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剣道部と風に揺れる相思花

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2章 秋風と赤い相思花。


 第一試合、多井先輩 対 絵美先輩―
「始めっ!」
ついに始まった練習試合。こんなことを言うのは悪いが、この試合の勝敗は決まっているも同然だった。

確かに先生達は私達に
『剣道に絶対なんて無い!』
とは言うのだが、それでもまだ面をつけ始めて1ヶ月と経たない初心者組は、まだ勝てる可能性は絶対無いのだった。

この試合はあからさまにまだ初心者の絵美先輩の負けが見えていたのだ。私の右でスコアを付けていた迅なんかはもう多井先輩に勝ちを示す丸を書いていたくらいだ。
そして左を見れば笠間が大あくびをし、小西がいかにも興味なさ気にボーッと試合を観ていた。大きく伸びしている迅に

「これ絵美先輩に勝ち目無いよね~。」
と、退屈しのぎに話しかけてみると、

「ん~。無理じゃね?絵美先輩は。小西君と、笠間君どー思う?」

「うーん無理じゃね?」

「無理だろ。」
やっぱり!と思いつつ、これは独り言だったのだが、

「勝ったら神だなぁ。絵美先輩・・・いや蝦夷。」
なんて呟いていたら いきなり少しだけニヤリとした笠間が、

「いや、神だろ。絵美先輩は。」

なんて言い出し、私と迅、聞いていた小西もが頭の上に?浮かべだした。

「笠間どうゆう事?」

「七福神っていんだろ?その名前全部言ってみ」
訳がわからなかったが、とりあえず3人で言ってみると

「大黒天・毘沙門天・弁才天 ・福禄寿・寿老人・布袋・恵比寿。」
七人全員言い終わってから顔を見合わせた。


「恵比寿様!!」

「ほらな!神だろ!」
そのとき、
「面あり!!」
西篠先輩の声が響く。上がっているのは―赤い旗。多井先輩が一本取ったのだった。

「恵比寿様弱っ!」
「勝負の神じゃないからじゃね?」
「何の神だっけ?恵比寿様?」
「えっ。なんだっけ?」
ちょうどいい具合に盛り上がったきたところで、横からむかつく”あの声”が・・・

「ふーむ。なるほどなるほど。」
悠斗だった。何がしたいのか良くわからないがこのむかつくことをいつも言っているのだ。頭がいいつもり、らしい。
(ちなみにいうとこいつの頭は剣道部で1番悪い。成績表は1時々2というありえないものなのだ。)

「悠斗黙れ。」
一気に急降下したテンション。こいつが絡むといつもこうだ。

「さて、神の試合でも観るか。」
笠間のお陰で思い出した。今試合中だ…こりゃあとで西篠先輩からお説教だな。男子は。

 試合は多井先輩が技を出し、絵美先輩は何とか避けているといったところだ。
絵美先輩が技を出しても、逆に多井先輩に返されるだけだろう。

試合時間はあと一分。絵美先輩は先の一本で冷静に出来なくなるか。多井先輩はどれだけ速く次の一本が取れるか。

私でも見ていればわかる。恵比寿様、かなり肩に力が入ってる。
開け放した窓から秋風が剣道場を、私達を通り過ぎていった。