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海竜王 霆雷 年越し

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「うん、親父の手伝いでもしてるさ。親父たちも忙しいんだろうからさ。」
「はい、お願いいたします。父上が無理なさらないように監視していてください。」
「これこれ、美愛。それこそ、大事になるからやめてくれ。」
 美愛の私宮に、声が響いて、窓からふわりと、廉が現れた。同じ水晶宮に住んでいるから、出入りは、いつもこんな調子だ。
「あら、廉伯母上。それに、蓮貴妃まで、何事ですか? 」
 別に慌てることもない。何事か用事があったか、茶でも飲みに立ち寄ったのだろうと、美愛は思っていた。
「いや、小竜の正月衣装を届けに来たんだ。うちの広が、是非、着せたいと作らせたんでな。ついでに、私も作らせた。ということで、晦日と元旦の衣装だ。蓮。」
 背後に声をかけると、蓮貴妃は、恭しく前へ進み出て、塗りの衣装箱に入ったものを差し出す。どちらも、黒が基調になった包とベストの組み合わせだ、一方は、銀糸が織り込まれたシンプルなもので、一方は錦糸で派手に刺繍されたものだった。
「高そうなやつだなあー、廉ねーちゃん。」
「そりゃ、霆雷。正月の晴れ着だからな。だが、これを破くような派手なことはしないでくれよ。おまえの叔父が泣くぞ。」
 汚すのは構わないから、食べる時は存分に食え、と、廉は大笑いしている。少しきつめに誂えさせてあるので、乱暴に暴れると、身体を締め付けるようになっている。あまり無茶なことをさせないように、という、長夫婦からの心配りだ。
「あら、でも、正月の晴れ着は、東王父様と西王母様、それから、朱雀の長、白虎の長、威様、彰からも届いておりますわ。」
 もちろん、後見と、後見は外れたが、協力は惜しまないという関係者たちも抜かりはない。ちゃんと、それぞれから衣装が届いていた。基本は黒だが、やはり、綺麗な糸で刺繍されたものばかりだ。
「ちっっ、先を越されたか・・・だが、私たちのは、晦日と元旦には着せてくれ。どうせ、この小竜は、汚すだろうから数が必要になる。」
「そうですわね。」
 どうも、身体が小さくなって、行動と気持ちが合致しないことがある。だから、派手に向きを変えたりすると、こてんとすっころんでいたりする霆雷は、毎日、何度か着替えるからだ。
「それからな、霆雷、大晦日は眠らずに起きているのが、この世界の決まりごとだ。そうすると、両親の寿命が延びると言われている。おまえの大好きな深雪の寿命を引き伸ばしてやれるぞ? 」
 晦日から元旦にかけての夜は、ゆっくりと移っていく年を起きて過ごすことになっている。これを、守歳というが、それには、そのような言い習わしがあるのだ。
「親父のために頑張るっっ。」
「おお、頑張れよ。でも、張り切りすぎると沈没するから、昼寝を存分にしないといけない。わかったな? 」
「うんっっ。」
 元気一杯な小竜の返事に、廉は苦笑して、ぐしゃぐしゃと髪の毛を掻き回した。深雪の時は、こんなふうに接してやることはなかった。一人ぼっちにされるのはイヤだが、見知ったものしか相手できないという困った性格で、さらに虚弱体質だったからだ。知り合いの王夫人に頼み込んで、子守りをさせたほどだ。霆雷には、そういう心配はない。むいろ、元気すぎるから、暴れないかのほうが心配だ。




 朝から髪を整えられて、それから派手な衣装を着せられた。「これは、東王父様から頂きました。」 と、許婚が教えてくれた。それから、長男のところへ顔を出したら、四兄弟が揃っていた。みな、自分と同じような衣装ではなく、普段着の包だ。
「おや、早々に晴れ着ですか? 美愛姉上。」
「たくさん頂いたので、順番に着ていただかなければ、全てを正月に着て終われません。」
 まだ、年越しには時間がある。夕刻に食事をする時には、全員が晴れ着を着て、その席につくのだが、まだ朝だ。だから、問いかけた長男は普段着だ。まだ二日からの年賀の打ち合わせがある。
「霆雷、メシは? 」
「まだ、三兄、腹減った。」
「じゃあ、何か食べよう。おい、何か見繕ってくれ。」
 霆雷を抱き上げて、三男が側付きの女官に命じる。子供の頃は、三度食事をとるが、成人すれば二度と、途中に軽いものということになる。だから、兄たちは、お茶を、小竜には、食事ということになる。女官たちも用意はしていたのか、すぐに、食事とお茶を運んでくる。
「おまえ、今からちょっと、俺たちと遊んで、昼を食べたら昼寝するんだぞ? 霆雷。」
 その席に、美愛と共に座った小竜に四男の碧海が声をかける。とりあえず、疲れさせて、一度、寝かせておかないと、深夜まで起きていられないからだ。体力的には、やはり小竜だから、限界はある。
「うん、廉おばちゃんにも言われた。・・・俺、完徹して、親父の寿命を延ばすぜ、四兄。」
「完徹? 壮大な計画だなあ、霆雷。まあ、いいか。・・・暇つぶしに、マージャンでも教えてやろう。」
 年越しは、何も静かに待つだけではない。ある程度、静かに過ごして、それからは、徹夜だから、暇つぶしにゲームをしたり、一晩中、飲んで食べて、と、騒ぐのが普通だ。夜明けまで、そうやって騒いで、それから少し仮眠して、年越しの挨拶と食事をする。退屈すれば眠気に負けるから、とりあえず騒ぐ。そして、まだ歳若い次期様たちとなると、それも派手に大騒ぎになる。
「碧海、まだ早いですよ。」
「でも、霆雷は、人間界のゲームでやってたから役は知ってるらしいよ、姉上。」
「多少、役は違うらしいけど、そこは実戦だろうな。別に、いいじゃないか? 美愛姉上。それも、嗜みのひとつといえばそうだ。」
「父上と陸続兄上は、おそろしく弱いから、あれよりは、上手くなるだろう。」
 三男、次男が、霆雷に粥やら油條やらを口に放り込みつつ喋っている。確かに、自分は弱いけれどさ、そう明け透けに言うことはないだろうと、書物を手にした陸続が苦笑しつつ愚痴る。
「一兄、弱いのか? 」
「うーん、弱いというか、勝負事に真剣になれない性質なんだ。」
「親父も? 」
「ああ、父上は違うよ。あの方は、もういっそ清々しいくらいやる気がないから、牌を見ることもせずに捨てているだけだ。真面目におやりなら強いかもしれないね。」
「父上は、ああいう遊びは苦手みたいですものね。でも、背の君、私、あなた様が、マージャンをやっているところを見たことはございませんが? 」
 一年と半年ぐらい、人間界で美愛は一緒に暮らしていた。だが、その時に、そういう遊びをしているところを見たことはない。
「パソコンのオンラインゲームでやった。一時期、ハマってたけど、美愛が来た頃には飽きてたからだ。」
「では、人間と対戦しておられましたの? 」
「人間ともやってたな。でも、ネット上で、だから、逢ったことはない。」
 霆雷のいた人間界では、コンピューターで世界が繋がっていた。あの一人で暮らしていた家にいても、世界と繋がっていられたのだ。だが、神仙界では、そんなことはない。ゲームをするにしたって、対戦するのは、生身の相手だ。それは初めての経験で、霆雷も楽しそうだと思っている。
「夜明けまでは時間があるから、じっくりと、おまえを負かせてやるさ。」
作品名:海竜王 霆雷 年越し 作家名:篠義