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除霊師~藤間道久の物語 1・藤間道久(1

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除霊師〜藤間道久の物語

1 藤間道久 

神奈川県横浜市某所

雑居ビルが立ち並び、ビルの隙間を程よい陽の光が街を照らしている。
街は車と人ゴミの喧騒に紛れ、静かな場所を探し出すほうが難しい中、ある雑居ビルにいる義肢装具士は気だるそうに、
自身の仕事場のソファーに仰向けになって音楽を聴きながら仕事の事を忘れて眠っていた…。
時刻は、夕刻に差し掛かり始めたころ。
まだ、普通の社会人なら仕事に勤しんでいる時間帯である。
果たして、そんな事をしていて仕事が成り立つのか?という疑問があるのであれば、成り立つ、と応えるしかない。
義肢装具士の名前は、峰岸悠希。
男とも女とも取れるこの名前は、義肢装具士の業界では知らない者はおらず、義肢を使うものにとっては一度は会ってみたいと思うような仕事をしているのだ。
彼女の作る義手・義足・装具は、使用するものに自分の体があるのかと錯覚させるかのような感覚をもたらす、と巷では有名なのだ。
彼女の作るそれは節電義肢に近いものだが、通常の節電義手とは違い、普通の腕と見た目も変わらず、
外見も義手とは想像出来ないくらいのものだ。
それゆえにメンテナンスの手間はかかるが、それでも彼女への依頼は現在、一年待ちという状況だ。


彼女の耳に流れてくるのは、C.ドビュッシーの交響的素描「海」の第三楽章「風と海との対話」。

ドビュッシーの最高傑作の一つ。
ドビュッシーは元々、東洋文化に深い関心があり、この曲は、葛飾北斎の【富嶽三十六景神奈川沖浪裏】という絵を見てインスパイアし、作曲されたもので、
低音楽器の重低音が波を、高音楽器の流れるような旋律が風をイメージさせるまさにタイトルどおり、交響的素描という音楽的スケッチを曲の中で海を描写させる
名曲である。

彼女は、自分の精神状態が不安定になると必ずと言っていいほどにこの曲を聴いて自分の心を安定させるようにしている。

ちょうど、何回目かのリピートが終わる頃、事務所のドアが何の前触れもなく開くと、姿を現したのはいかにも大学生というような風体をした若者だった。

「なんだ、また寝てんのか、この人は。」
「なんだとは何よ、起きているわよ。というか寝ていない。精神統一をしていたところ。」

悠希は、閉じていた眼を開いて事務所に入ってきた学生風の若者に気だるそうに、自分に向けられた間違いを否定した。