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∽チカちゃんの学校生活

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●レース編みをしたよ


(中学3年生)

被服部は地味な活動だ。
が、その地味な活動を愛する地味な部員たちに反し、学校内では少し有名である。
偏にその歴代部長の交友関係が華々しいからである。
生徒会は言うに及ばず、運動系も含めた各部部長、果ては教師やPTA、どこまで本当か知らないが県教育委員会にパイプがあった部長もいたとか。
ともあれ、その広範な人間関係を礎に、困ったときの被服部頼み、がまことしやかに噂され続ける部。
それが、被服部だった。

「お前も真面目になったよなあ。」

しみじみと呟いたのは伊達政子である。
漢和辞典を忘れたから貸してくれ、と言ってクラスが違ったチカの元までやってきた休憩時間だ。
空いた隣の席にどっかりと座り、辞典を捲りながらチカの手元を見ている。
「別に真面目なわけじゃないって。」
「いや普通、受験終わったからってここまでやらないだろ?卒業イベントの締め切りでもあるんじゃねえのか、それ。」
チカが手にしているのは、細めの白い糸と鈎針だ。
その手が異様なスピードで5cm幅のレースを編んでいる。
模様は幾何学柄だが、そんなに緻密なわけでもない。
チカ本命の国立高等専門学校の受験は、他の高校よりも少し早い。
一人先に受験から開放されたチカは、他の受験生を憚るように静かに学校生活の残りを過ごしている。
「月一回の作品発表はやっと昨日で終わったとこ。まあ、引退してるのにってお小言食らっちまったけどよ。これの締め切りは別件。もともと頼まれてたんだけど、もう10日になっちまったから急がないと。相手してやれなくて悪いな。」
手元から目を離さず、苦笑だけでチカが告げれば、伊達は大きな溜息を吐いた。
「Amazig!真面目じゃねえとかどの面で抜かしやがる。生徒会の特権まで取り上げやがったしよ。」
「この面だよっと。」
端の処理をして、糸をチョキンと鋏で切った。
紙袋に落としていたレースのリボンをクルクルと巻いて、輪ゴムで纏める。
「・・・なんか異様に長くないか?」
「へへっ、ちょっとな?それより、特権って?」
「・・・準備室に出入りする特権だよ。」
「あー、あれか。うん、あれはダメ。今の部長にも一切ダメって言ってある。」
チッと行儀悪く伊達が舌打ちした。
被服準備室には屋上へ上がる裏ルートがある、というのは実は生徒会の面々、主に伊達の前の生徒会メンバーには秘かに知られたことだった。
当時の被服部長が、生徒会副会長と昵懇で、副会長が認めた面々だけは屋上に上がることが許されていたのだ。
逆に、被服部の部員は許されなかった。
息抜きをさせたいのだから他の人間は立ち入り禁止だと、当時の被服部長は言っていた。
だがまあ、ぶっちゃけ色仕掛けに引っかかったのだと言える。
何しろ副会長は部長の彼女だったので。
伊達はその当時、級長という立場から生徒会への出入りが多く、件の副会長ともウマが合っていた。
それでどうしてか、佐助ともども副会長から屋上へ上る権利を得ていた。
チカの記憶では、当時の副会長が許可した人間は5人くらいだ。
生徒会選挙で伊達が会長となるのに前後して、部活動も世代交代が行われた。
部長にめでたく推挙されたチカは、さて屋上の扱いをどうしようかと悩みながら屋上に上り・・・ヤンチャなオニイサンに見つかってしまったという経緯がある。
そのチカは一度、元・副会長に権利者の選別基準を訊いたことがあった。
曰く、気持ちが不自由な焦燥感のある人を偏見で選んだとのことだったので、屋上の使い道と言うのは実はあんまり変わっていなかったらしい。
チカが部活を引退して、被服部の部長も新しくなった。
新部長には、在任中は屋上に絶対上がらないと確約させて準備室の鍵を渡した。
新しい部長は強かに、なら部長を辞めるその日にでも一度だけ上ろうかと笑って、チカにその手があったかと舌打ちさせた。
そんなわけで、ヤンチャなオニイサンたちは被服準備室に近寄らなくなった。
もう利用できないと申し渡すとブーイングが上がっていたが、彼らも一週間ほどで諦めていた。
居場所を失わせたことに少しの呵責がチカにはあった。
が、佐助の情報では今はカウンセリング室を溜まり場にしているらしい。
新部長といい彼らといい、なかなか強かなものである。


「けど何か嬉しいな。伊達がこっちのクラス来るの珍しいじゃん?」
「こっちに来ると家康に捕まりそうだからな。」
「うっわ、ひでー先輩ー!」
「質問多すぎんだよ、アイツ。大体なんでチカんところに入り浸ってんだ?」
「あれ?てことは、伊達は家康嫌いじゃないんだ?」
「An?別に悪い奴じゃないだろ?ときどき鬱陶しいだけで。」
「あー。ってことは佐助が苦手ってだけ?」
「はあ?なんだそれ。」
伊達は気付いていなかったらしい。
去年、徳川家康は、ただの平凡な級長だった。
が、仕事熱心なことと無垢な性格が相俟って、何かと質問をしに生徒会長を訪ねることが多かった。
つまり、伊達を追い掛け回したのである。
おかげで学内でも有名人になり、今期の生徒会長にまでなった。
因みに、生徒会長になった今でも、質問があるのだと伊達を追い回している。
3人セットで扱われることの多いチカは今年、伊達の隣のクラスだが、佐助と伊達は同じクラスだ。
何かと教室を離れている伊達を捕まえるなら佐助かチカに聞いたほうが早い。
それは特に、同じクラスの佐助に、である。
だが、チカや何人かの伊達のクラスメイトは気付いた。
佐助は巧妙に家康の来訪を察知し、その都度に教室から姿を掻き消していた。
「すげー上手えんだわ。家康が教室に顔を出すか出さないかってタイミングでさ、メール着たーとか先生からの伝言あったんだーとか言ってそっちの教室から消えちまうの。」
「・・・なんだソレ?」
「だからー、家康と話するの逃げてるんだって。伊達が何処に居るのか一番知ってるの、佐助じゃん?」
「二番はお前な。」
「そうそう。だから佐助が教室から消えたら、みーんな自動的にこっちに案内すんだよ。」
「それでお前ら仲良くなったのかよ。」
呆れた声で伊達が呟いた。
「伊達、去年も逃げ回ったじゃん。それからだって。あ、今年は変な噂のオマケつき。」
「噂だァ?」
「えーと、どっからかな。佐助の視線が伊達に向いててー、伊達の視線が家康に向いてるから間を取り持ちたくない佐助は逃げててー、で、逃げられた家康の視線が、」
「お前に向いてるって?三角関係どころじゃなくなってんだろソレ。」
ぐったりとした様子で伊達が漢和辞典を持ち上げた。
丁度、休憩時間も終りだった。
借りてくぜ、と肩を落として伊達が教室に戻っていくのを汐にチカは鞄に紙袋を仕舞った。


その四日後。
佐助は自分のクラスに現れた、紙バッグ持参の少女に頬を引き攣らせていた。
訊きたくはない。訊きたくはないのだが、訊かずにおれない。
「・・・ていうか、チカちゃん・・・ソレ何?」
「ジャジャーン!伊達へのバレンタインのプレゼント。」
「・・・愛だ。すんごい、愛だね。」
紙袋ではない、紙バッグである。A3用紙が入るような大きさである。
半ば呆然と佐助が呟けば、背後のクラスメイトからも漣のように囁かれる声が聞こえる。