小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

ファントム・ローズ

INDEX|12ページ/43ページ|

次のページ前のページ
 

ダブル「Cace5 ダブル」


 僕が飛び出して来たのに驚いているようすの水鏡先生と〈ミラーズ〉の動きが止まってしまっていた。
 いや、違った。僕が飛び出して来て驚いて止まっているんじゃない。
 水鏡先生たち同様に?それ?に気付いた僕は動きを止めてしまった。
 薔薇の香だった。僕ら全員の動きを止めさせたの風に乗って運ばれて来た薔薇の香……水鏡先生たちもこの香に何かを感じ取り動きを止めたに違いない。
 あいつが現れるに違いない。
 月明かりだけが照らす夜の闇の中、怖ろしく白い仮面は確かに笑っていた。間違いない、ファントム・ローズだ。
 ファントム・ローズは僕と水鏡先生の前に立ち、〈ミラーズ〉のことを見ているようだった。
 〈ミラーズ〉の一人が月光を浴び、銀色に輝く杖を構えてファントム・ローズに襲い掛かった。
 揺らめくファントム・ローズはどこからともなく一輪の赤薔薇を取り出すと、その匂いを嗅ぎ天に掲げた。
 すると、ファントム・ローズの周りを無数の薔薇の花びらが竜巻のように舞い上がった。
 美しくも荘厳な薔薇の花びらは〈ミラーズ〉に向かって降り注いだ。それはまるで血の雨のようで、薔薇の花びらは刃となり、〈ミラーズ〉の身体を容赦なく切り裂く。
 激しく舞い散る紅に彩られた〈ミラーズ〉は地面に倒れ、そこにファントム・ローズは空かさず白薔薇をダーツのように投げつけた。
 薔薇の花を突き刺された〈ミラーズ〉は口元を酷く苦痛に歪ませ、人の声とは思えぬほどの呻き声を張り上げた。すると、白かった薔薇の花が見る見るうちに紅く染まり、それと同時に〈ミラーズ〉の身体が枯れ木のように萎んでいき、衣服だけがその場に残され、その衣服さえも最期には砂になって舞い散った。
 ファントム・ローズは〈ミラーズ〉の居た場所に残された一輪の真っ赤に染まった薔薇の花を拾い上げ匂いを嗅ぎ言った。
「やはり、人の血の匂いではないな」
 僕は幻のような出来事を目の当たりにして、頭が真っ白になりかけた。でも、今ここで起きていることを見逃す訳にはいかない、事件の手がかりが目と鼻の先にあるのだから。
 水鏡先生が大声で叫んだ。
「世界の調和を望まないファントム・ローズを殺してしまいなさい!」
 僕が水鏡先生のいる方向を振り向くと、そこには六人の〈ミラーズ〉がいつの間にか集まっていた。
 一人のミラーズを水鏡先先の横に残し、残り五人のミラーズが月光を浴び薔薇の匂いを嗅ぎながらたたずんでいるファントム・ローズに襲い掛かる。
 ファントム・ローズは動こうとしない。そして、ミラーズたちがいっせいに杖を振り上げて飛び掛かろうとした時、薔薇を持つファントム・ローズの手がスナップを効かせるように動かされ、薔薇の花が鞭のようになり、撓り、蛇のようにうねった。
 鞭へと変化した薔薇の花が月下のもとで華麗に舞うファントム・ローズともに〈ミラーズ〉たちを打ちのめす。
 弱まった〈ミラーズ〉に止めを刺すべく、五本の白薔薇が天に舞い上がり、槍の雨と化して〈ミラーズ〉の身体を貫いた。
 薔薇は紅く染まり、〈ミラーズ〉の身体は先ほどと同様に萎んでいき、衣服は砂と貸して消えて逝った。
 白い仮面が不適な笑みを浮かべる。
「世界のバランスを崩そうとしているのは、お前たちではないのか?」
 手に持った薔薇をファントム・ローズは水鏡先生に付きつけた。しかし、水鏡先生は全く動じるようすを見せず、声を張り上げながら反論した。
「全ての人々の魂を一つの存在として、世界を一つのモノとして統合させるのよ。それこそが完璧な調和。悩みを持つ人々は他者と溶け合い、他人を知り、全てを知る。全てを知っているモノが悩むことなんてないでしょう?」
「人の悩みを強制的に他者が解決して何の意味がある? 世界は一人一人に与えられている。自分の世界は自分自身が管理するべきなのではないか?」
 水鏡先生がファントム・ローズの言葉を聞いてせせら笑った。
「そういうあなたこそ、そこの坊やの世界に首を突っ込み過ぎているんじゃないの?」
「私は迷える仔羊にきっかけを与えてるに過ぎない、最終的な判断は彼の決めることだ」
 僕には二人が何を言っているのかさっぱり理解できなかった。
 魂や世界を一つにするとか、水鏡先生はいったい何をしようとしているのだろうか?
 水鏡先生が残った一人の〈ミラーズ〉にファントム・ローズに襲い掛かるように命じて、その隙に彼女は闇の中へと逃げて行いく。
 ファントム・ローズは襲い掛かって来た〈ミラーズ〉を軽くあしらい地面に叩きつけると、急いで水鏡先生の後を追って闇の中へと姿を消してしまった。
 残された僕は動かずに地面に倒れこんでいる〈ミラーズ〉に近づいた。
 〈ミラーズ〉とはいったい何者なんだろうか?
 奇妙な服装と、そして何よりも僕が気になっていたのは目に巻かれている布だ。
 〈ミラーズ〉の素顔を見てやろうと思った僕は、〈ミラーズ〉の顔の横にしゃがみ込み、巻かれている布を取ろうとした。
 布に恐る恐る触れようとしている僕の手が震える。そして、布に手を掛けたもののきつく巻かれていてなかなか取れない、仕方なく僕は力いっぱい強引に外した。
 〈ミラーズ〉の素顔が露わになり、それを見た僕は愕然となり言葉を失った。
 息を呑んだ。
 信じられなかった。僕の目の前で死んだはずの椎名アスカの顔がそこにはあった。。
 目を閉じて無表情で気を失っていると思っていた〈ミラーズ〉が、突然目をかっと見開き不適な笑みを浮かべた。
 僕はその瞬間、頭を殴られたような激痛を覚え、その場で気を失ってしまった――。

