二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」
吉野ステラ
吉野ステラ
novelistID. 16030
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

たとえばいつか哀しい空が 1-5

INDEX|5ページ/5ページ|

前のページ
 

5









一面の緑の芝生が日光に反射してきらきらと光る。その上を、冷たい風がざあっと吹いて去っていった。
金色の長い髪を風に弄ばれながら、エドワードは空を仰いだ。空気の冷たさとは無関係のように、青い青い空には白い太陽が輝いている。
舞い上がる髪の毛をそのままに、視線を落とした。
年月を経て深い色合いを醸し出した石碑が、そこに静かに佇んでいる。

―Maes Hughes と文字が刻まれた石碑。

エドワードは何もせず、ただじっとその文字を眺めた。

久しぶり、中佐。
あんまり来れなくてごめんな。

そんな科白が頭をよぎっては、言葉にならずに消えていく。
誰よりもあたたかかった彼がずっと冷たい土の中で眠っているのだ。一体どんな言葉がかけられよう。
「もう、10年も経った…」
あのとき貴方が死んでいなければ、今でも彼の側にいてくれたのだろう。
(今やあいつも大総統だぜ、中佐…)
俺はあいつに何もできない。
あんたがいてやってくれれば。そう願わずにはおれない、今でも。己の傲慢な考えだとわかっていても。
(俺たちのために、軍のために命を落としていいひとじゃなかった)
「ヒューズ中佐…」

たとえ何年経っても、世間があの残酷な事件を忘れ去っても、エドワードのこの胸の痛みは変わることはない。

貴方は、そう言うと叱ってくれるかもしれないけれど。
それでも。
俺たちが失ったものは、大きすぎた。


エドワードは空を見上げた。
抜けるように青い空が、寒くて、痛かった。



「あれっエドワードさん?」
背中の向こうから、明るい女性の声が風に乗って飛んでくる。
どこかで聞き覚えのある声。
振り向くと、丘を登ってくる女性と手をひかれた小さな子どもの姿がそこにあった。
「やっぱりエドワードさん!」
栗色の髪の毛をはためかせながら屈託のない笑顔が近づいてくる。
見覚えのある笑顔。
「シェスカ…?」
「そうですよ~!お久しぶりです」
そこにいたのは、かつてエドワードが仲介しヒューズの下で働くことになったシェスカだった。
本の虫と呼ばれるほど読書家で、飛びぬけた記憶力を持っている彼女。
エドワードが賢者の石を追い求めていた頃、彼女にその能力で助けてもらっている。
「いや~すごく変わりましたねエドワードさん。昔はどちらかというと小柄な感じだったのに…。赤いコートがなければ気がつきませんでした。まだ着ているんですね、そのコート」
「ああ…」
「きっと」
シェスカは子どもが持っていた小さな花束を受け取って、石碑の前にしゃがみこんだ。
「ヒューズ准将もエドワードさんだってすぐに分かるでしょうね」
そう言って、花束をそっと置いた。
「…ああ」
優しいシェスカの声音に思わず目頭が熱くなって、エドワードは遠い空を見遣った。
ざあぁ… と風が哭く。
「シェスカは…退役したって聞いたけど」
「はい。結婚して…今は一児の母です」
シェスカは同じ栗色の髪の毛を持つ男の子を抱き寄せた。
澄んだ青い目がエドワードを興味深く見上げている。利発そうな子どもだった。
幼い頃の弟を思い出して、ふ、と自然と笑みが零れる。
「シェスカに良く似てる」
「そうですか?もうやんちゃで困っちゃって…」
そう言いながらもその顔には誇らしげな表情が浮かぶ。
「いいお母さんだな」
シェスカはヒューズの墓石に目をやった。
「時々、グレイシアさんとエリシアちゃんに会いに行きます。かつて、ヒューズ准将やエドワードさんたちが守ってくれたものを、私たちは子どもへ引き継いでいきたい。そう思っているんです」
「シェスカ…」
「大総統は、お元気でしょうか」
シェスカはしゃがんだまま、エドワードを見上げた。
子どもが周囲を飛ぶ蝶々を追いかけて、墓石の周りを駆け出す。
エドワードは軽く目を伏せ、微笑した。
「ああ、元気だよ」
「あの方は、誰も見ていないところで無理をされる方です。ヒューズ准将の事件の後、まるで自分を痛めつけるように、そうしないと生きていけないかのように不眠不休で事件を追っていました。今とまるで状況は違いますけど…同じように無茶をしている気がします。
でも、エドワードさんがいてくれるのならきっと大丈夫ですね」
エドワードは唇をかみ締めた。
「俺は…何もできない」
「いいえ!あなたはあの方と一緒に闘える人です。今は、あなたしかいないんですよ!」
シェスカの真っ直ぐな瞳がエドワードを射す。
「あなたは、何を恐れているんですか?」
「……!」
彼女の言葉が、エドワードの胸を刺した。
子どもがきゃっきゃっと楽しげな声を発しながらシェスカの元に戻ってくる。その子を受け止めて、シェスカが立ち上がった。
「この子にいい国を見せてあげたい。大総統は私たちの希望です。だから…」
エドワードの手を子どもが引っ張る。手の平を開くように促された。
小さな拳が手の平の上にのる。
握らされたそれは、小さな野の花。
「私たちの小さな力でも、必要なときは呼んで下さい。エドワードさん」
未来のために。

シェスカが笑った。
エドワードは子どもの青い瞳を見た。
手の中に残る小さな花が、風に揺れた。




ああ





青い青い空が、ちっぽけな人間たちを見下ろしている。
これからの未来は、お前たち次第だと
言われている気がした。