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みっふー♪
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かぐたん&ぱっつんのやみなべ★よろず帳

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引きずっていた恋と髪の毛を断ち切って、すっかり元の明るさを取り戻したかに見えたぱっつんは、あれからよく食べ、よく飲み、よく笑い、……そしてみるみるブタになった。
いわゆるリバウンドってやつである。――よっこいせっと、ソファに座ってちょいどこかを動かすのもひと苦労、今じゃ自分自身がゴムまりみたいにまんまるお肉でだぼんだぼん跳ねている。
さすがにまずいと我ながらわかってはいるのだろう、しかし太っても太っても食欲はとめどないらしく、――ボクちょっと、席を外して戻ってくる度に、必ず口の周りに何かしら食いかすをくっつけてくる始末なのである。
こんなことならあの青っちろくやつれていた頃のぱっつんの方が、あれはあれでさなとりうむの眼鏡少年、って感じでイケてたかもしれぬ、などとため息交じりに思わないでもない私であった。

+++

その日銀ちゃんは珍しく真面目に仕事に出かけて留守だった。
二人きりの部室……じゃないじむしょのソファで、『ぶちレモンじゃけぇのォ!』(最新号からタイトル後尾の”ぉ”が”ォ”にマイナーチェンジしたのだ)をぱらぱらめくりながら私はちらとぱっつんの方を見た。あるいは何かいいダイエット情報でも出ていないかと思ったのだったが、『ぶち――』は硬派が売りの乙女ティーンズロード誌なので、ダイエットなぞという軟弱な特集は元来組まないのである。
「?」
気配に顔を上げたぱっつんの口の周りはけちゃっぷまみれだった。まるでポークチョップである。
「――ぱっつん、」
私はある覚悟を持って口を開いた。
「……な、何?」
手元のものを素早くソファの下に押し込みながらぱっつんが言った。
「ぱっつんさ、スゴイ太ったよね」
敢えていっさいの婉曲表現を切り捨て、私は言った。
「ふ、太ったけど……」
口周りをはんけちで拭ってぱっつんがもごもご返した。私は閉じた『ぶち――』をテーブルに置いた。
「あのねぱっつん、いまのぱっつんはきゃっかん的に見てただの醜いブタだよ、」
「……、」
俯いたぱっつんが膝に置いた手を丸めてぐっと息を飲むのがわかった。
私だって胸が痛まないわけじゃない。だいいち、私はブタさんのことを醜い生き物だなんてこれっぽっちも思ってはいないのである。あんなおいしくてかわいい生き物をブサイク呼ばわりする輩の気が知れない、むしろ憤りすら感じている、だからぱっつんが外見いくらブタさんまんまだからって、ぱっつんのことを決して醜いとは思っていない、けれど世間はそうじゃない。
「……かぐらちゃん、」
ぱっつんがぼそりと口を開いた。それからおもむろに顔を上げて、
「いまの、もう一回言ってくれないかな?」
顔肉に陥没した眼鏡の向こうから、返す眼差しはあくまで真摯だった。
「?」
私は首を傾げた。巨体を揺らしてぱっつんが立ち上がった。
「頼むよ、僕をもっと蔑んで罵倒してくれよ! オマエは醜いブタ野郎だって、ナワで縛って踏んづけて煮込んでやきうブタにしちまえって、タマ蹴りのドコが面白いんだ、バスケなんざ元来我々農耕民族にゃ骨格からして向かない競技だっつーの、アメフトに至っては……アレはその、毎年らいすぼうるとやらで盛り上がってるみたいだからまぁ良し!」
ぱっつんが垂れ流しの涙ながらに後半ちょっと錯乱気味に訴える、――えええちょっと、展開が読めないんスけどー、私は困惑した。
「……、」
涙を拭ってぱっつんがだすんとソファに腰を下ろした。安い板材の床を鳴らしてスプリングがぎしぎし言った。彼が落ち着くまで私は待った。
やがて、ぱっつんはぽつぽつと語り始めた。
「……かぐらちゃんにお前は醜いブタ野郎だって言われて、僕思い出したんだ。あの日、急に姿を消した前の晩、マ夕゛オさんが僕にどーしても頼みたいことがあるって……、」
――ひっく、ぱっつんが啜り上げた。
(……。)
――あーそっか、私は、なんとなく事情が飲み込めてきた気がした。
だからあのおっちゃん、――シンちゃんには内緒だよ、いつも私にこっそりすこんぶ代くれてたのか。私的にはマッサージ代わりにサダちゃんの背中踏み踏みするのも、土足でおっさんの後頭部げしげしするのも大差ないつもりでいたが。
「でも僕、マ夕゛オさんが突然何言い出すんだかワケわかんなくて、どーしても受け付けられなくて、……その、きっ、気持ち悪い、なんて言っちゃって……」
――わぁぁ!!
ぱっつんは到底両の手のひらに覆い切れないほどお肉のはちきれた顔を歪めて泣き崩れた。だからマ夕゛オさん、ショックを受けて出て行っちゃったんだ、それを僕は、僕ってヤツは、……自分は何にも悪くない、被害者は僕なんだ、これ見よがしにやつれてみたり髪ぼーぼーにしてみたり、とんだ卑劣なダメガネ野郎さ!
「ぱっつん……」
私はぱっつんに掛けるべき言葉を持たなかった。涙と鼻水と、あとけちゃっぷ少々まみれの顔を上げてぱっつんが言った。
「だからさ、頼むよかぐらちゃん僕を踏んでくれ! このブタ野郎って思きし罵りながら、そしたらボク、あのときのマ夕゛オさんの気持ちがわかる気がするんだ、」
「……」
ソフェに足を組み直し、肘を抱えて私は息をついた。
無茶苦茶な理論ではある、しかしそうしなければ彼が前に進めないと言うのなら、よろしい、ダチとして協力しましょう!
「……んじゃそこ膝着いてみて、」
ソファを立ち上がった私はぱっつんに支持した。よたよたしながらぱっつんがよっこらせっと床に転がりつくばった。
「――それでは、」
私はぱっつんの後頭部めがけ、チャイナシューズを振り上げた。
――せーのっ!
「……オマエら何やってんだ?」
間一髪、不意にじむしょの戸が開いてドン引き顔の銀ちゃんが立っていた。懐手の反対に握ったナワの先には半纏に草履姿の等身大のストラップ……、いや本物の人間がぐるぐる巻きに繋がれている。
「……マ夕゛オ……、さん?」
床から顔を上げたぱっつんが呆然と呟いた。がしがし天パを掻いて銀ちゃんが言った。
「一人で行こうとするとどーしても途中で足が止まっちまうからって、自分とっ捕まえておまえのとこまで連れてってくれって、仕事として依頼されてな」
「……や、やぁ……、」
――ちょっと見ないうちにすっかりワイドスクリーン仕様だね、うっかり口に出かけたと思われる無粋な言葉を髭面に飲み込んで、おっちゃんはグラサン越しの薄ら笑いを浮かべた。
「――!」
瞬間、自分がブタであることを忘れたかのような機敏な動作に立ち上がり、ぱっつんは鬼の形相でおっちゃんの前に立った。