 薄明かりの中で頭をふらつかせながら僕は意識を取り戻した。
 手足が動かない。僕の口と手足は縛られていて、身体の自由は奪われてしまっていた。
 部屋の明かりは数十本の蝋燭だけで薄暗く、部屋の大きさ、ましてやここがどこなのかなど検討もつかなかった。そもそもここはまだ学校内なのだろうか?
 僕がそんなことを考えていると、目の前の闇から大勢の〈ミラーズ〉たちが浮かび上がってくるように現れた。そして、最後に水鏡先生が姿を現し、僕に向かって微笑んだ。
 闇の奥から人を抱きかかえた〈ミラーズ〉が二人現れた。
 一人目の〈ミラーズ〉が抱えているのは僕と同じ学校に通う三年生の先輩だ。委員会が同じで世話になった記憶がある。
 そして、もうひとりの〈ミラーズ〉が抱きかかえていたのは、椎凪渚だった!
 やっぱり彼女はこいつらにさらわれていたんだ。
 二人を抱きかかえた〈ミラーズ〉たちが僕の前を通り過ぎて行く。その〈ミラーズ〉の進む道の両脇には蝋燭が順々に灯って道を示していく。
 そして、二人の〈ミラーズ〉の足が止まると同時に、眩い光を放ちながら人の全身を映せる大きさの古めかしい鏡が現れた。
 三年の先輩を抱きかかえていた〈ミラーズ〉が、先輩を鏡の前に降ろして鏡から離れると、先輩の身体がまるで糸で操られるような動きで立ち上がった。
 最初は真っ黒で何も映し出されなかった鏡に徐々に先輩の全身が映し出されていく。
 鏡を見ていた僕は何か不自然な感覚に襲われた。……あの鏡、逆さに映ってない!
 鏡は普通、物が逆さに映るはずだ。でも、あの鏡は違った。