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天気予報はあたらない

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 目が覚めたら、啓太の部屋だった。雨でびしょぬれになった服も上手に着替えさせられているようだ。浩二の服なのだろう。少し大きめで腰回りは若干ゆるい。

 「悟志。」

 心配そうに顔を覗きこまれる。啓太もしっかりと着替えていて、少し安心した。

 「なんだよ、そんな顔して。」

 啓太は今でも泣きそうで仕方がない。泣かれたらこっちが困ってしまうので、話題を変える。

 「ったく、コーちゃんってば、力強すぎだろ。」

 殴られた頬をさすりながら言うと申し訳なさそうな顔をする。

 「ごめん。」
 「いや、あやまらんでも。」
 「ごめん。」

 こっちがいいというのに、うつむきながら謝る姿にこっちが申し訳なくなる。
 これは、泣くパターンか。
 それだけは危険だ。

 「ほら、泣くなって。」
 「でも……。」
 「ほら、俺だってケーちゃんのこと殴ったし……。」

 啓太の頬に触れる。少し腫れているのかもしれないが、それよりも涙で腫れた目が目立つ。

 「それに、また泣かしたら、コーちゃんに殴られ……。」
 「悪かったな、ブラコンで。」

 突然、言葉をカットインするように会話に入ってきた浩二にビクッとする。

 「浩二、謝って。」

 啓太が浩二のを見つめて言う。本当に申し訳ないのだろう、少し語気が強い気がする。

 「だってさ……。」
 「だってじゃない。」

 ちゃんと兄さんなんだな、と感心する。その感じに観念したのか、そっとコンビニの袋を差し出す。

 「詫び。」

 そう一言だけ言い、部屋をあとにしようとする。

 「コーちゃん、ありがと。」

 俺が殴るのを止めてくれて。あのまま殴ってしまっていたら、関係の修復が難しかったかもしれない。そう思っていたら、部屋を出る瞬間に鬼のような形相で浩二が振り返る。

 「言っとくけど、兄貴泣かすやつはおれが容赦しねぇからな。」

 どんだけ、兄貴好きやねん。
 あまりのブラコンぶりに、関西人ではないのに思わず関西弁をつかってしまう。あれは、きっと兄弟を超えたものを持っているのではないかと少し疑いたくもなるが、それは、今回はやめておこう。

 「ごめんな、浩二あんなんで。」

 また、謝っているや。そろそろ、うざい。

 「いいなぁ、啓太。むっちゃ愛されてる。」

 少し、弟のことも絡めて茶化してやる。すると恥ずかしそうにしながら、やんわり否定する。また、目に涙を蓄えながら、必死にこらえている。

 「そんな、違うよ。」
 「愛されてるじゃん、さっきの弟といい、俊二……。」
 「俊二は違う。」

 俊二と言った瞬間、涙がこぼれる。強い否定の言葉に対して、言った顔の弱弱しさといったらない。
 また、あの顔だ。

 なんなの、お前。俊二のことばっか、気にしてさ。

 自分の中で嫉妬の炎が燃え上がる。もう、いい加減耐えるのは厳しい。

 「その顔、やめてくんない。」

 突然の切り返しに、唖然とする。
 そりゃそうだ、いまから爆弾を放り込むのだから。

 「俺さ、ケーちゃんのその顔、悪夢なんだよね。」
 「なにいきなり言って……。」

 少しづつ詰め寄る。

 「ケーちゃんが俊二と屋上でキスしたの知ってる。」

 次々と悪態が沸いてくる。もう絶交されてもしょうがない。

 「それで、どんな顔で戻ってくるかと思えば、二人とも普通を装っちゃってさ、笑える。」

 あざける。

 「全然気づいてたし、二人がお互いを好きなことくらい。一緒にいたら、キスなんてなくたってわかるだろう、普通。」

 何言ってんの、自分。
 啓太が制止しようと口を開こうとするが、それさえも無視して語り続ける。

 「それでもさ、何もなかったみたいな二人にあわせて、ずっと知らないふりしてたのにさ。」

 思い出すのは、劇の最後のシーン。

 「あんなところで、お互いが初めて気づくんだもん。鈍感すぎ。」
 「そんなつもりじゃ……。」

 どんどん、啓太の顔がうつむいていく。
 ごめんな、ケーちゃん。

 「なのにさ……。」

 一言、ためる。

 「せっかく両想いだってわかってんのになんだよ二人して。」
 「悟志……。」
 「ケーちゃんは毎日悲しい顔するわ、俊二は暴走して彼女作るわ、もう訳わかんない。」

 気持ち悪いな、自分。自分のしたこと、思っていたこと棚に上げて、何言ってんだろ。

 「俺はもう二人の間に入り込めないんだろうななんて、想像して学校行ったわ。」
 「さ、とし。」
 「でも、案外普通で、もう何が何だかわかんねぇって思ったさ、けど、俺、」

 衝撃の一言を放つ。

 「喜んだんだよ。喜んで喜んで、毎日が楽しくなった。」

 きっと軽蔑されるな。
 そう思い啓太を見据える。でも、これが真実なのだから仕方がない。

 「つまり、一番最低なのは、俺なんだよ。」

 なんで俺まで、泣いてんだよ。

 「二人が、両想いだって感づいてて、なのに何もしなかった。」

 啓太の顔が、見る見るうちに涙で崩れていく。

 「俺が三人の中で取り残されるのが怖くて、一人が怖くて、知らんぷりした。」
 「もう、いい。」

 涙声で制止されるが、言葉は止まらない。

 「そんなんで、親友っていうポジションだけ守って、本当に大切なもの守れてなかった。」

 次々に出てくる言葉。

 「こんなん、友達でもなんでもないよな。」
 「違う。」

 啓太がうつむいていた顔をあげて前をみつめる。

 「違うよ、悟志は親友だよ。」

 涙が止まらない。

 「だって、こんなに泣いてくれてる。」

 本当にいい男子高校生が二人して何やってるんだろうな。それでも、この関係性は確かに親友なのだろう。ひとりがずっと怖かったけど、一人じゃないんだな、俺。
 はじめっからこうすればよかったんだ。目に見えないものを勘ぐってひとり悪いほうへ考えるよりも、聞けばよかった。

 こんなにはっきりとするんだ。
 おれが、一つ年上な理由も、どうして前の学校をやめたのかも、どうして一人がこんなに怖かったのかも、こんどちゃんと話すよ。
 だから、今度はちゃんと俊二と啓太のこと、応援する。
 愛し合っている二人が別れてはいけないのだ。
 涙を拭きながら、啓太がそっと言う。

 「オレが泣いてた理由、聞いてくれる。」
 「うん、ちょっと待って、今泣きやむから。」

 ゆっくり、この先を紡いでいこう。


作品名:天気予報はあたらない 作家名:雨来堂