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Merciless night 第二章 プロローグ

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偽りから解き放たれた空は晴夜から曇天に変わり雨を降らす。
 3年間結界に守られていた飛羽市。
 いや、『賽の目』ケイトが身を隠すため飛羽市に張られた結界。

 だが、それも今はない。

 空には月がかかっているにも関わらず雨が降る。そんな日々は今夜で終わりを告げた。
 ただ、ただ雨は街を濡らし、止まっていた街の人の行動は進みだす。
 今夜まではビルの明かりはなく、安眠の後明日から本来の街の明るさを取り戻すだろう。
 
 街の人に催眠を施しながらも街の異様さを一つも感じさせず、魔術師を一人も侵入させない結界を街に張り巡らせた魔女。

 禁呪に近い魔術を使いつつも身を潜めることが出来るのは、魔術団最高位の魔術師だからなのだろうか?
 それとも、日本という国だからなのだろうか?
 どちらであろうと、今はその結界はない。
 もう隠れることはできず、存在を現すしかないだろう。

 俺達4人に課せられた任務は、魔術団最高位『賽の目』のケイトを表に出すこと。
 しかし、その任務を放棄し一人がギガスを裏切り敵にまわったと情報が入った。
 一人が裏切ったことで戦況の状態が変わったのは確かだ。
 変わった。変化した。

 それだけ。

 本の任務が変わるわけではない。
 他人がどう思うかは分らないが、それは俺にとって些細なこと。
 戦況とは常に変化するもの。俺達は上官ではなくその部下だ。
 状況に対処し臨機応変に対応するのは上官だけではない。
 戦場にいる兵ならば自らが判断し先を進む。その場その場により思考回路を組み換え新たな選択肢を探る。任務を成功に導くには個々の能力も加味される。
 そんな中、場に対応できないものが死ぬのは戦場での必然なのだろう。
 それが出来るからといい、気取るわけではない。
 ただ作戦を達成するため俺達部下は寡黙に任務を遂行するだけだ。
 それは当然のように渡された義務なのだから。

 感情はいらず、兵士としての役目を全うする。

 そのために俺達は飛羽市に侵入しなくてはならない。そして、この街に侵入すれば何者かが行く手を阻み俺達を排除しようとするだろう。
 それは敵陣地に侵入したのだから当然のことであり、相手にとっても俺を敵視するのは自然なことだ。
 結界が破られた今、魔術団側は街に侵入してくる魔術師を全員敵と見ざるを得ない。
 それ故に、『賽の目』護衛役である『御守星』の何人かは街の外から来る更なる敵に目を見張るため動く。
 他の魔術団配下である魔術師も街に配備されるだろうが問題ではない。
 俺は見張りに動いた『御守星』を殺す。
 『御守星』かそうでないかは戦えばすぐにわかる。
 力の差は歴然であり、一般の魔術師がその差を簡単に埋めることは出来ない。
 『御守星』は『賽の目』の護衛魔術師の役目を負っている。このことから『御守星』に何らかの異常事態があればケイトは動く。
 そう俺は仮定し『御守星』を殺すことにした。

 今俺は飛羽市西部を歩いている。
 侵入する際の作戦では、東西南三方向から各一人ずつ侵入する予定だったが、突如西部から侵入するはずの織綾御が遅刻する事態により、南部からの攻撃を変更し西部の代わりを俺が引き受けることとなった。
 東部はリティが請け負っている。
 飛羽市の北部は山に囲まれているため奇襲がしやすく、それを防ぐため魔術師が多く配備されていると推測し北部からの侵入は避けている。
 今作戦に限り通常よりイレギュラーなことが多い。
 これも何かの予兆を示しているのだろうか?
 あの人が言っていたように。
 一瞬、心に浮かんだ人物は霧散に消え去り記憶が飛び誰だったか忘れる。
 自分が何を考えていたか分らないが、恐らく任務の事だろう。

 街を歩いて三分と経たぬうちに魔術師数人がこちらに近づいてくる気配を感じる。
 こちらの動きを察知する早さから、この街に数百人規模の魔術師が偵察していることが分かる。
 もう少し穏便に行動しようと思ったが、そうはいかないらしい。
 元々こちらは事を起こす側として穏便になど毛頭考えてはいないが。
 現在地は四方をビルに囲まれた裏路地。
 街灯はなく空は雨雲のため月明かりはない。
 己の感と視力が頼り。
 敵は目の前左、五階建て雑居ビル屋上に一人。
 百メートル先横に出た大路に二人。
 後方五十メートルに一人。
 この状況ならばあと数分もすれば『御守星』辺りがここへ来るだろう。
 その前に、――――――ここの四人は片づける

「ふっ……」

 脚に付加魔術を施し、跳躍し左の五階建て雑居ビル二階の窓ガラスを割り中に入る。
 俺の行動を確認し後方にいた敵と屋上にいる敵も動き始める。
 ビルの中は暗く奥行きはそこまでない。
 となれば、足場を崩されれば他のビルに移る以外助かる方法はないだろう。
 
 ゴオッ――――

 轟音と共に藻屑と化すビル。
 上を見渡せば誰もおらず、それは崩れたビルに巻き込まれたことを意味する。

「なっ……」

 崩れたビルをただ見る敵の仲間。
 その時間はただでは済まされないのだが……。

「このっ」

 どうやら後ろにいた俺にやっと気づいたらしく、魔術を使い鋭い刃物のような爪を召喚し切裂こうとする。
 それを俺は右腕で受け止め振り払う。
 行方を見失った爪は地面を抉り消滅する。
 その状況を唖然とした表情で身動きが取れない敵。
 どうやらあれが彼の持ち得る最高の魔術だったらしい。
 ならば、あとは一掃してやるだけ。
 目の前の敵とほぼ一直線上に、何を考えたのか彼を援護しに走りよる二人の影。
 俺は躊躇せず左手を敵にかざし、空気を圧縮させそれを放つ。
 爆発音とガラスが割れる音の中、ひたすら直進する暴風。
 威力を失う事を知らず、あらゆるものを巻き込み疾走するそれは、発動時とは逆に何事もなく消える。
 軽く放った空気弾だが、存外それに耐えれないほど相手は弱かったらしい。
 何も残っていないその弾道が教える。
 相手との実力の差は、やはり歴然としたものだった。
 

 止めていた脚を前に進める。
 ここにいても倒した相手から得られる資材はもうなく、留まる時間もない。
 その場を離れようとした際に、誰も挑発をしなければ。
 悪戯に誰かが、俺が被っていたフードを取る。
 その場に誰かがいたわけでなく、遠距離からの魔術使用だろう。

「フッ、ハハハハハ。お前ギガスのランク『P』、リゼル・ワイスだろぅ」

 何処からか聞こえる奇声と歓喜の声。
 その本人であろう奴は、突如空から俺の目の前に落ちてきた。
 間違いなくそいつから感じられる魔力は跡形もない奴らに比べ違っていた。
 
「まさか……先のローマでの殺戮、のヤロウが、……ここにおいでとはなぁ」

 嬉しそうに舌をすすり、獲物を狩ろうとするその眼は俺と似たものだ。
 そいつは未だ体の体勢を低くし狩る構えをしている。
 見た感じから身長は178cm前後。俺と余り変わらない程度。
 顔は左目が髪に隠れ右目だけが覗かせる。
 髪色は白く輝き、瞳の虹彩が水色であることからアジア系ではないことは確か。
 年齢も若く25、6歳だろう。