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コンビニへ行こう! 後編

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take3 体温は急上昇




折原臨也は、昔、雷の音が嫌いでマンションの部屋を防音にした過去を持つ。
したがって嵐の日などは部屋に居れば快適に過ごせるのだが、今日ばかりは、そのせいで非常に困っていた。
何がって、静か過ぎるのだ。
「え、っと、紅茶お代わりは?」
「あ、十分頂きました、お構いなく」
「そう……」
しーん。
「あ、あの、朝ごはんとかは、どどどど」
「まだそんな時間じゃありませんし、僕は結構です。臨也さん、食べたかったら僕に気を使わずにどうぞ」
「いや奇遇だね!俺もまだおなかすいてないかもしれない!」
「そうですか」
しーん。
……。
沈黙が、痛い。身に突き刺さるかのように。
ど、どどどどうしよう!どうすればいいんだ!と半分パニック状態の臨也は、まともに帝人を見ることもできずに視線を挙動不審にさまよわせた。
嵐の中を突っ切ってきたせいで雨具もろくに役に立たず、臨也の家にたどり着いた頃には二人ともずぶぬれだった。何も考えずに「風邪ひくからシャワーあびてきなよ、着替えは用意しておくから」とかなんとか言ってしまい、帝人は素直にそれにしたがってバスルームに消え、着替えを用意したあたりでその言葉がどれほどに大胆だったかを思い知ったりした臨也である。
シャワー、浴びて、こいとか。
な、ななななにそれ!何その恋人っぽい台詞!俺が言ったの!?ホントに俺が帝人君に言っちゃったの!?
きゃあああ!と顔を真っ赤にして地団太を踏み、臨也は恥ずかしさで死にそうな頭を抱えた。そしてシャワーの音だけが響き渡る部屋で、恐ろしく冷や汗をかきながら帝人がお風呂を終えるまで正座で待った。バスルームから出てきて「臨也さーん」とリビングの扉を開けた帝人が、一瞬絶句して、
「……何してるんですか?」
と訪ねるくらいにカチコチに固まって待っていた。心頭を滅却すれば火もまたなんとかってやつである。心を無にしなければ、あらぬ妄想で一杯になってしまいそうだったわけだ。
が、甘かった。
風呂上りの帝人の濡れた髪、赤く染まった頬に、少し大きな臨也のルームウエアをだぼっと着込んだその姿ときたら。
神様俺の理性をどこまで試す気ですか、と言うくらいに、こう、脳髄に来るものがあった。もしも臨也に宿る理性と言うものが後もう少しでも希薄だったならば、おそらく帝人の姿を一目目にしたその瞬間に飛びついて押し倒していたかもしれない。今も向かい合って座りながら、ルームウエアの襟もとから見え隠れする鎖骨にものすごい勢いで欲望とか煩悩とか劣情とかが暴れそうになるのを押さえるので一苦労だ。
大体、俺が着るとかなりタイトなルームウエアだぞ。それをここまで余して着ている帝人君は、どれだけ細いんだって話だ。
やはりあれか。天使だから飛ぶ為に体重も軽いのだろうか。そんなことをぼんやり考え、臨也はちらちらと帝人に視線を向けている。と、そのとき。
「そういえば」
「は、はい!?」
突然、今まで黙り込んでいた帝人が口を開いた。
「な、何、おなかすいた?どうかした?おなかすいた?」
「いえ、そうじゃなくて。あの、疑問だったんですけど聞いてもいいですか?」
「何でもどうぞ!」
会話は大事だ。あんな静寂の中で二人きりだと、どうしたってその体に注意が向いてしまうが、会話があれば言葉選びに集中できる。
どんなことでもどんとこい!という姿勢で帝人の次の言葉を待てば、帝人はじっと臨也を見詰めて、とても深刻そうに、尋ねたのはこんなことだ。


「最近、なんでプリン買わないんですか?」


「……うん?」
「だって、少し前まで毎回プリン買っていたのに」
「え、ああ、そうだね」
「何で最近はガムとか栄養ドリンクとかばっかりなんですか?僕、ストロー準備して待っているんですよ?」
「え、えーと」
「新発売のプリンだってたくさんあるのに……。臨也さん、どうしちゃったんですか?」
繰り返すが帝人はとても真顔である。
臨也がプリンを最近購入しないことが、そんなに残念なのか。とても悲しそうにそんなことを尋ねられると答えに窮する。正直に答えるならば、プリンというのはストローをつけるインパクトで帝人に覚えてもらう為の作戦だったわけで、最近はすっかりお友達なので必要がなくなったのだ。
と言うかそもそもそれほどプリン好きじゃないし。いや、美味いとは思うよ、思うけど、毎週食べるには飽きるでしょ。
「えーっと、ほら、味覚の変化っていうか、今はプリンと距離をおきたい感じっていうか」
苦し紛れにそんなことを言って見るのだが、帝人は益々首をかしげて眉を寄せる。
「臨也さん……もしかして吸引力が落ちてきてプリンをすえなくなってきたとか……」
「いやいやいやいや!何その掃除機みたいな!俺の吸引力は変わらないよ!」
「だって、他にどんな理由が。あ、もしかして甘いものばっかり食べているなって怒られたんですか?」
「誰にだよ!そんなことで怒られる年じゃないよ!?」
「自由にできるお金も少ないでしょうに」
「だからなんでそのイメージなの!?俺立派に独り立ちしてるから!ニートじゃないから!」
「例の、情報屋とか言う中二病職業は名乗るのをやめたほうがいいと思うんです。普通、収入を得られないならそれは職業とは言えませんよ」
僕、臨也さんの未来が心配です。
真顔で言い切られて、臨也は本気で言葉を失った。いや、そう思われていることは知ってたけど!知ってたけどそんな本気で心配されたらどう反応すればいいのか。いや、負けるな折原臨也。ここで誤解を解かなければ、またいずれ同じやり取りを繰り返す羽目になるぞ!
臨也は自分を奮い立てて、できるだけ冷静に言葉を選びつつ、「あのね、」と説明をしようとした。しかしその言葉にかぶせるように、帝人の「まさか」という声が。
「臨也さん、お医者様に甘いものを止められて……!?」
「違うから無いからありえないから!」
「そんな!そうだったなんて……なんでもっと早く言ってくれないんですか!糖尿病なら命に関わ……」
「やめてええ!それ以上俺のイメージを崩さないでぇええ!」
……臨也の天使は、若干、思い込みが激しい。いや、若干じゃないか。とても思い込みが激しく、頑固である。「きっとこうだ!」と思ったらそれしか認めないその一面も、可愛いとは思うけれども、それにしても臨也にとってはダメージが大きすぎる。
半分泣きながら叫んだ臨也の声に、ようやく帝人も違うらしい、と認識をした。
「落ち着いて臨也さん」
「俺は落ち着いてるよ!俺は健康だよ!自動販売機に当たっても平気なくらい頑丈だよ!」
「あーもう、泣かないでくださいよ。ちょっとした勘違いじゃないですか。最近は糖尿病も若い人に増えてるって聞いたからつい」
つい、で糖尿病にされたら困る、素敵で無敵な情報屋的に。
「……でもあの、本当にストロー用意してまってますから、いつでも買ってくださいね、プリン」
にっこり。
今さっき泣かされたといえども、相手は臨也の天使。そんなに綺麗に微笑まれたら、根に持つこともできやしない。思わず「うん」と頷いて、またプリン買おうかなとか考えてしまうあたり、もう末期である。
作品名:コンビニへ行こう! 後編 作家名:夏野