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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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魔本物語

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第8話 薔薇の宝玉


 夜の町は騒然とした。
 聖堂が突如消失したかと思うと、その周辺にあった木々や家や人々までもが消失してしまった。そのことに気づいた人々は状況も理解できないままに我先にと逃げ出した。
 静かだった町は人々の恐怖の声で溢れた。
 逃げ惑う人々に混じって逃げていたセイは突然足を止めてファティマの手を引いた。
「僕の魔導書でどうにかすることはできないかな?」
「ご主人様はバカだなぁ、こんなすっごいことになってるのに何する気? こーゆー時は逃げるが勝ちだよ!」
「でも、セシルさんを止めなきゃいけないと思うんだ」
「そんなこと言ったってボクはか弱くて可憐な女の子だしぃ。こーゆー時は逃げるが勝ち!」
「でもさ」
「ご主人様は自分の力でなんかできると思ってるの、ご主人様は?普通?の人間なんだから無理無理」
 これを言われたセイはショックを受けた。少しセイは自分のことを特別な存在だと思っていたところがあった。魔導書を手に入れて、この世界にやってきた自分を特別な存在だと思っていたところがあったのだ。
 その場に立ち尽くすセイの腕をとってファティマは走り出した。
 呑み込まれる町を尻目に逃げる人々であったが、町の出口に突如目に見えない壁が現れ人々の行く手を阻んだ。
 微かに月明かりが目ない壁に反射して輝く。その反射した壁にはびっしりと文字か記号のようなものが刻まれている。
 セイたちもあと一歩というところで町の中に閉じ込められていた。
「ご主人様絶体絶命だね、どうしようか?」
「…………」
 ファティマに尋ねられたセイは無言のまま来た道を逆走しはじめた。
「ご主人様どこ行くの!?」
「セシルさんのところに決まってるじゃないか!」
 町の中に開かれた荒地の中心にセシルはただ佇んでいた。すでに〈ドゥローの禁書〉は閉じられていた。しかし、なぜセシルは〈ドゥローの禁書〉を閉じたのか?
 セシルのもとへ辿り着いたセイは息を切らせながら佇むセシルを見つめた。セシルは少し哀しそうな顔をして空に顔を向けている。そして、セシルは〈ドゥローの禁書〉を懐にしまい呟いた。
「何かが違うような気がするのです」
「セシルさん!」
 セイが声をかけるとセシルはゆっくりと顔下げてセイのいる方向を振り向いた。
「ああ、セイさんですか。それにファティマさんも」
 セイのすぐ後ろから慌てたようすのファティマが追いかけてきて声をかけた。
「ご主人様、危ないから早く逃げようよぉ」
「待って、僕はセシルさんと話がしたいんだ」
 けれどセイは何を話したらいいかわからなかった。その場の感情に任せて勢いでセシルの前に来てしまったのだ。だから、そのまま思いついたことを口にすることにした。
「セシルさんは全ての人々を救いたいから全部無にしちゃえばいいって言ってたけど、僕はそれは違うと思います。人を救いたいって思うのはいいことかもしれないけど、みんなそれぞれには意思があるわけで、辛くたって悲しくたって生きたいと思っている人たちはいるから、その人たちを無に還すっていうのは絶対間違ってる」
 セシルはセイの言葉に静かに耳を傾け、そして口を開いた。
「辛くとも悲しくとも生きたいと思う人の執着心。そんな人々がこの世界にどのくらいいるのでしょうか、おそらくは数え切れないほどいるでしょう。しかし、わたくしにはその全員を救うだけの力はありません。いることがわかっているのに、時として見え見ぬふりをしなくてはいけないのです。救うことのできないのに手を差し伸べても相手の負担になるだけですから。人を幸福にする力はわたくしにはありませんが、今わたくしの手元には世界を無に還すほどの力を持つ魔導書があるのです――これで世界は救われるのです」
 全部なくなってしまえばという気持ちはセイにもわからなくはなかった。自ら命を絶つ勇気はないけれど、世界が全部なくなってしまえばどんなに楽だろうと考えたことはあった。セシルの考えはそれの極致であり、本当に全てをなくしてしまおうと行動した。
 セイが何をいったらいいのか考えていると、セイの背中に隠れながらも威勢よくファティマが声を張った。
「ボクはこの世界が好きだし、ご主人様と旅してる今がすごく楽しい。辛くも悲しくもないから誰かに救って欲しいなんて考えてよ〜だ!」
 世界には救いを求める人々もいれば、救いなど必要としてない人々がいる。必要もないのに手を差し伸べられても、それをお節介と感じる人がいる。それがここにいるファティマだった。
 セシルがふと自虐気味に嗤った。
「実際に多くのモノを魔導書の中に取り込み、わたくしはわたくしの思い描いていたことをしたはずだった。なのに虚しさを感じるのです。わたくしの求めていたものとは違うような気がする。なにが間違っていたのでしょうか?」
 杖に寄りかかりながらセシルは地面に膝をついた。
 〈ドゥローの禁書〉は使用者の体力や精神力を消耗させ、セシルはついに膝を地面につけた。しかし、セシルの陰が語るものはそれだけではない。落胆を通り越した空虚。セシルの心は空虚に蝕まれていた。
 動かなくなったセシルのもとへセイが駆け寄った。
「セシルさんがやろうとしたことはやっぱり間違えだったんだと思います。セシルさんもきっと心のどこかでそれに気づいてるから虚しいような気がするんじゃないですか?」
「わたくしが間違っていたのか、それはわかりませんね。何が正しいことか、何が間違ったことなのか、それは人それぞれだと思います。今でもわたくしは自分の行いが正しいと思っています」
「そんな」
 セイは落胆した。人それぞれだと言われてしまえばそれでおしまいだが、セイはセシルにどうにかして考えを変えてもらいたかった。
 ゆっくりとセシルは懐に手を入れて〈ドゥローの禁書〉を取り出した。それを見たファティマはセイの腕を取って逃げようとした。
「ご主人様一時退却!」
「あ、でも……」
 口ごもるセイをファティマは強引にセシルから遠ざけた。しかし、セシルのようすが少し可笑しい。セシルは肩を震わせて笑っていた。
「ふふっ……究極の悟りが今わかりました。そうです、わたくしがこの世界から消えてしまえばいいのです。そうすれば本当に何も見ずに済むのです!」
 表紙に手をかけて開こうとした瞬間、セシルの手が急に止まった。その手はブルブルと震え、血管が浮き出て力を込めているように見える。
「身体が動かない……!?」
 セシルがそう呟いた次の瞬間、煌く夜空の白銀の髪を持つ少女が振って来た。
 落ちてきた少女は地面に槍を突き刺しながら着地し、槍を地面に抜きながら宙を舞い地面の上に降り立った。その目の前にはセシルがいる。
「君はいったい何者ですか、わたくしの動きを封じたの君ですか?」
「いかにも妾がうぬの動きを封じたのじゃ」
 白銀の少女にセイは見覚えがあった。ドラゴンに追いかけられていた時に自分たちを救ってくれた少女エム。そして、エムはドラゴンを嗾けたとのは自分だとも語った。
 エムの声、エムの気配を感じ、エムを視たセシルの顔つきが険しく変わっていく。セシルにとってもエムは見覚えのある人物だったのだ。
「君はまさか……あの時の!?」
作品名:魔本物語 作家名:秋月あきら(秋月瑛)