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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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厠の華子さん

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 一刀の煌めきが三日月を描くように繰り出され、華やかに美しく血の華を咲かせた。
 真っ二つになり、もがき苦しむ鬼の前に腹を押さえる風彦が立つ。
「再び地獄に堕ちるがい……痛い、お腹痛くて死にそう……」
 風彦の声とともに風が吹き荒れ、空間を切り裂いた。
 裂けた空間はこの世界と《向こう側》を繋ぎ、空間からは悲鳴が、泣き声が、呻き声が聞こえ、どれもが苦痛に悶えていた。
 そして、鬼は《向こう側》へ堕ちて逝った。リンボウに堕とされた鬼は二度とこちら側にやって来ることも、勧誘してくることもないだろう。
 一件落着というように風彦と華子は互いに向かい合った。しかし、まだ終わりではなかったのだ。
 華子さんが風彦を見つめ、無邪気に微笑んだ。
「さて、邪魔者のもいなくなったことだし、わたくしとお遊びしてもらいましょうかしらね」
「それが召喚の代償ですか?」
「そうよ、わたくしがあれを退治してあげたのだのだから、代償を払って頂戴」
「いいでしょう、望むところです」
 対峙する二人は互いに牽制し合い、構えを取った。
 そして、華子さんが聞く。
「ところで風彦くん」
「なんですか?」
「茜ちゃんにほの字でしょ」
「な、なにを突然!?」
「ま、いいわ。いざ、尋常に勝負!」
 取り乱す風彦をよそに華子さんの鞘から煌きが放たれたのだった。

 前髪と眼鏡で目元を覆い隠し、黒い影を背負う幸薄そうな少年――蓮田風彦。
 彼は自宅の廊下を這うよう歩いていた。
 風彦は歯を食いしばり、片手は腹部を押さえている。もう言うまでもない。
 「ちぬ……お腹……痛くて……死にそう」
 ――腹痛だった。
 昔から身体が弱く、特にお腹はしょっちゅう壊している風彦だが、あの一件からは特に虚弱体質が悪化しているようだ。
 厠の前に立った風彦は、苦痛で震える手を押さえながら、ドアを三回ノックした。
 ――返事はない。
 誰もいないことを確認した風彦は勢いよくオープン・ザ・ドアした。
「きゃ〜〜〜っ!」
「ぎゃ〜〜〜っ!」
 家中に響き渡る女の叫び声に仰天した風彦は腰を抜かして床に尻餅をついた。
 厠の中には先約がいたのだ。
「ふふ、冗談よ。それより漏らしてないかしら、大丈夫?」
 と冷たい水のような声が厠の中からした。
「大丈夫でござる。倒れる瞬間にキュッと絞めたでござるよ。そんなことより、どうして華子さんが、拙者の家の厠に?」
「さあ、どうしてかしら?」
 意味ありげに華子さんは朱唇を吊り上げた。
 厠の中にいたのは、なんとあの華子さんだったのだ。しかも、なぜか手には欧米渡来のティーカップを優雅に持っている。
 便器には座っているが下着を脱いでいる様子もなく、用を足していたのではないことは一目瞭然だった。
 では、なぜここに?
 華子さんは音も立てず軽やかに、気品よく便器から立ち上がった。
 そして、濡れた唇が玲瓏たる声を響かせた。
「しばらくの間、この厠に棲まわせてもらうわよ」
「へ?」
 風彦は目を丸くした。目は前髪で隠れているので、外からは表情が変わっているように見えない。だが、風彦は心底驚愕した。そりゃもう、チョービックリって感じ。
 蒼白い顔がぬっと風彦の眼前に迫った。
「聞こえていたでしょ?」
 深さのある黒瞳で見つめられた風彦は瞬時に視線を逸らした。前髪があっても、華子の瞳だけは長く見ていられない。この瞳には底知れぬ力があるのだ。
「聞こえていたでござるが、どうして拙者の家の厠に?」
「仕方がないでしょう。学園の厠が、あんな風になってしまったのだから、ね?」
 淡々と語る華子は月のような白い顔に紅い唇を浮かばせて嗤った。
「それに、あのときの勝負、勝ったのは――。だから、あなたに一生取り憑かせてもらうわ」
「そ、そんなぁ」
 華薫る中、風彦の情けない声が虚しく響いては消えた。

  (完)