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エベレストは昔海だった(コラボ作品)

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愛する家族は


 ここへ来て、18年になるだろうか。

「先生見つけましたよ、川の跡を。少し遡ってみました。すると空気の流れを感じたんです」
 大橋が勢いこんでやって来た。たった今航海から戻ってきたらしい。酒の実の選別をしていた手を止め、イスから腰を浮かせて叫んでいた。

「そ、外に出られるかもしれないんだね!」
「そうです。幸い僕たちが鉄砲水で押し流された後回収した装備で、まだ使える物があります」
 『命の湖』までは何度か出かけていたが、そこに残しておいたロープはハーケンが抜けてしまったらしく無くなっていた。湖の底に沈んでいるのだと思う。しかし大橋と吉田のザックは回収できたのだ。

「みんなは外に出られたら、日本に帰るつもりなんですか」
 その夜、夜といえるのかどうかは分からないが、久し振りに4人が顔をそろえた。航海をねぎらう意味もある。魚介類を肴とし酒を酌み交わしていた。
 吉田がひとりひとりの顔に視線を当てながら、おもむろに切り出したのである。意外な言葉だ。
「どういう意味かね?」
「僕はここに残ろうと思っています。今さら帰っても居場所はないと思うんです」
「そうだよな、今さら仕事も見つからないだろうし」
 と大橋が応じる。
「ここには家族がいます」
「第2次世界大戦が終わった後、終戦も知らずに30年近くジャングルでひとり、生き続けた人がいた。日本に帰って一時は注目を浴びたが、中傷や誹謗が多かったと聞いています」
 三上まで残る発言だ。
「祖国に帰ったから幸せになれる、とは限らない」
「僕はここにいて生活に不自由は感じないし、心から愛する家族がいるんです。まさか、家族を連れて帰ることはできませんよ」
「そうです。すぐに見せ物になり、研究対象にされてしまうだけです」
「3人ともここにいることを望んでいるんだね・・・じゃ、私はどうすればいい? 私はやはり祖国を見て死にたいと思っている」
「先生が外の世界に出られるまでは、ご一緒します」
「・・・・・・」
「しかしお願いがあります。ここの生活のことは一切公表しないでほしいんです」
「何にも持ち帰らないでください」
「僕たちが生きていることも、秘密にしてください」
 深いため息をついた。この18年間の研究のことを思った。
「・・・研究成果はすべて捨てろ、ってことだね」
「そうです。先生と僕たちは、遭難してすぐにはぐれてしまったことにしてほしいんです」
「だから僕たちが生きているか死んでいるかは分からない、と」
 しばらく沈黙の時間が流れた。
「分かった・・約束しよう。それでも私は、帰りたいんだ」