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霊柩電車

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この間、近所の葬儀屋の前に霊柩車が止まっているのを見た。その時にふと思った。
 この不況の折、霊柩車などというものを手配するのも高くつくだろう。だが、死体は火葬場まで運ばなければならない。ならばほかに何か手はないものか。
 そこで浮かんだのが、電車を利用するという手である。死体を電車で火葬場まで運べばきっと霊柩車よりお安くつくに違いない。
 もしも近未来、今よりももっと不況になって、人としてどうかとかそんなこと言ってられない時代が来たとする。そしたらやはりわけのわからない人はどこにでもいるもので、「じゃあ、ここらあたりでも節約しましょうかね」なんて言い出すかもしれない。
 それに政府あたりも「じゃあそれでいいよ」なんてことになってしまって、実際に私たちは『霊柩電車』を利用することになるかもしれないのだ。
 では霊柩電車が実現するとどうなるか。そこらあたりを検証してみよう。
 まずは運賃の問題である。
「いや、運賃どうのというより、まずもっとほかに問題があるだろう」とツッコむ真面目な方々。しばし待たれい。
 電車に乗る時には最初に何をしますか?ほうら、切符を買うでしょう?だったら当然、死体にも運賃が発生するはずだ。ならば死体のお値段はおいくらなのか。
 現在、阪急電車一区間が150円である。阪神電車なら140円だ。会社では会議が開かれるだろう。
「う~ん、まあ死体でしょう?さすがに140円や150円ではいかないよね」
 A社員がまずこう言うだろう。するとB社員が続く。
「うちもとうとう死体運行サービスを始めるんだから、高く取らないとな」
 するとC社員、反撃。
「ちょっとちょっと、あんまり高くしたら霊柩車と変わんないじゃないの。ま、500円ぐらいでいいんじゃないの?」
 こんな風に、どこに的を絞っていいかわからない会議が続く。そして新たな疑問も出てくる。D社員、手を上げる。
「あのう、死体の子供料金も決めないといけないんじゃないですか?」
 するとE社員、落ち込む。
「実はうちの子供が病気なんだよ。最近、熱が全然ひかなくって」
「あんたのとこの事情なんて今はどうでもいいの!」
 と、こういう風に激しいツッコミを受けることになる。で、まあなんだかんだあって、結局『大人の死体1000円 子供の死体500円 100歳以上はハッピー価格の100円』になるとする。これでまず、運賃の問題は解決だ。
 次は死体を電車に乗せる時だ。まずどうやって運ぶのか。
 柩はこの際、節約のため不必要であろう。この頃になると、「昔は仏さんを柩に入れて車で火葬場まで運んでいたんだ。それを『霊柩車』って言ったのさ。今はそのなごりで霊柩電車って言われているんだよ」という、どこかで聞いたような会話が交わされるかもしれない。
 だから運び方に関しては個人の自由でいいだろう。病院から担架を借りて運ぶもよし。なんなら風呂敷に適当にまとめてしまって、よっこいせと運ぶもよし。要はなんでもいいのである。あ、でも風呂敷はまずいかな。死体を隠すように乗ってしまうと無賃乗車できる可能性があり、それが車掌に見つかって警察に連行されるはめになる。
 そうなると、今度はまた新しい問題が発生する。
「あんた、このおじいちゃん、どこで殺したの」
 ね、いいことないでしょう?だから無賃乗車はやめといたほうがいい。というわけで、法律かなんかで「死体を電車に乗せる時は担架で」と決められるかもしれない。
 すると電車の中は一時騒然となる。
「あら、死体を乗せてるわ」なんて奥様が囁き、若い女性なんかは「きゃあー」と言って離れようとするかもしれない。それを見たまだ生きてるほうのおじいさんが、「こら!死んだ者には優しくせんか!まったく近頃の若者は……」なんて定番の台詞を言ったりする。
 死体を乗車させた家族もこの霊柩電車が普及しない内は肩身の狭い思いをするだろう。
(どうもすみませんね。うちは家計が大変なんで霊柩車ってわけにもいかなくて)
 と心の中で謝ったりする。
 車内ではこのように様々な思いが飛び交うわけだが、ここでまだ解決されていない問題がある。それは「電車の揺れ」である。
 先ほど「死体は担架で」と法律で決まったと書いた。しかし、電車というのは揺れるものである。ここがこの霊柩電車のどうにかしてほしいところだ。
 車内にはアナウンスが流れる。
「え、次はあ~、何々駅~、何々駅~」
 と言い終わるか終わらないかぐらいで、電車が急に揺れる。するとどうなるか。
「ああ、おじいちゃん!すいませんすいません、おじいちゃん、そっちにいかないで!」
 おじいちゃんは電車の揺れとともに担架から転げ落ち、そのままごろごろと電車内を転がってゆく。そこでパニックが生ずる。
「きゃあー」と女性陣は叫び、さっきその女性たちに「優しくせんか!」と怒鳴っていたおじいさんも「うわー」と転がってきた死体をよけ、車内は騒然となる。
 このような問題が多々発生するにあたり、優先座席に死体のマークが追加されるかもしれない。でも死体を座らせた優先座席には抵抗を示す者もいるのではないかと、また会議は白熱したりする。
「別に『座席』だからって座らせなくてもいいんじゃないかね君ィ」と社長なんかが言い、ここで「社長、ごもっとも!」なんてよいしょが飛び、「じゃ、君も飲みに行くかね」とその社員は飲み会に誘われたりする。
 そこで真面目な社員が話の路線を元に戻し、こうして霊柩電車の問題の数々は徐々に徐々に解決されていくのである。
「霊柩電車だけでは火葬場まで行けないわ」とおっしゃる方々、ご心配するなかれ。電車があるのだ。むろん、霊柩バスや霊柩タクシー、なんなら、霊柩ロープーウェイに霊柩ジェットコースターと利用できる幅は広がっていくが、はたして霊柩ジェットコースターが実用化されるかどうかは疑問視されるところである。
作品名:霊柩電車 作家名:ひまわり