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痴漢冤罪

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 電車という閉鎖空間において悪魔の証明を強いられるとは思わなかった俺は、ただ目の前の長い黒髪を持つ女性を見ていた。そこには後頭部しか見えないが美人の類だろう、とあたりをつける俺がいた。すると、
「あんたがやったんでしょ!」
 その美人は混雑した電車の中で俺に振り向き、俺にそう叫んだ。あぁやっぱり美人だ。しかし五月蝿いなぁ、こっちは用事があるのに。しかし、俺の予定なんて知らないのか、知っているのか、女は次々と俺に言葉をぶつけてきた。
「見たのよ! あんたの手が私のお尻触っているところ!」
 俺は確かに尻は好きだが、決して尻単体ではなく尻から太ももへのラインが好きなんだ、と弁解しようとしたところでふと頭に何かがよぎった。
「俺はやってねぇ! なんだ? 今流行の痴漢冤罪か? ふざけんな! こちとら用事あんだよ! それに俺はやってねぇ!」
 俺は、やっていない。しかし、頭が混乱したのか、俺の口から出る脳で一度処理された言葉は少しおかしなものになった。が、これで相手に伝わっただろう、俺がやってないということが。しかし、その期待は見事に裏切られた。
「うるさいわねっ! 見たったら見たのよ! これでも視力3.0よ!」
 普段から眼鏡着用の俺には少し羨ましくもあった。それに、間近で見るとなかなか、ランク付けするなら上の下、というところか。大きく開いた瞳、日本人にしてはかなり高い鼻も違和感なくそこにある。頬は朱に染まっているが、状況的にはしかたがない、というかそれもまたいい。だが、今はそんなことを思っている場合ではなく、
「だからやってねぇって! 大体触るなら太ももだろ! ていうか、尻から太ももにかけるラインがいいんだよ!」
 あぁ、こういうとき鞄の中にロリ雑誌かホモ雑誌でもあれば水戸黄門の印籠の如くすぐ終われるんだろうな、とか考えていると鞄の中に、ホモ雑誌が入っていることを思い出した。この時のため、入れてあったのだ。ここぞとばかりに、取り出し突き出すと、周囲から引いたような声が聞こえたような気がした。しかし、痛みを快楽に変えることのできる俺は、周囲の反応を気にせず女に言った。
「俺は男好きなんだよ! 男の引き締まった太ももが好きなんだよ!」
 言い切った。宣言した。もう大手を振って歩けない。お嫁にいけません。だがこれで冤罪から免れる、と思ったのは間違いだった。
作品名:痴漢冤罪 作家名:生クッキー