小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

りんみや 陸風3

INDEX|1ページ/5ページ|

次のページ
 
随分と体調が落ち着いてきた城戸は、のんびりと小さな保護者と庭を散策できるほどに回復した。今のところは美愛のほうが保護者で、城戸の行くところについてまわる。勝手に庭に出ていると飛んで追い駆けてくる。
「りっちゃん、ひとりで出ちゃ駄目。美愛と一緒って約束したでしょ?」
 藤の棚近くを歩いていると突然に保護者が降って湧いた。自分が外出したことを察知したらしい。母親の元へ戻っているからいいだろうと油断していたら、この有様だ。ちょっとばかり考え事などしようと思っていた城戸は、一瞬、返事が遅れた。かれこれ二週間、屋敷に閉じこめられている。そろそろ連絡を取らなければならない。そういうマニュアルを自分で作り上げた。二週間単位のシステムだから、報告は受けて次の指示を与えないと続かないし、自分の考えているものと違う方向に進んでしまう。この間、城戸のスタッフは没収すると九鬼から言われているが、それにしたって打合せて引き継がないと、次のものが難儀する。
「ごめん、ごめん・・・ちょっと考え事しててね。忘れてた。」
「・・・難しいこと考えると疲れちゃうからね。ゆっくりしないと駄目・・・それは志郎おじさんが、もう動かしてるから安心して。」
 何のことやらだが、美愛の言葉は、自分の考え事を指しているのは城戸にもわかった。
「え? みあ・・・それは、どういうこと?」
「・・・りっちゃんの頭の中の、そのへんなものは志郎おじさんが、なんだか作り替えてたわ。たぶん、終わったよ。」
「それはいつ?」
「昨日だよ。志郎おじさんが来て、リィーンと難しいことお喋りしてて、それ出てきたもの。」
 確かに昨日、九鬼は屋敷に戻っていた。しかし、自分には何の相談もなかった。子供には複雑なマニュアルやシステムのことはわからない。漠然としたイメージだけを捉まえていて、それについてりんと九鬼が話していたことは理解しているということらしい。
「だから、りっちゃんは考えなくてもいいの。」
 ふわふわと浮かび上がって、子供が城戸の頭を撫でる。よしよしと、宥めてくれているらしい。





「ああ? おまえさんのシステムかい? そんなもの、当の昔に志郎が解体して葛さんに組み直させてたぞ。確かに俺のところに相談があったよ。おまえさんの頭の回路は俺と似ているからな、その辺りの解体方法の段取りというやつを・・・」
「解体? それなら、・・・」
 それならそうと九鬼が申し出てくれれば簡単に解体できる方法を城戸は知っている。作ったのは自分なのだ。解体だって自分がやるほうが早いのに、それをりんに確認するなどとまどろっこしいことを九鬼はしたのだ。
「・・・おまえさんは・・・情報管理から外れただろ? それに療養中の人間をこき使ったりはできないの。」
「こき使うって、打合せしてファイルを渡せば、それで済む話です。」
「それでもさ・・・志郎は、おまえさんを頼りたくなかったんだ。そんなことしたら、おまえさんは志郎の管理能力の上限を感じるだろうからな。そういうところはシビアだろ? おまえさんは・・・俺と同じなんだから。」
 ふふん、とりんは笑っている。九鬼は年若い友人で、当主代行などという激務に就いている。九鬼の人柄については城戸は好ましく思っているが、仕事のパートナーとしては別物だ。若いから経験が足りなくて、その辺りが弱点だ。その部分は冷静に判断して、仕事をしていた。信用と評価は別物だ。それが城戸の考え方で、べったりと信頼しているということはない。自分が作ったシステムを解体するぐらいのことを九鬼が外した自分に依頼するなら、それこそ評価は下げなければならない。九鬼が口にしたことは絶対だ。水野という王国のキングである。外すと命じた限りは覆すということは、キングの権威が下がることを意味する。城戸に頼まなければ、できないことがキングにあると認めることになるからだ。
「・・・それは、そうですが・・・」
「だから、もうビジネスについては一切、介入するな。志郎はおまえさんを美愛に渡したんだ。その言葉には従ってやれ。・・・どうしてもって志郎が頼むまでは待ってやることだ。それくらいの大人の余裕っていうのは年上なんだから弁えてやれば?」
「・・・大人の余裕ですか? リィーン・・・クッキーは難儀しているんじゃないですか? あいつは結構、意地っ張りですよ。」
 ずっと十年以上、九鬼の成長は見てきたつもりだ。貫禄もついたし余裕も持っているとは思うが、キングというのはプレッシャーがすごい。なにせ、惟柾の後釜だ。あのカリスマの固まりだった男の仕事を引き継いだのだ。普通の二代目のようなわけにはいかない。無理をしてでも九鬼はやるだろう。弱みなんか見せない。そういう人間だ。ゆきの身代わりになって事業の半分を切り盛りしていた時だって、泣き付いたことなんて一度もない。自分で考えて調べて、それから答えを導きださないと納得しない。自分たち専門家に意見を求める前に自分の意見を育てる。そんなことはするな、と何度か城戸だって忠告した。
「そんなものに頼ってたら進歩しない。まず、俺が考えてからだ。」
 いつも返答はご覧の通りというやつだ。甘やかされ続けたゆきとは違って、九鬼は自分で切り開いた。おそらく、この五年変わらないでやっていただろう。それだけに城戸は心配する。周りのスタッフが信用のおけるものばかりでないと、この方法はかなり厳しい。
「わかってる。志郎はそういうやつだ。・・・だが、俺はそれでいいと思う。あいつの思うようにすればいい。遊んでたって暮らせるぐらいのものはある。失敗したらやり直しはいくらでもきくんだ。・・・だから、俺やおまえさんは背後で構えていることに撤しようじゃないか。」
 もう一人の息子は頑張り屋で必死になって働いている。次の当主が成長するまで、と区切っている。つまり、働いたところで自分のものになるわけでもないことに必死になっている。夭折した息子ができなかったことをするつもりだ。王国を維持する。そして、次の女王に引き渡す。まだ二十年はかかる一大計画だ。
「・・・慌てなくても出番は先だ。まあ、俺はお役後免になってるだろうから、おまえさんが支えてやってくれ。・・・あれはいい息子だ。さすがにじい様が探しただけのことはある。」
「・・・それなら・・・私は何をすれば?」
「あ? 寝呆けてるのか? 城戸くんは。おまえさんには美愛の教育があるだろうが、あれは拾ったままで放置すると萎びて使いものにならなくなる。ちゃんと愛情を注いでやってくれ。なんぞ、仕事らしいことしたいっていうなら、俺の仕事を廻してやるよ。」
 ただし多賀の許可が出たらという条件付だ。今まで分刻みのスケジュールで暮らしていた城戸にとって何もしないというのは苦行になる。今だって、寝ているだけの生活で余計に疲れるのだ。
「はあ、すいません・・・いきなり、何もしないっていうのも心許なくて・・・」
「中毒患者だな? ・・・ったく、中毒症状なんて起こすほど働いてたってのが、そもそもの間違いだぞ。」
「・・・あんたがそれを説教するかあ? 俺がそれでどれほどにぃぃぃ・・・」
作品名:りんみや 陸風3 作家名:篠義