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りんみや 陸風2

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 そして、ギロリと九鬼を睨み付けた。これ以上に怒鳴るなら、自分が相手だとでも言うような態度だ。その首に巻き付けられた小さな手を城戸はぽんぽんと叩いた。
「待て、みあ。・・・違う、クッキーは怒って当たり前なんだ。私が悪いんだ。・・・子供は大人の話に割り込んじゃだめだ。それに、クッキーは話しているだけなのに、いきなり叩くなんて、おまえのほうが悪い。クッキーに謝りなさい。」
「・・・でも、りっちゃん・・・困ったなあって思ってた。それっていじめられて困ってるんでしょ?」
「うん、困ったな、とは思ったよ。そんなに心配させてたなんて考えてもいなかったから・・・それをどうやって返せばいいのか、わからなくて困ってたんだ。だから、苛められて困っているわけじゃない。それよりも、みあは謝りなさい、さあ。」
 強めに城戸が命じると、子供は手を離して、それから九鬼に向かって不満一杯の顔のままに、「ごめんなさい。」と謝った。そして、すぐに城戸の膝に座り込んで、もう一度、城戸にわからないように威嚇した。その様子がまるで小猿のようなので九鬼は失笑している。みやがそうだったように、その子供も城戸に懐いているらしい。屋敷の誰もが甘やかし放題で、リィーンか自分くらいしか叱るものはいないと、懸命に躾けていた九鬼は、ちゃんと言うことを聞いている子供に意外なものを感じた。自分が叱っても、あまり聞き分けた試しがないのに、城戸の言うことはちゃんと聞き分けているのだ。
「・・・ハムスターから子猫になったと思ったが・・・小猿になってるね、とうさん。」
「ああ、そうなんだ。城戸くんにべったりでね。」
 りっちゃん、と呼んで心配気に見上げている子供の頭を、城戸は穏やかな表情で撫でている。みやがいた時と同じ顔をしている城戸に、九鬼は安堵した。体調を崩したと報告されていたから、もっと悲壮な顔をしているのかと思っていた。
「みあ、リッキーのこと好き?」
 子供の前で屈んで、視線を合わせた。子供はうんと大きく頷いた。
「みあはりっちゃんの傍にずっと居るの。りっちゃんは暖かくて気持ちいいから・・・それに、りっちゃんは泣いてばかりいるから、みあがいないとだめなの。」
「泣いてるの? リッキー。」
「いや、泣いていないんだけどな。・・・ゆきがいなくなったことを実感するたびに、みあはこう言うんだ。それで、こうやって慰めてくれるんだ。」
 ぎゅっと首に回されている手を愛しそうに城戸が撫でる。その様子に、九鬼は、ああ、よかったと心から安心できた。みやがいなくなって、また以前のアンドロイドのような無機質な人間に戻ってしまうのでは、と危惧していたことは美愛の存在で回避されたようだ。しばらくはうちで静養してなよ、と九鬼が言うと、城戸は複雑な顔をした。やっぱり、そうくるのか。リィーンからも、多賀からも同じように勧められることを、オーナーも命じるのだ。
「なんで、そんな嫌そうな顔をするの?・・・そういうことなら、タガーに軟禁させようか? だいたい、契約不履行なのはリッキーのほうなんだ。俺にはリッキーを処分する権利はあると思わない?」
 すでに軟禁状態だと城戸は思う。屋敷から出る術がないし、のべつまくなし子供がいるから仕事などできる状態ではない。
「それはそうだが・・・違約の処分が静養なんて、おかしくないか? クッキー・・・」
「いいや、違約の処分は、それだけじゃない。リッキーの専属スタッフと情報管理部門は没収して、葛の管理に組み込むよ。リッキーは興味もなかっただろうから無視してただろうけど、水野の中で情報管理部門だけがずば抜けて業績を上げてる。少し突出しすぎてる帰来があって困ってたんだ。リッキーを外せば、それはなくなるはずだ。・・・これはオーナー代行としての処分。」
 ニカッと笑った九鬼の顔はオーナーとしての顔だ。あまりにも突出した部門があると、他の部門が引き摺られてしまうから、これはビジネスとして最前の処置である。水野の事業は現状維持して規模もそのままにしておきたい。そのままの形でみやの娘に引き渡そうと九鬼は考えている。それを潰そうと広げようと、それはみやの娘がやることだ。自分はリリーフのようなものと位置付けている。しかし、すぐにいつもの九鬼の顔に戻る。年上の友人を気遣う顔だ。
「ねぇ、リッキー・・・ノルマをぶっ千切って働いてたんだからさ。ここらで少し休養してよ。俺はみやじゃないから、リッキーの精神までフォローなんてできない。でも、リッキーがくたびれてることはわかってる。お願いだから倒れるまで働くなんてしないでよ。・・・みやがいた時は、夏に休暇とってバカンスしてたじゃないか。ああいうふうに、今度は、その小猿を遊んでやって。」
「りっちゃん、志郎おじさんね。りっちゃんのこと、とっても心配してるの。りっちゃんがびょーきになったの、志郎おじさんがちゃんとりっちゃんを捕まえられなかったせいだって思ってるの。」
 九鬼の心情を美愛が説明する。うん、と城戸は子供に了承した。それほどに心配させたのは申し訳なかった。また、そこまで心配してくれるとは思ってもみなかった。スタッフはユキを中心に動いていたから、互いのことなど城戸は考えたこともない。
「・・・すまない、クッキー・・・」
「いや、俺の方こそ、ごめん。みやがいなくなって、俺自身もお祖父さまから水野を預かって、しばらくは何も考えられなかった。もっと早く、リッキーを捕まえなきゃいけなかったのに・・・だから、休んでほしい。少しゆっくりしてよ。これは、処分とかじゃなくて、俺からのお願い。でも、聞いてくれないなら、オーナー命令に切り替える。」
「ああ、お願いのほうにしてくれ。しばらくは、この子の傍に居るよ。」
「しばらくじゃなくて、ずっとよ、りっちゃん。」
 放さないとでもいうように、子供の腕に力が加わった。その様子に城戸が破顔した。
「うん、みあの傍に居るよ。・・・約束する・・・」
 五歳の子供を自分は拾う。今度は最初から最後まで付き合える。泣いてばかりいたユキとは違って、元気でやんちゃな子供だ。どんなふうに成長していくのだろう。それを最初から見守れるのは幸せな気がする。他のものは、その城戸の様子に胸を撫で下ろした。これで城戸は元の状態になる。
「志郎・・・おまえはもう父親代わりの任務は終了だ。好きなだけ甘やかしていいぞ。」 りんが九鬼にそう告げると、九鬼も静かに頷いた。本当は九鬼だって、子供の笑い顔だけ見ていたかった。ただ、生まれてから父親のいない子供に、父親というものの存在を教えるには自分しか身近にいなかった。
「これでやっと美愛を甘やかせる。好きなところに連れて行ったり遊んでやったりだけでいいなんて、有り難い。」
 叱って同じ顔で泣かれると辛いのは九鬼だって屋敷のものと同様だ。みやにしてやれなかったことを、たくさんしてやりたい。かわいくて目に入れても痛くないと思えるほどに美愛が愛しい。城戸の膝に座っている子供を抱き上げた。
「美愛、これから少しドライブにでも行こうか? これから、おじさんはおまえを叱らない。おまえが欲しいものはなんでもあげるから、好きなだけ我侭を言ってくれ。」
作品名:りんみや 陸風2 作家名:篠義