二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」
みっふー♪
みっふー♪
novelistID. 21864
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

かぐたん&ぱっつんのやみなべ★よろず帳

INDEX|10ページ/25ページ|

次のページ前のページ
 

+++++5



その晩私は眠れなかった。頭の中に昼間のロンゲのマッパがちらついて……じゃなくて、とにかく私は無性にお腹が空いていた。
いつもだったらこっそり起き出して行って冷蔵庫をあさるのだが(そして翌日銀ちゃんに一日ちくちくイヤミを言われるのだが)、今日はその銀ちゃんがじむしょで夜更かししてるので隣の部屋に出て行けない。
「……」
布団の中で頭を動かすと、障子の隙間から差すじむしょの灯りが顔に眩しい。そろり私は起き出して、事務机のちぇあに座っている銀ちゃんを覗き見た。
銀ちゃんはコップのいちご牛乳をひとりでちびちびやっていた。このところ寝付きも寝覚めもお肌の調子もよろしくないので、あるこーるは極力控えているらしい。
(――、)
ごっくん、私の喉が鳴った。あああのいちご牛乳、ひとくちでいいから、――いんやひとくちなんかじゃ足りるものか、たらいいっぱい飲み干したい、私はついふらふらと障子を開けて向こうに出て行きそうになった。と、
「……銀さん、」
――ちょっといいかい、別の部屋に続く襖が空いて、マ夕゛オのおっちゃんが……んん?! おっちゃん?! おじいちゃんじゃなくて?!
(……、)
私はごしごし目をこすった。極度の空腹でマボロシを見たかと思ったのだ。
しかし幻覚でも目の錯覚でもなかった。何度二度見で確認してみても、マ夕゛オのおっちゃんはふさふさ黒髪のれっきとしたおっちゃんだった。ぱっつんの愛にシバき倒されて、白毛のおじいちゃんになってしまったのではなかったのだ。
「あんたもやるかい?」
いちご牛乳の紙パックを掲げて銀ちゃんが言った。おじいちゃんでないマ夕゛オのおっちゃんを見ても別段驚いている風でなかったことから察するに、銀ちゃんはおっちゃんの秘密を知っていたことになる。私は障子の隙間に聞き耳を立てた。
「……」
おっちゃんは少し考えて、水屋から取ってきた空のグラスを差し出した。おっちゃんのグラスに銀ちゃんがいちご牛乳をなみなみ注ぐ。
「そんじゃ、」
軽くグラスを上げて、おっちゃんはいちご牛乳に口をつけた。――うっ、ひとくち飲むか飲まないか、おっちゃんの肩が波打った。
「げ、激甘だなしかし、」
おっちゃんはハハハと愛想笑いでグラスを置いた。おっちゃんの味覚は正しい。コドモの私でもあの甘さは脳に来る、それを好んで飲む人間の気が知れない。
「……やっぱり出てくのか」
自分のグラスにおかわりを注ぎながら銀ちゃんが言った。――んっ? 出てくってどういうこと、私は障子に張り付いた。
「……ああ、」
――すちゃ! いつもの決めポーズにグラサンを持ち上げておっちゃんが言った……んじゃないかなたぶん、というのは、ここからはおっちゃんの丸めた背中側しか見えないからだ。
「なんだかあの子を騙しているみたいで、やっぱり心苦しくてね」
おっちゃんがぽつりと言った。
「そうか? 本人が幸せならそんでいーんじゃねぇの、」
銀ちゃんの言い方は素っ気なかった。だけど冷たいとも私は思わなかった。
「そういうわけにはいかないよ、」
そう言って少し寂しそうにおっちゃんは笑った。銀ちゃんは黙ってコップのいちご牛乳を呷った。ひとりごとみたいにおっちゃんは続けた。
「……ムチでぶたれてリアルにおじいちゃんになってた最初の二、三日は楽しかったよ、だけど元のおっさんに戻って、それをあの子に言い出せなくて、うぃっぐなんかでごまかして、私と散歩に出かけてあんなに楽しそうにしてるのを見ていたら、もうずっとこのままでいーんじゃないかって、ふとそんなことを思ったりもして」
「どっち選んでもアンタ次第さ、」
牛乳ひげを袖で拭って銀ちゃんが言った。やっぱり敢えて突き放すような言い方だった。障子の陰で私は小さく息をついた。
「アイツの愛が本物なら、どこまで逃げてもあんたを追っかけてくるだろうし、そうじゃなかったらワラ人形こさえてガスガス五寸釘でも打ってるか、……ま、それも一つの愛の形なのかもしれないけどな、」
銀ちゃんは肩を竦めた。
「――俺はね銀さん、」
おっちゃんが言った。銀ちゃんはさらにいちご牛乳のおかわりを注ごうとしたが紙パックは空だった。――チッ、銀ちゃんは舌打ちした。おっちゃんは構わず続けた。
「私は、どこまでも走れる限り全力で逃げるよ」
「……」
銀ちゃんが半眼におっちゃんを見上げた。さっきまで丸まっていたおっちゃんの背中は、今はしゃんとしていた。
「あの子の全力の愛に報いるには、例え憎まれたって恨まれたって、私にできるのは全力で逃げ続けることだけさ、それをうっかり、おじいちゃんになっちまったのをいいことに、この際ちょっと休もうなんて……」
「それもらっていい?」
おっちゃんの話を遮って銀ちゃんが言った。おっちゃんが飲みかけてやめたいちご牛乳のグラスを指差す。
「あっ、ああ……」
――いいともさ、おっちゃんは頭を掻いて苦笑いした。
「あー、すっげ精神安定する〜、」
グラスのいちご牛乳をグビグビ飲み干して銀ちゃんが言った。障子のこちら側からでもわかる、ありゃ完全に目が据わっちゃっている。
「大丈夫かい?」
おっちゃんが少し心配そうに銀ちゃんに訊ねた。「いくら好物だからって、そんな糖度の高いもの、体に悪いよ飲みすぎじゃないか?」
「……飲まなきゃやってらんないときってのは、飲んでもやってらんないときなんだよ、」
――ダシ! 事務机にグラスを置いて銀ちゃんが言った。
「……」
わかったようなわからないような、おっちゃんは曖昧に首を傾けた。どこを見ているのか、定まらない視線のまま銀ちゃんは言った。
「今いる場所が幸せか幸せじゃないのか迷ってわからなくなったとき、だったらアンタは行けばいいさ、本物の幸せってヤツを探しにな、」
(……。)
――うーん、何かすごくいいこと言ってるよーで別にそーでもないよな、私は思った。