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拝み屋 葵 【壱】 ― 全国行脚編 ―

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 *  *  *

 葵を兼松の家まで送り届けた雪女は、兼松との再会を果たし、兼松は涙を流して喜び、雪女もまた素直に再会を喜んだ。
 お互いが人間であれば、めでたしめでたしとなるところだが、一方が雪女なのだから、そうは問屋が卸してくれない。
「ありゃ、まめけな?」
「今日はお別れの挨拶にやって参りました」
 雪女は両手を前に添えて姿勢を正した。
「へ? なしてさ?」
「私は雪女です」
 その声には冷たさを感じられるほどの凛とした響きが宿っていた。
「そんなこと知っとるやさ。それでもおりゃ愛しとるやさ」
「健一さん、貴方は人間です。私たちは決して結ばれることはありません」
「そんなことそわんでくりょ」
 食い下がる兼松を、雪女は頑として撥ね退け続けた。
 そんな様子を見守っていた葵は胸が苦しくて仕方がなかった。雪女の言動からお互いに愛し合っていることが分かってしまったからだ。
「健一さん、約束してくださいませんか?」
「何をそうつもりやさ?」
「もう二度と会えなくなることを受け入れてくださいませ」
「どうしても?」
「どうしてもでございます」
「……分かった。てきないけど、えーさー。だだこねてもどもならんのやさ」
 兼松は力なくうな垂れる。
「健一さん」
 雪女は兼松の頬に両手を添えて顔をあげさせ、静かに微笑んだ。
 それは兼松ただ一人に向けられた温かみのある笑顔だった。
「わりぃ……」
 雪女の体が徐々に透けてゆく。
「健一さん、愛しています」
 雪女は健一と唇を重ね合わせた。
 愛を知った雪女は、自身の内に生まれた愛の温度によって身体を維持できなくなり、ついには溶けて消えてしまう。『死』ではない『消滅』が訪れるのだ。
「おりぃも愛しとるやさ」
「健一さん、私のことをどうか忘れないでいてくださいませ」
 雪女は兼松の腕に抱かれたまま、溶けて消えていった。
 兼松は雪女の熱が消えるのを拒むように自らの肩を抱き、一言ぽつりと呟いた。

「そしゃ……な」


 雪女は死なない、溶けて消えるだけ。

 愛の温もりに抱かれ、消えてゆくだけ。

 *  *  *

 不意に吹雪が弱まり、晴れ間が差した。
「あれ、明日まで吹雪く聞いとったのに」
 葵は雲の隙間から差し込む光を見つめた。すると、訳もなくこれは雪女のお礼かもしれないと思えた。もし違っていたとしても、そういうことにしておこうと思った。

 葵は二人が愛し合ったことの証人なのだ。
 その唯一の証人が、二人の愛の結末を悲しんでどうする。たとえ一瞬だけだったとはいえ、二人の愛が結ばれたことを自分一人だけでも祝福してあげなければと、葵は思うのだった。
 そう思うようなると、恋に生きた彼女が途端に羨ましくなった。
「ウチもええ男とっつかまえて、負けへんぐらい熱い体験したるさかい」

 葵は再び歌い始めた。
今度は、空に向かって思いっきり。


               ― 愛の温度 了 ―