小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

神社奇譚 2-2 未確認飛行物体

INDEX|1ページ/4ページ|

次のページ
 

 1


私はひょんなことから神社の役員になった。

今となっては住宅街の真ん中の小高い丘に鎮座する小さな神社だ。
だがこの辺りの総鎮守として人々の崇敬を集めている。
いつもは社務所の奥にある管理人の家があり管理人は居るが
宮司は常駐はしていない。
その辺も寺の住職とは違うところで、
神職と云うもの、本務社の他に兼務社を持っている。
それでも何も仕事が無いときは宮司はここの神社に詰めてはいるが
いろいろとやることは・・無さそうで、意外とある。

私は本業は会社員であるので休みの日に限っての
手伝いであるのだが、それでもいろいろとやることがある。
宮司も気を遣って、飽きずに済むようにか_。
それとも気も遣わずに、何から何までさせようというのか_。
多様な仕事を仰せ付けるものだから
もともと不器用な私も段々とこれでも器用になってきた。

境内地の植栽の伐採から、半紙を切って紙垂(シデ)を作るなど
それも様々なサイズがあって中々大変なものがある。
後期高齢者に突入した宮司ひとりにさせる仕事としては
これはなかなかの作業量ではある。

で、もともと単純作業が嫌いではない私と
母子家庭の母親である管理人と二人係りで紙垂を作っていると
社務所の奥にある四畳半の宮司部屋から宮司が難しい顔をして出てきた。
険しい表情のまま、私らふたりに軽くねぎらう言葉をかけると
作業に使っていた道具を片付けさせて
真ん中に座り込んで二人を見る。

なにか言いたげに口を開けるが、言葉にならないらしく
訝しげに「毛筆をしてくれまいか」といい
女管理人と私は面喰ってしまった。
なにせ思い浮かぶだけでも毛筆などというのは
私の場合、小学生以来ではないか、と。
女管理人にしても息子の手前、年賀状もパソコンにしてしまいましたから
と云う始末なのだが、宮司は「いやぁ偶にはいいもんですよ」と。
だが、険しい表情は余り変わらない。

で、即席に毛筆の準備を始めると
宮司は自ら書いた祝詞を私らの前に広げてみせた。
「これは大祓えに用いる大祓詞(おおはらえことば)です。
まぁ私が書いたものであるが故、見易い字ではないのですが
参考にしてもらって書いてみてくださいな。」

イメージ的に般若心経とかを書き写していくような、「写経」のような
横長の和紙にびっちりと書かれた文字列にまず驚かされる。
一文字一文字が緻密に書かれており、毛筆と云うよりはペン習字に
より近いようなもので、何も解らぬ私にとっては中心線を外して右側に
寄せて書いてある漢字が、また非常にアンバランスな印象を持った。

宣命書きと云われる書体は、なんとも珍妙な書体で
名詞などの体言及び動詞などの用言以外の送り仮名の漢字を
小さく右上に寄せて書くのでる。

これを写すんですかぃ?

「あぁ・・何事も真似から入るのですわ。」
意を決して大きな和紙に細い筆で墨を垂らし始めた。
書いてみると、下手は下手也に・・・いやいや真っ直ぐに書けてもいない。
文字の列を上から書いていくだけなのに列が左右に揺れてしまう。
それを正そうと必死に書き進めると更に逆方向に列が流れて。
をひをひ、子どもの習字より酷いぞ。
等と照れ隠しの笑いではなく情けないあまりの「笑うしかない」笑いが込上げてきた。

宮司はどうも今日は表情が険しいままだ。
ヘラヘラ笑う私のことを怒っているのだろうか。
宮司は「書きながら聞いてくださるかな_。」
私は姿勢を但し座りなおして、ハイ、と云うと
その声が素っ頓狂に響いてしまい女管理人はクスと吹き出した。
それからひととき静寂を取り戻したときに、ようやく宮司は重い口を開いた。

「ところで・・宇宙人ってみたことありますか?」

あまりに突拍子も無い言葉に、筆が滑ってしまい和紙を汚してしまった。
宮司はそれでも真剣な顔でいて・・。
「いやぁ・・すまないねぇ・・」と心無く・・謝罪した。