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愛妻家

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畠田登治郎先生を知っていますか。
そうです、あの十も下の奥さんのいる。
人間国宝?そうそう、あんな人間でも国宝でしたね。おかしな世の中です。
実は…その畠田先生なんですが、つい先日亡くなったんです。
といってももう1週間位前なんですが。
色々とあってまだ正式には発表してないそうなんですけど、そのうちメディアにも発表されると思います。国宝ですしね。
はい、もう72でしたから…でもあの手のじいさんは俺の経験上もっと長生きしてもおかしくないんですけどねぇ。
あ、冗談です。軽いジョークですよ。
こんなことが言いたいんじゃないんです。
…実は私、畠田先生とは何度か仕事をしてたんです。
なんとも困った頑固じいさんで、いつもいつも変てこな注文つけてはニヤニヤ笑ってるんですよ。
こっちも負けてたまるかと何度も原稿書き直しては意見を聞きに行って…そのくせ最後には最初に私が言ってたことに落ち着いたりするんです。
本当に厄介な人でした。
それに比べて奥さんはそりゃいい人でしたね。物腰は低いし優しい方で、いつも畠田先生の代わりにぺこぺこ謝るんですよ。
本当に毎度毎度ご迷惑おかけしてって…。
そうなんです。今回の件だって一番の被害者は奥さんなんですよ。
そうそう、以前畠田さんのインタビューの記事を載せた時も畠田さん本人が言ってました。
うちの女房は人一倍人様に迷惑をかけるのが嫌いでおまけに人一倍心配性だから煩くてかないませんって。
そんな奥さんが何を間違えてあんなじいさんと結婚したのかわかりませんよ。
なんでも畠田さんが無名の苦学生だった頃から交際していた様なんです。
きっと若い頃は相当顔がよかったんでしょうね。
…ともかく私はかなりの日数を畠田宅通いに費やしていました。
なんだかんだ言っても私も嫌いじゃなかったんです。
もちろん好きでもないけど、畠田さん相手だとこう仕事意欲が沸き上がってくるんですよ。
負けてたまるかこのやろーって具合いに。
そうやって無謀な戦いを繰り広げていたんですが…。
畠田さんが突然私を呼び出したんです。
どうしても頼みたいことがある、明日にでも来てくれないかって。
そんなに切羽詰まった言い方でもなかったんで、その直後は適当にはぁいいですよなんて軽く了承しました。
畠田さんが人に頼み事するなんて本当に珍しいことですから、好奇心もあって。
でも当時は私もかなり忙しい時期だったんで、さすがにひにちはもう少し延ばしてもらおうと思ったんです。
ところがそう言った途端にこっちが受話器取り落としそうなことを言いだしたんですよ。

―…おそらく今回が遺作になる。

畠田さん、やけに嬉しそうな声でした。
この作品で世の中の評論家連中をおちょくってやるつもりなんだ。雪山君、手を貸してくれないかって。
ちょっと待ってくれもう少し詳しく話してくれって慌てて尋ねたんですけどね、本人どこ吹く風でじゃあよろしく頼んだよなんて言って電話切っちゃっうんですよ。
もうこうなったら仕方ありません。
年寄りほど頑固なものはないのに、相手は芸術家ですよ?
おまけに変人彫刻家畠田登治郎ときてる。
拒もうにも拒めません。
それで仕方なく、次の日何とか時間を見つけて畠田先生のお宅へ向かったんです。
作品名:愛妻家 作家名:川口暁