんから今年も二人に参加証の手続きをするって聞いてたから、私は奏のを手配しようと思っていたの。そうしたら、小堀さんが……」
 と、テーブルの上を指す。
 “小堀”とは、石田の彼女で桜林高の二年生で、木綿花の友人で、航達のファン第一号である。その社交性と行動力には目を瞠るものがある……のは重々承知しているのだが、まさか、嘆願の署名を集めるとは……。
「行き成り学年主任の所へ行ったらしいわ。それで、学園祭担当の私のところへ持って来られたんだけど……。二人は去年、他の先生方も見ていて知ってるし、増えたメンバーは私の息子だし。学校側は“問題なし”って言ってくれたの」
 言いながら、笑顔で三人を見回す。
「招待。受けていただけるかしら?」
「はい!」
「喜んで!」
 満面の笑みの航と慎太郎の隣で、
「……僕……」
 奏が躊躇する。
「……僕は、みんなに面識がある訳じゃないのに、参加していいのかな?」
「奏、ここ、見てみ」
 航が束の一番上を指す。
『去年、飛び入り参加した二人が今年から三人のグループになりました。しいては三人の“桜林祭ライブ”への参加を希望します』
「……三人……って……。僕……?」
「そっ!」
「三人じゃなきゃ、意味がないだろ?」
 二人の笑顔に、奏が用紙の束を抱き締めた。
「じゃ、決まりね。二人への招待券は伊倉さんに渡しておくわね」
「次は、私だな」
 ようやく、テーブルの上の菓子類に手を伸ばし始めた三人に、今度は藤森父が笑顔を向ける。
「今から、ここで“秋桜の丘”を演奏してもらえるかな?」
「え!?」
 三人が菓子をくわえたまま、顔を見合わせた。
「今まで、仕事が重なって一度も聴いた事がないんだ」
 言われてみれば、藤森宅で練習している時も母の姿はあっても父の姿は見たことがなかった。
「ライブに来ればいいのに……」
 奏が口の中の菓子を紅茶で流し込んで呟く。
「ちゃんと聴きたいんだよ。外だと、他の音が邪魔だからね」
 一理ある。
「もう!」
 桜林祭に出ると決まったからには、そっちの打ち合わせをしたい奏が両親の前で膨れた。
「一回でいいんだ。一回演奏をしてくれたら、後はママの学校の学園祭への練習していいから」
「奏」
 航が奏の肩を叩いて、自分の用意を始める。
「航じゃないんだから、拗ねんなよ」
 クスクス笑いながら、慎太郎も楽器をケースから取り出した。
「なんで、“俺”やねん!?」
「お前以外に誰がいるよ?」
 笑う慎太郎に航が膨れる。
「あら!」
 それを見て、藤森母がクスクス笑う。
 その間に、二人に促されて奏がピアノの前に座った。
「そうだわ!」
 藤森母が何やら思い付く。
「“銀杏並木”も聴いてもらえば?」
 その言葉に、準備の出来た三人が顔を見合わせた。
「黙っていたら、どうせ“聴きたい”って言い出すんだもの。それにね……」
 出来たばかりの頃の事だ。例の如く藤森宅で音合わせしていた時に、藤森母の助言で多少の書き変えがあったのだ。簡単過ぎる旋律に少しだけ変化をかけた。ほんの少し、音符が加わっただけで、随分起伏が出たのには航と慎太郎、揃って驚いた。お陰で、航は更に練習する羽目になったのだが。