小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

海竜王 霆雷10

INDEX|1ページ/5ページ|

次のページ
 
以前、連れて行かれたのは、深海だった。しかし、黄金色の竜は、海上を滑るように移動して急上昇した。高く高度を上げられれば、酸素が少なくなってくるし、温度も急激に下降する。しかし、その状態に陥ることなく、黄金色の竜は、雲海へ突入した。乳白色の雲の中は、しっとりした湿度のある空間だったが、上昇しても温度が下がることも酸素が減少することもない。

 そのことに気付いて、彰哉は首を傾げた。

・・・おかしい・・・この勢いなら、すでに成層圏じゃないのか・・・・

 五万フィートというのが、何キロなのか正確にはわからないが、地上から、それだけ上昇すると成層圏という酸素が存在する限界ギリギリの地点になるはずだ。しかし、自分は、苦しくも寒くもない。そのうち、ずぼっと、その雲海を抜けたら、真っ青な空が上空に広がっていた。

・・・あれ?・・・・

・・・彰哉、ここは、あなたがた人間界の空間ではありません。神仙界の領域です。・・・・

 美愛が、頭の中へ直接に言葉を話してくる。ああ、なるほど、と、彰哉も納得した。異空間というか、連続する次元というか、そういうものに、自分は侵入しているということだ、と、理解した。
 眼下の雲海は、たぶん、その異空間同士を繋げている通路のようなものだろう。そして、上空には、澄み切った青空が存在している。彰哉は、気象に、それほどの造詣はないが、これが健全な青空というのだろうな、と、自分が普段、見上げていた空と比べて感心した。現在の人間界の空は、こんなにクリアーブルーの空になることはない。どこか煙ったような感じがする青色の空だった。人間が、地球上に増えすぎて、地球上の空気が汚染されてしまった結果だ。人間が増え続けていくことで、地球を少しずつ崩壊させていくのだ。

・・・なあ、美愛・・・もし、人間界の地球が滅んだら、こっちは影響があるのか?・・・

 疑問に感じたので、尋ねてみた。すると、同じ方法で、美愛が答えをくれた。もちろん、地球が崩壊すれば、こちらの神仙界も滅ぶことになるだろうということだ。

・・・おそらく、そうはなりません。もし、人間が必要以上に増えていると、地球が判断すれば、自然淘汰が始まります。それによって、人間を絶対数まで減少させて、地球は再生を図るはずです。自然淘汰による影響が、神仙界に及ぶことはないと思います。・・・・・

 地球は、ひとつの生物のようなものだ。だから、自ら黙って滅びを待つようなことはない。自分が再生できなくなる限界点がくる前に、それなりのことはやるだろう、というのが、付け足された。

・・・・生き物だって?・・・地球が?・・・・

・・・はい、あなたが考えているような生き物に該当するわけではありませんが、地球は生きているのです。マグマを対流させ、水分が干上がらないように、自らで調整しています。それは、生きているということに該当します。・・・・・

 惑星としての寿命というものが、星にはある。所属する星系の恒星が新星となれば、その惑星も道連れとなって、共に消滅する。それまでは、惑星は生きていることになる。惑星本体が、それと関係なく消滅することがあれば、それまでの引力関係が崩れて、やはり、星系にも何かしらの影響が出てくる。それを阻止しなければ、星系は寿命を全うすることはできない。それらを、わかりやすく説明しながら、空の散歩を楽しんでいたら、前方から二匹の竜が現れた。
 慌てた様子もなく、黄金色の竜は、その方向へ進む。さっと、二匹の竜は、左右に別れ、黄金色の竜のために道を開けた。紅と黒の竜は、黄金色の竜が通過するまで静止して、黄金色の竜を挟むように背後から従ってくる。

・・・心配しなくても、迎えがまいっただけです。・・・・・

 最初からわかっていたことだ。竜だらけの世界に行くと言ったのだから、こんな巨大な生き物だらけになる。わかっていても、やはり、その巨大な生き物には目を奪われる。相手は、彰哉には目もくれず、美愛に迎えの口上を告げて、侵入する門へと誘導するために、前に飛び出した。
 しばらく、そのまま飛び続けていたら、前方に、とてつもなく大きな門が見えてきた。後で、聞いたら、それは通用門のようなものだと言われ、彰哉は絶句した。





 門を通過して、やっぱり、彰哉は絶句する。眼下に広がっている建物は、目が届く限り続いていたからだ。古い寺のような建物だが、大きさは、見たこともないほど大きく、さらに、それが、点在している。点在する建物の傍には、池があり、大きな森もあった。さすがに、巨大な生き物が住んでいると、こうも大きなものになるのか、と、彰哉は驚いた。自分を乗せた黄金色の竜は、緩々と下降して、近くの建物の前に下りた。
 とんっっと、首から降りると、美愛も人型に変化した。その手には、彰哉が唯一持ち出したリトグラフがある。
「お帰り、美愛。」
「無事で何よりだ。」
 すぐ傍で、こちらも人型になった紅と黒の竜が、軽くお辞儀して、挨拶している。
「ただいま戻りました。端、元鎮、父上たちに先触れをしてくださいな。」
「いや、すでに、私宮のほうで、ふたりして待っている。」
「そうですか。では、参りましょう、彰哉。」
 目の前の建物に向かって、美愛が歩き出す。挨拶しなくて、いいのか? と、彰哉が尋ねると、「私たちより、まず先に、美愛公主の両親に挨拶してくれ。」 と、ふたりの男は笑って、導いてくれた。


 建物の玄関には、また、違うものが待っていたが、こちらも、挨拶しないで、そのまま誘導してくれるだけだ。かなりの距離がある廊下を歩いて、辿り着いた扉を通ったら、若い男女が待っていた。
「父上、母上、ただいま、戻りました。・・・私くしの背の君を紹介させていただきたいと存じます。」
 美愛は膝を折り、男女の前で、そう言って、叩頭する。
・・・え?・・・これが両親?・・・・
 確かに、女性の方は、少し若いと思うぐらいで、美愛の母親と言っても通りそうだったが、男性のほうは、美愛と同じ年と言われても通りそうな若さだ。ふたりとも、初めて美愛と会った時の衣装に似たものを着ていた。美愛の言葉に、ふわりと、ふたりして微笑み、「喜んで、お聞きいたしますよ。」 と、男性のほうが頷く。
「彰哉、私の両親です。・・父上、母上、私の背の君になられた月灘彰哉です。どうぞ、よくお見知りおきください。」
「えーっと・・・月灘彰哉です。・・・なあ、美愛、あんたの両親、めっちゃ若くないか? 親父なんか、あんたと同年代にしか見えないぞ。」
 顔はよく似ている。親子だと判るのだが、年齢が、どう考えても合わない。それを聞いて、両親は苦笑している。ゆっくりと、母親のほうが手を差し出す。
「初めまして、月灘彰哉。私くしが、美愛の母で、華梨と申します。こちらが、私の背の君で、美愛の父親である敖良(あお・りあん) 字は深雪と申します。遠いところを、よくいらっしゃいました。ゆっくりと滞在してください。・・・・娘と夫は、三百年ほどしか年が変わりませんので、見た目には同じように見えると思います。」
 握手すると、今度は、父親と言われたほうも、手を差し出す。
作品名:海竜王 霆雷10 作家名:篠義